言霊の魔女カーリープーランの秘宝②/情報整理

 ハイセは、クレアとヴァイスを連れて宿の部屋に戻った。

 すると、ヒジリとプレセアが出迎える。

 戻るなり、ヒジリは不満そうに言った。


「ちょっと、戦いは?」

「ナシだ」

「いやー、師匠ってば、意外にもエクリプスさんと趣味が合いそうな感じがしまして」

「はぁー?」

「おい、適当なこと言うな。プレセア、お前は見てたんだよな?」

「ええ。茶器をプレゼントするなんて、気に入られたようね」

「……棘があるな。まあいい」


 ハイセはソファに座り、アイテムボックスから水のボトルを取り出す。

 すると、クレアがハイセの隣に座り、自分のアイテムボックスからカップを出してハイセの前へ。

 ハイセは仕方なくカップに注ぎ、そのまま瓶を口に付けた。


「っぷは……とりあえず、無駄な争いはなさそうだ」

「パーティーをエスコートするだけね」

「ああ。クソかったるいが、禁忌六迷宮の情報を手に入れるチャンスだ」

「ちょっと、アタシの出番!!」


 ヒジリがハイセの隣に座り、ハイセの腕に強い力で抱きつく。

 柔らかい胸が押し付けられるが、ハイセはイヤそうに顔をしかめる。


「今回は諦めろ。エクリプスから情報を奪う手も考えたが、どうやっても血が流れる。俺も過激な方だが、そこまでして手に入れるつもりはない」

「むー」

「正規の手順で手に入るなら、それでいい。そろそろ、次の禁忌六迷宮に挑戦したいからな……確実な情報が手に入るなら、何でもやるさ」

「……ね、ハイセ」

「ん」

「もし、エクリプスが……あなたのことを気に入ったら? あなたを手に入れたいと言ったら? あなた、その言うことを聞くの?」

「そんなわけないだろ。俺は誰のモノにもならない」


 そう言い、ボトルの水を一気に飲み干した。

 ボトルをテーブルに置き、ヒジリの手を離して立ち上がる。


「師匠、どこか行くんですか?」

「晩飯」

「アタシ、肉ね。もちろんアンタの奢り」

「私は魚介系がいいわね」

「私もお肉がいいですっ!!」

「……奢るとは言ってないぞ」


 ヴァイスに留守を任せ、ハイセたちは夕食に出掛けるのだった。


 ◇◇◇◇◇◇


 ◇◇◇◇◇◇


 サーシャとタイクーンは、エクリプスの話を聞いた後、学園見学することなく敷地内を後にした。

 学園を出るなり、タイクーンは言う。


「サーシャ。エクリプスから依頼を受けたそうだが……内容は?」

「……聞けば驚くような内容だ」

「ほう……興味深いね」


 タイクーンは、サーシャから依頼の内容を聞いた。

 四日後の建国祭。そこに魔族が現れる。しかもその魔族は『四十人の盗賊たちアリババ』を率いていた魔族、カーリープーラン。

 エクリプス曰く、真の『アリババ』の仲間を連れ、『国を奪う』ために来るという。

 タイクーンは言う。


「……その情報の出どころは不明だが、エクリプスは魔族カーリープーランと繋がっている可能性が非常に高いな」

「……そう、思うか?」

「ああ。禁忌六迷宮の情報も、その魔族から与えられた可能性が高いが。恐らく、エクリプスはカーリープーランを切るつもりだ。同様に、カーリープーランもエクリプスを裏切るつもりだろう」

「裏切る、だと?」

「ああ。勘も混ざるが……ボクはそう考える」


 タイクーンは考え込む。そして、サーシャを見て言う。


「サーシャ、ハイセはエクリプスのエスコートをするのだろう? ハイセに協力を仰ぐべきだ」

「私もそう考えていた。魔族……まさか、建国祭で姿を見せ、王族を人質にでも取るつもりか?」

「いや……エクリプスの話しなら、カーリープーランは『真のアリババ』を率いているのだろう。アリババは盗賊団、そしてカーリープーランの能力……いや、スキルか。スキルは『言霊リアルワード』だったな。直接戦闘より、暗躍向きだ。言霊の使い方によっては、ヒトを洗脳することが可能なわけだ。それに、他に仲間の魔族がいるとなると、ボクとサーシャだけではやはり厳しい」

