ATA

 ぼけーっと一日中、窓の外を眺めて過ごしてしまう。

 授業中にいきなり勃発するディベート、隣の超根暗デイトレーダー宮地が、ほとんど個室状態に囲ったモニター見ながらぼそっと「三億ゲット」、高校ではあり得ないつぶやき。

 ところどころ、記憶にあるものの、周囲が、どしゃ降りの車内にいるみたいにぼやけていた。

 ふと、我に返る。

 あ、ロッカーにスマホ忘れてきた。

 謎の彼女が現われなかったら、今頃、全部投げ出して逃避行中のはず。

 そんな現実逃避に足技かけて、見事一本技でひっくり返し、この広い街のどこかへ消えていった彼女。あの灰色がかった瞳に今もずっと、吸いこまれている自分にに気づく。

 

 とりあえず、スマホとりがてら、現場に戻ってみっか。

 犯人は現場に戻る。もしかして、再会!? いやいや、犯人はこっちか・・・

 席を立ってカバンを肩にぶら下げた。


「ねえ、もう、帰るの?」

 教壇から、椿に声をかけられる。薬草女子の天野もいっしょ、不思議ちゃんのパッチリオメメでぼくのことを覗き見ている。

「蝋人形の陰キャがバレちったし。蝋人形館に帰って、ガラス張りのショウケースん中でつっ立ってねーと。泣き虫だから、うえーん!」

「て、いうか~バケツが~」

 天野に顔を赤らめながら言われて、ガッコンガッコン、バケツに足突っ込んだまま歩いている自分に気づいた。

「天野! コレどうすんだ!」

 謎の彼女と、今度は蝋人形君じゃなく、バケツ君になって再会。

 かんべんしてくれ!


「それ~、固まっちゃうとことろがあ、まだ、未完成なんです~」

「いや、足痛いのは、マシんなったよ! けど、良くしておきながら動けなくしてどうすんだ、オマエ」

「そんなあ、つもりじゃ~」

 ぱっちりオメメが潤んで大粒の涙がこぼれた。

「青矢! 体良くしてもらった、相手の心傷つけて、あんたこそどうなの?」

 椿の鋭い瞳に胸を射られ、ぼくはバケツを引きずりながらすごすごと退散。

「はい、おっしゃる通りで。このまんま棺桶まで入ります」

「阿多!」

 目の覚める閃光の手刀が足元を破壊。

「岩山両斬波!!」

 バケツの中で足を固めていたピンクの溶液がガラス状に砕かれた。

 足元がバケツから解放。風通しよくなって、パッと目が覚める。

 おいおい、今までのボンヤリ感て、副作用なんじゃ?

 うるうるの瞳でぼくを見つめる天野に言いかけ、慌てて口を塞いだ。

 Pro科であるが故の疎外感を背負って、みんなここで寄り合っている。この天野も・・・そして、バケツを一撃で粉砕したハンドルネーム、ケンシロウは別として。

 

 










 

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