靄の中。part1

「コラっ! いつまで寝てんのっ!」

「うわあああぁぁっ!?」

「キャッ!? な、何!?」

「…………えぁ?」


 目の前に見えるのは、薄暗い光に照らされるくすんだ白壁。そして僕のすぐ横には、ドテンと床に尻餅をついたリナの姿。


「ん……? あれ……?」

「な、なんなのよお兄、急に大っきな声出して……! でも、ほら、目が覚めたならさっさと準備してよね。もうとっくに朝よ」

「え? あ、ああ、うん」

 

 僕はコクコクと操り人形のようにぎこちなく頷いて、慌てて朝の身支度をする。そして、いつもと同じく朝靄の中、荷馬車を引いて畑へ行き、摘花の仕事をする……。

 

 ――あれ? 僕は確か……。


 アネモネ先生の家の地下で、まるで地獄のような血みどろの部屋を見て、それから……。

 

 混乱している上に、靄がかかったように頭が酷くボンヤリして、上手く考えが回らない。毎日の楽しみにしている魔道具にも今日は手を伸ばす気になれなかった。僕はただ呆然としたまま仕事を済ませると、荷馬車を引いて家へと帰ったのだった。

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