言霊の魔女カーリープーランの秘宝③/夜会準備
翌日。
ハイセは町の中央広場前でサーシャを待っていた。
今日はサーシャと一緒に、プルメリア王国にある会員制の服屋で礼服を買う。
ハイセは、ベンチに座ったまま欠伸をしていた。
「まだか……」
約束の時間までもう少し。
少し早めに来たハイセは、サーシャに言われた通り朝食を食べずに来た。
昨日、朝食は食べないようにと念押しされたのだ……おかげで、腹が減っていた。
のんびり待っていると……。
「ハイセ、遅れてすまない!」
「……サーシャ?」
「そ、そうだが……何か、変か?」
サーシャは、私服姿だった。
白を基調とした清楚なワンピースに帽子、そして白いバッグを手にしていた。
どう見ても、お出かけスタイル。
それに比べ、ハイセは服屋でマネキン買いした私服。いつものコートを着ていないのは、サーシャに「私服、絶対に私服だぞ!」とこれも念押しされたからだ。
ハイセは立ち上がり、サーシャの前に立つ。
「お前、そんな服持ってきたんだな」
「わ、悪いか……一応、アイテムボックスに入れておいたんだ」
「……ふーん」
「お前こそ、私服の用意をしていたんだな」
「お前が私服で来いって言ったんだろうが。昔買った服、アイテムボックスを探したらあったんだよ」
ハイセは、黒系のジャケットにズボンと、シンプルな装いだ。
だが、スタイルの良さも相まってよく似合っている。
サーシャは、どこか恥ずかしそうに言う。
「その……ハイセ、お前の私服、似合ってるぞ」
「……そりゃどうも。それより、朝飯食うぞ。腹減った」
「……ん」
ハイセとサーシャは並んで歩き出す……するとハイセが言う。
「……お前さ、白が似合うよな」
「え? え……い、今なんて?」
「……さ、行くぞ」
「ま、待てハイセ!! 今なんて言ったんだ!!」
少し早歩きになったハイセに、サーシャは歩幅を合わせるのだった。
◇◇◇◇◇◇
サーシャの案内で入ったのは、綺麗な木造りのこじんまりとした喫茶店。
いつの間に調べたのか、サーシャは言う。
「ここは、パンケーキで有名な店らしい。魔法で作ったシロップが絶品とか……」
「魔法でシロップ?」
「詳細は秘密らしいぞ」
「……それ、食って平気なのか?」
「大丈夫だろう。人気店らしいからな」
人気店だが、意外にも空いていた。
朝食時間から少しズレた時間に来たおかげらしい。店に入ると二人席に案内され、モーニングセットのパンケーキを注文する。
届いたパンケーキは、ホールケーキのような大きさだった。
「……デカいな」
「なんだ、小食なのか? 食べられなかったら私が食べてやるぞ」
「馬鹿。俺の食いかけなんか食わせられるか」
「あっ……」
サーシャは赤くなる。
すると、店員が透明な水差しを持ってきた。
水差しの中は、ドロッとした銀色の液体で満たされており、ハイセとサーシャが首を傾げると、店員が迷うことなく、そのドロドロをパンケーキにかけた。
ギョッとする二人に、店員は言う。
「さあ、特製の【魔法シロップ】をかけたパンケーキ、どうぞ召し上がれ!!」
「おお、これが特製シロップなのか。驚いたぞ」
「……俺は少し食欲が失せた」
サーシャはニコニコしながらパンケーキを切り分けて口の中へ。
「ん!! おお……こ、これは美味い!! 魔法のシロップ、素晴らしい!!」
「……お前すごいな。でもまあ、腹減ったし……ん」
ハイセも意を決してパンケーキを口の中へ。
だが、すぐに考えを改めた。
「……うまい」
「だろう? ふふ、おかわりもできそうだ」
「いや、けっこうな量だぞ。さすがに腹いっぱいになる」
「む、そうか?」
すでにサーシャは半分以上たいらげている。これはおかわりもするだろう。
とりあえず、ハイセは出てきたパンケーキを全て平らげた。
サーシャはおかわりを注文。実に、ハイセの二倍の量を完食するのだった。
◇◇◇◇◇◇
朝食を終え、二人は散歩がてら町を散策する。
ハイセが「食ったら服屋行くぞ」と言ったら、サーシャが「た、食べてすぐはダメだ。その……お腹、出てるし」と言ったのだ。
ちなみに、最後の「お腹が出てる」という言葉は、ハイセにはよく聞こえなかったらしい。
なので、腹ごなしの運動をするため、二人は町を散策する。
「こうしてみると、プルメリア王国も普通の国なんだな」
「……魔族が潜んでいるとは思えないな」
町は、ハイベルク王国と変わらない。
さまざまな商店が並び、道行く人たち、住人、遊ぶ子供……ありふれた光景だ。
