ハイセの想い
その日の夜。
ハイセは一人、宿の自室で銃の分解をしていた。
趣味となりつつある分解、再構築。
初期の頃は、弾丸を全て撃ち尽くしたあとは銃を消し、再び同じ銃を手元に出すことで弾丸を再装填していた。
だが、古文書を読み、『銃の種類を増やすには、銃を理解し、武器を理解すること』と書かれていたのを理解し、マガジンを自分で装填したり、暇な時は銃をバラバラに分解して同じように組み立てる。
おかげで、今では具現化できる銃、爆薬、兵器は百を超えた。
「……魔法国」
ハイセは手元を全く見ずに、ベレッタを高速分解して再び組み上げる。
マガジンの弾丸を指で弾いて出し、再び装填を繰り返す。
「S級冒険者序列二位、エクリプスか」
正直、エクリプスに興味は微塵もない。
知っているのは、女ということだけ。何もかもが、ハイセにはどうでもいい。
だが……エクリプスが持つ『禁忌六迷宮』の情報。それだけに興味があった。
「『神の箱庭』……存在するかどうかもわからない未知の迷宮。そもそも、迷宮なのかどうかも不明。ノブナガの古文書にも書かれていないし、どういうダンジョンなのか……名前があるってことは『存在』はしているはず。これまで集めた情報もデマばかりだったし……『狂乱磁空大森林』もだが、本当の情報なのか」
エクリプスがもし嘘をついていたら、ハイセは容赦するつもりはない。
エクリプスが偽の情報と知らなくてもだ。落とし前は付ける。
「……問題は、魔法国か」
ハイセはベレッタをベッドに置き、机に広げてある地図を見た。
場所は、南東。
ここ数年で開拓が進み、規模も大きくなった魔法国プルメリア。
ハイセが目を向けたのは、魔法国プルメリアから少し離れた位置にある、小さな村。
今はもう廃村となっている。
「…………はぁ」
そこは、ハイセの故郷。
ハイセと、サーシャの両親が眠る墓地がある廃村だった。
もう、顔も思い出せない両親。
優しかったのか、厳しかったのかも思い出せない。
冒険者として、過酷な毎日を過ごし続けていたせいで、幼少期の記憶がほぼ失われかけているハイセ。
「…………」
今、両親が『
右目を失い、黒衣を纏い、異世界の武器を振るうS級冒険者序列一位が、自分たちの子供だとは信じないだろう。
ハイセはベッドに戻り、ベレッタを手にして寝転がる。
天井に銃口を突き付け、ポツリと呟いた。
「……墓参り、しに行くか」
こうして、ハイセはプルメリア王国へ行く決意を新たにした。
◇◇◇◇◇◇
翌日。
ハイセはガイストの元へ向かい、エクリプスの手紙を見せる。
手紙を読んだガイストは、少し考えててから声を出した。
「S級冒険者序列二位『
「知ってるんですか?」
「ああ。以前、聖王国に行ったことがあっただろう? お前たちが破滅のグレイブヤードに挑戦している時、たまたま聖王国の冒険者ギルドに来た。ワシはそこのギルド長と話をしていたから、挨拶する機会があった」
「……で、どうでした?」
「不気味だった。見た目は間違いなく美しいな。だが……心の内がわからない。全く読めん」
「……」
「お前に興味がある、ということだが……用心しておけ」
「まあ、最悪戦うことになったら勝ちます。それと、ガイストさんにお願いしたいんですけど……」
「わかっている。お前が留守の間、宿屋の住人を守ればいいのだろう」
「はい。俺の知るガイストさんなら、人間相手に負けるはずありませんから」
「ふ……買いかぶるな。で、出発はいつだ?」
「準備をして、数日後には」
「わかった。ワシの方でも警戒しておこう」
「ありがとうございます。じゃ……」
ハイセは立ち上がる。
「さっそく買い出しか?」
「いえ。もう一軒、行くところがありまして。最悪、戦うことを想定するなら、戦力は多い方がいいかと」
「ヒジリ、プレセアでも連れて行くのか?」
「あいつらはパスで。正直、うっとおしいですから」
「素直じゃないな」
「……じゃ、また」
ハイセは部屋を出た。
ガイストは苦笑し、その背中を見送った。
ちなみにハイセもガイストも気付いていない。この部屋に、プレセアの放った《精霊》が存在し、こっそり話を聞いていたことなんて。
◇◇◇◇◇◇
ハイセが向かったのは、『
