ROUNINGYOU

「いいんですかあ?!」

「キモくなかったら。どうぞ。プロ高かよってるもんです。なんか、見たことない制服で、つい声かけちった」


 プロ高と言う響きに、人それぞれ違う反応を引き起こすもの。が、その知名度だけは確かだ。と自惚れていたぼくの手から、イモグリアイスを奪って、彼女はがっつきはじめた。

 めちゃくちゃ欲しかったんかい! 

 いっきに完食。

 もう一個!

 ぐらいの勢い。ムリして買ってあげたかいがある。


「わたし、キモいですか?」

「なんで?」

「初めて会った人の前で、イモグリアイス瞬殺しちゃって」

「?・・・ちょっとだけ」

「じゃあ、これで、わたしたち、対等にキモいですね。食べたら、なんか歩きたくなっちゃった」


「お寺とか、好きなの?」

「なんか、安心してボーっとできると言うか」

「ふーん。近くに有名な神社があるんだけど、行ってみる?」

「いいんですか?」

「そっちも、いいの?」

 ガッコウとか、言いかけて口を閉ざす。

 

 そんなわけで、おたがい名前も知らないまま、ぼくらは神社に向かって歩き出した。

 制服姿が目立ちはじめる時刻で、ガッコウさぼってる感がもろに漂っている。


「わたしのこと、つけてました?」

「げ!」

 気づいてたんかい! な、なんか答えないと・・・

「さ、さっき、はじめて君を見た時から、なんか気になっちゃって!」

 ムズムズソワソワ、蕁麻疹にでもなったみたい。

「わたしのなにが、気になっちゃいました?」

「そこまで聞く?」

「聞いちゃまずいですか?」

「い、いや。なんつうか、その、オレ、ガッコウじゃ、誰もが知る陽キャで。実は、家じゃ一言も発さない蝋人形の陰キャなんだ。どうしても! 今日だけは、蝋人形から切り換えられる自信なくて。母さん、死んじゃって。なんか君なら、わかってもらえる気がして」

 不覚にも涙があふれだす。

 しかも、初対面の女子の前で。陰キャの面がもろにでてしまった。

 

 違う! コレって、みんなが知ってるぼくじゃない。


「正解だったと思います。ガッコウ行かなくて」

「え?」

 彼女は、即答した。前を向いて背筋をピンと伸ばして歩きながら。


「だって、もし蝋人形君が、ガッコウ行ってたら、みんな心配して、きっとお母さんのこと聞かれると思います。そしたら、そんなふうにやっぱり泣いちゃうと思います。みんなの前で蝋人形君は、泣きたくないんですよね?」

「それだけは、見られたくない。きっとその場は、心配してくれると思う。けど、裏でネタにして笑うヤツいるじゃん。人の不幸って、みんな大好きだし、陽キャが蝋人形なって泣いて溶けだした。それ、おもしれえって」

「それは、どうでしょうか?」

 彼女は、初めてぼくと目を合わせて言った。

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