「魔族、か……なあハイセ、禁忌六迷宮の一つ『ネクロファンタジア・マウンテン』だが……どうやって攻略する?」
「魔界にある山か。そりゃあ、魔界に行くしかないだろう」
「……魔界に行く方法は考えているか?」
「……何も」
「そうか……」
「お前、アテがあるんだな?」
「ああ。実は、『真のアリババ』を率いるカーリープーランは、人間界と魔界を自在に行き来する方法を持っている可能性があると、タイクーンが言っていた。もしその方法を手にれることができれば……もしかしたら、私たちも魔界の禁忌六迷宮に行けるかもしれない」
「それは朗報だな……」
驚くハイセ。情報に関しては、サーシャのが先に進んでいる。
そのまましばらく散策し、服屋に到着した。
大きな宮殿のような、立派な建物だ。中に入ると、サーシャの姿を見た支配人がやってきて一礼する。
「これはこれは、サーシャ様」
「建国祭で着るドレスが欲しい。一着、仕立ててくれ」
「かしこまりました」
「それと、こちらにも合う礼服を」
「重ねて、かしこまりました」
支配人は一礼すると、数人の女性従業員が来た。
ハイセは、サーシャに聞く。
「お前、いつの間にこんな服屋の常連になったんだよ」
「エクリプスが紹介してくれた。建国祭に出るならドレスも必要だとな。それに、手紙一つで私をここの最上級VIP会員にしてくれた」
「エクリプスか……」
「何を考えているか知らんが、使わせてもらおう」
そして、サーシャは身体のサイズを計るため、女性従業員に連れて行かれた。
残されたハイセにも、男性従業員が近付いてきて、ハイセの服を脱がせようとする。
ハイセは慌てて手を止めてもらい、合いそうな服を女性従業員に見繕ってもらい、適当に決めた。
ハイセは決まったが、サーシャはなかなか決まらない。
すると、サーシャがハイセを呼ぶ。
更衣室のカーテン越しに、サーシャは言った。
「ハイセ、その……見て欲しいんだが、いいか?」
「見るって、ドレスか? そんなの、何でも……」
と、カーテンが開くと、そこにいたのは──ハイセの知らないサーシャだった。
「に、似合うだろうか……」
シルバーを基調としたドレスだった。
肩を剥き出しにして、胸元を強調させたドレスだ。露出は多いが決して下品ではなく、高貴で洗練されたデザインとなっている。
長い銀髪は綺麗にまとめられ、アクセサリーは敢えてシンプルなデザインで統一している。髪をまとめる髪留めだけが羽を模した飾りとなっていた。
サーシャは胸元を気にしつつ、ハイセに聞く。
「その……どうだ?」
「…………」
「ハイセ?」
「あ、ああ……その、いいんじゃないか」
月並みな感想しか出ないハイセ。だが、サーシャは嬉しそうに微笑んだ。
ハイセはサーシャから目を反らすが、サーシャはハイセが気になったのか、近づいてきた。
「ハイセ、どうしたのだ?」
「い、いや……おい、近付くな」
「顔が赤いぞ。その、やはり何か変なのだろうか?」
サーシャはくるっと回転する。回って気付いたが、背中が剥き出しだ。
露出が多すぎる……ハイセはそう思った。
すると、クルクル回転していたサーシャが、慣れないヒールでつまづいてしまい、バランスを崩した。
「きゃっ!?」
「おい馬鹿っ!!」
ハイセがサーシャを支えるが──ぐにっと、柔らかな塊を思いきり掴んでしまう。
「ふわっ!? あ、あぅ……っ、は、ハイセっ!?」
それは、サーシャの胸だった。
柔らかく、ハイセの掌では掴みきれないほどの大きさ。ハイセは自分がサーシャの胸を鷲掴みしていることに気付き、顔を青くして手を離す。
「わ、悪い!!」
「い、いや……その、私を支えてくれたのだろう? き、気にしていない。うん」
「……わ、悪い」
二回謝ったが、ハイセの声は小さくなってしまった。
互いに顔を赤らめ、そっぽ向いてしまう……すると、助け船を出したのは、服屋の支配人だった。
「えー……サーシャ様、他のドレスもございますが」
「た、頼もうか!! ハイセ、もう少し待っててくれ!!」
「あ、ああ……」
サーシャは更衣室に入ると、思いきりカーテンを閉めてしまった。
ハイセは椅子に座り、「もう帰りたい」とため息を吐くのだった。
このあとも、サーシャのドレス選びにたっぷり付き合うことになり、一日は終わってしまうのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます