言霊の魔女カーリープーランの秘宝①/大魔盗賊

 カーリープーラン。

 身長二メートルを超えた筋骨隆々の女性。外見の年齢は四十代前後。真紅の眼、白い髪はお団子にまとめ、肌は褐色……そして、頭部に生えた二本のツノ。

 カーリープーランは、魔族。

 スキル『言霊』を操る、魔族の女だった。


「ねぇ、あなた……パーティーの件、だけど」

「ああ、わかっている。建国祭だろう? 安心なさい、ちゃんと連れて行ってやるさ」

「ふふ、ありがとう」


 現在、カーリープーランは、プルメリア王国貴族のダンタリオン伯爵夫人となっていた。

 スキルを使い、ダンタリオン伯爵を洗脳……本当の妻は殺害し、平原の魔獣に食わせた。

 カーリープーランは、夫とワインで乾杯。酔ったフリをして自室へ戻った。


「ふぅ、人間の妻ってのも、楽じゃないねぇ」


 カーリープーランの今の姿は、二十代後半ほどの『人間女性』だ。

 元の身長は二メートルだが、今は百六十センチほど。髪は金色で、肌も白く美しい。

 部屋で髪をほどき、ソファにどっかり座ると……部屋の片隅にいつの間にか、車椅子に乗った老人がいた。

 

「カーリープーラン……」

「なんだ、いたのかい。ノーデンス」


 ノーデンス。

 年齢は九十以上に見える。褐色肌に、ねじくれたツノが二本、側頭部から生えていた。

 髪は生えておらず、ボロボロの白衣に眼鏡を掛けた、今にも死にそうな老人だった。


「カーリープーラン、仕事はまだかの~」

「ったく。もうすぐだから待ちな。もうすぐ、あんたの大好きな『実験』がいくらでもできる。この国を乗っ取ればいくらでもね」


 そう言うと、車椅子の『影』から何かが現れた。

 真っ黒なコートを着て、黒い帽子を被り、腰に剣を差す青年。

 褐色肌、額に一本のツノが生えた魔族の青年だ。


「殺しはまだか」

「だから、まだ!! ったくドレーク、あんたはいつも急ぎすぎなんだよ!!」

「む、すまん」

「はいはい。カルミーネは?」

「買い物だ」

「……はぁぁ。あいつも、自分が魔族ってこと忘れてんじゃないだろうね」

「たっだいま~!!」


 と、閉じた窓の隙間から、十八歳ほどの少女……ただし魔族……が、現れた。

 どう見ても、窓は閉じている。だが、窓とサッシの隙間数ミリから、少女は身体をねじ込んで入って来た。カーリープーランは言う。


「カルミーネ、あんた、どこ行ってたんだい」

「お買い物! 人間の服とか、お菓子とか~、すっごいんだもの。カーリープーランってばズルいよねぇ。人間界に行く手段見つけて、それ魔族たちに共有しないで独り占めしちゃうんだもん」

「アンタら三人には教えてあげたろうに……全く」

「えへへ、あたしたち真の『大魔盗賊アリババ』だしね!!」


 大魔盗賊アリババ

 その名は、四十人いる大盗賊の名前ではない。

 カーリープーラン、ノーデンス、ドレーク、カルミーネ。

 四人の魔族による、魔界でも有名な大盗賊。

 人間界に渡る方法を見つけ、それを独占し、魔界ではなく人間界で活動をする盗賊たち。

 すると、人間の姿をしていたカーリープーランの身体が、ゴキゴキと変形していく。


「あいたたた……ノーデンス、あんたの『改造医療マッドメディスン』の効果、少し甘くなってるよ。今度の仕事はデカいんだ、失敗は許されないからね」

「仕事はまだかの~」

「あはは。おじいちゃん、誤魔化してるし」


 カルミーネがケラケラ笑うと、ノーデンスも「ほっほっほ」と笑った。

 すると、ドレークが言う。


「カーリープーラン。魔族の少年、いつ殺す」

「だから、殺さないっての。数百年ぶりの『オーバースキル』保有者だ。とっ捕まえて、魔界錬金術師に高く売る……と言いたいけど、厄介な人間が傍にいるから後回し……って、前にも言ったじゃないか」

「む、そうだったか」

「あはは。ドレークってば忘れっぽい」


 カルミーネがケラケラ笑うと、ドレークは「むう」と唸る。

 カーリープーランは、煙管を取り出して火を点ける。


「ガキは後回し。まずは、この国を奪う」

「計画は~?」

「建国祭で、王様をアタシの『言霊』で洗脳する。ふふっ、王様を傀儡にして、アタシらが好きに動かせるようになれば、面白いだろ?」

「……オレら四人でできるのか?」

「人間も使おうかと思った。でも、使えそうな手下は、ガキどもに壊滅させられちまった。やっぱりアタシは少数精鋭のが好きだね」

「ま、なんとかできるんじゃない? ね、カーリープーラン」

「ああ。あと……一個だけ、不安要素があるんだよ」

「不安要素?」


 カルミーネが首を傾げた。


「エクリプス・ゾロアスター。この国の影の支配者みたいな女さ。そいつに賄賂として、以前手に入れた禁忌六迷宮の入口をあげて、この国の貴族を洗脳して居場所にする許可をもらったんだけど……そいつ、どうやらアタシの真の目的が、この国を乗っ取ることだって気付いてるみたいなんだよねぇ」

「それ、マズイんじゃないの~?」

「エクリプスは基本的に、自分たちのクランを脅かさなきゃいいと思ってる。国王を洗脳してもいい、そういうふうに思ったんだけどねぇ……」


 カーリープーランが煙を吐き出すと、綺麗なワッカとなった。


「どーも嫌な予感がする。あんたら、気ぃ引き締めなよ」

「はーい。あ、カーリープーラン。そういえばさー、どうして国を手に入れようなんて思ったの?」

「そんなの決まってる。国なんて、誰も手に入れたことのない、デカいお宝だからさ」

「ふーん。じゃあ、この国を手に入れたら?」

「別にどうもしないさ。隠れ場所としては最適だと思うけどね。くくっ、人間界にはまだまだデカいお宝が山ほどある。こんな小さい国じゃなくて、いつかはもっとデカい……ハイベルク王国なんて、手に入れてみたいと思うけどねぇ」

「わお、面白そう!!」


 カーリープーランがニヤリと笑うと、カルミーネがケラケラ笑った。


「……殺しが近いな」

「仕事はまだかの~」


 ドレーク、ノーデンも、どこか嬉しそうに笑っていた。

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