今日も満員。今も劇場では、ヴァイスが踊り、歌い、人々を魅了しているだろう。
ハイセは、オーナー権限で確保してある『超VIP席』に座り、ヴァイスの踊りを堪能する……久しぶりに見るヴァイスの踊りは、人間とは思えない動きだ。
そして、歌と踊りが終わり、ヴァイスが舞台袖に戻ったのを確認。
ハイセも舞台袖に向かうと、ヴァイスが帽子を脱ぎ壁に掛けていた。
『ムッシュ、お久しぶりです。私の踊りを見に来てくれたのですか』
材質不明な白い仮面。切れ込みの入った口が動き、人間のような表情を作る。
ガラス球のような目はレンズで、ハイセを見るとピント調整のためかカメラアイがキュイーンと動いた。
ハイセの銃弾すら弾く純白の装甲。背中には武器にもなる鉄扇が収納してある。踊り子が本業だが、戦うこともできる『
ハイセは頷く。
「相変わらず、お前の歌と踊りは素晴らしいよ。できることなら、毎日通いたいくらいだ」
『ありがとうございます。ムッシュの言葉を聞けて、私は幸せです』
ぺこりと一礼。
ハイセは少しだけ迷ったが、斬り出した。
「ヴァイス。お前に頼みがある」
『なんなりと』
「……俺はしばらく王都を留守にする。行く先でS級冒険者に会う。もしかしたら戦いになるかもしれない……お前の手を借りたい」
『私に、戦えと?』
「そうだ。『七大災厄』の一体を瞬殺し、俺とサーシャを軽くあしらったお前の強さを借りたい。その間、劇場は休みになるが……」
『かしこまりました。ムッシュの敵は私の敵。私が持つ全ての力を解放し、敵を殲滅いたします』
「あ、ああ……頼もしい」
ハイセは、劇場の支配人(適当に雇った)を呼び、劇場を改修工事するためにしばらく休館させると伝えた。
せっかくなのでヴァイスに希望を聞き、改修すべき点をまとめ、本当に改修工事をすることにした。座席を増やし、地下にレストランを作り、近隣の建物を買収して高級宿を作り……と、莫大な金額が必要だったが、ハイセの総資産からすればゼロに等しい金額。ハイセは支配人に臨時ボーナスを払い、改修の指揮を執るように頼んだ。
こうして、ヴァイスを連れて行くことが決定した。
◇◇◇◇◇◇
そして、全ての準備を終え、ハイセはクレア、ヴァイスを連れて王都の正門へ向かったのだが……。
「遅い!!」
「待ちくたびれたわ」
「……は?」
ヒジリとプレセアがいた。
そして、サーシャとタイクーン。
「来たか、ハイセ」
「やれやれ、待ちくたびれたよ」
「待て待て……まて。なんでお前たちがいる」
「一緒に行くと言っただろう」
「別に、王都から一緒じゃなくてもいいだろうが。というか、なんでタイクーンが? レイノルドたちはどうしたんだよ」
「さすがに、全員では行けないからな。少し揉めたが、魔法職であるタイクーンが同行することになった」
ハイセはタイクーンを見た。
「よく許可出したな」
「個人的な考えでキミに同行するなら全員で反対したさ。だが……S級冒険者序列二位、エクリプスが持つ『禁忌六迷宮』の情報となれば話は別だ。しかし、『セイクリッド』の仕事を空けるわけにもいかないから、代表のサーシャとボクで行くことにしたのさ」
「……ピアソラとか、レイノルドは? あいつら騒ぎそうだけど」
「レイノルドはクランのサブマスターだから渋々残った。ピアソラは騒いでいたが、サーシャが毎日一緒に風呂に入ることを約束したら大人しくなった」
「……は?」
「まま、待てタイクーン!! その条件はハイセに伝えなくていい!!」
とりあえず、許可は出たようだった。
正直、ハイセはうんざりしていた。
「師匠、なんだかいっぱいですね!!」
『お久しぶりです、マダム』
「ヴァイス? お前も行くのか。そういえば、劇場が改修工事とか……」
「ふむ。サーシャ、一度この人形を調べたい。分解していいか聞いてくれ」
「ちょっと!! そこの白いの、マジで強いって聞いたわ!! アタシと戦うわよ!!」
「ふふ。ハイセ、楽しい旅になりそうね」
プレセアに言われ、ハイセは頭を抱えたくなった。
「勘弁してくれ……」
そして、どこにいたのかウルが案内人として合流。益々騒がしい旅路となるのだった。
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