「……よし。ハイセに協力を仰ぐぞ。やれやれ、チームで動ければもう少し安心なんだがな」

「その気持ち、理解できる」


 タイクーンは眼鏡をクイッと上げ、ため息を吐いた。

 二人は、ハイセのいる宿へ向かうことにした。


 ◇◇◇◇◇◇


 ◇◇◇◇◇◇


 夕食から戻ると、サーシャとタイクーンが会いに来た。

 そこで、ハイセはサーシャから『真のアリババ』と、建国祭で『カーリープーランが国盗りに来る』ことを聞く。


「……『四十人の大盗賊アリババ』の親玉が、仲間の魔族を連れて、今度は国盗りに来る、か」

「ああ。ハイセ、戦いになる可能性が高い……手を貸してほしい」

「いいぜ。親玉は殺したいと思っていた。だが、俺はエクリプスのエスコートがある。そいつをエスコートしないと、禁忌六迷宮の情報が手に入らないんでな」

「やはりそうか……ハイセ、私たちもエクリプスから、この依頼を成功させた暁には、禁忌六迷宮の情報……いや、『神の箱庭』の入口をくれると約束した」

「……どういうことだ」


 初耳だった。

 ハイセはエクリプスからエスコートを命じられ、『情報』をもらう約束をした。

 だがサーシャは、『禁忌六迷宮の入口』をもらうという。


「……あの野郎」

「待てハイセ。今、余計なことはしないでくれよ。確かにボクらは依頼を受ける身だが、この国の危機であることに変わりない。もし余計なことをして国を混乱させたら、プルメリア王国から何かしら責られる可能性も高いぞ」

「…………」

「まあ、キミはそんなことを気にしないだろうけどね。一応の警告だ。それに……エクリプスにも考えがあるかもしれない」

「……わかったよ」

「はいはーい!! 戦いならアタシの出番よね!!」

「私も協力するから」

「当然、弟子の私もですっ!!」

『ムッシュ。私も協力を』


 ヒジリ、クレア、プレセア、ヴァイスが言うと、サーシャが言う。


「建国祭は、この国の貴族だけが王城に招待される。ハイセはエクリプスと、私はタイクーンと参加するが……お前たちは厳しいかもしれん」

「はぁぁ!? イヤだし、参加するし!!」

「……それなら、私がクレアとヒジリを透明化させる。城に待機しているから、戦うことになったら呼んでね」


 不法侵入。サーシャは渋い顔をしたが、咎めることはなかった。

 そして、ヴァイスはハイセに向かって一礼する。


『ムッシュ、私は』

「……お前は城に侵入しろ。人に見つからず、完全な隠密行動だ。俺が呼んだらすぐに来れる位置に待機。できるか?」

『問題ありません。侵入許可を頂きましたので、遂行します』

「で、できちゃうんですね……すごい」


 驚くクレア。ヒジリはヴァイスが苦手なのか、ハイセの隣に移動し、ハイセの腕にギュッと抱きつく。

 それを見たサーシャがムッとするが、ハイセは言う。


「とりあえず、建国祭は四日後。俺は準備があるから、明日は町に出る。サーシャ、お前たちは?」

「私も同様だ。建国祭に参加するにはドレスが必要……待てハイセ。お前の準備とは?」

「礼服だ。パーティー用の服なんて持ってきてないからな」

「な、なら……その、私と一緒に行かないか? いい服屋を教えてもらったんだ」

「……別に、いいけど」

「よし決まり!! あ、悪いが服屋は会員制でな、お前たちの同行は許可できないぞ!!」


 何かを言おうとしていたプレセアがムッとする。

 すると、タイクーンが言う。


「それなら、キミたちはボクに付き合って欲しい。戦いになる可能性があるなら、一時的でもキミたちを組み込んだ戦術を用意しておくべきだ。昼食くらいならご馳走しよう」

「肉っ!! よし、メガネ、アンタに付き合うから!!」

「うー……師匠も気になりますけど、戦う準備なら」

「……今回だけだから」


 こうして、ハイセとサーシャは服を買いに、町へ出ることになるのだった。

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