グリーンエレファント・ドラゴン

 霊峰ガガジアの入口は、『神聖大樹ユーグドラシル』による警備がある。

 ハイセは、入口を守る守衛に、王家からの依頼書を見せる。

 すると、守衛はニコニコしながら言った。


「ハイセ様ですね。クランマスター・アイビスから聞いています。さぁ、どうぞ」

「……ど、どうも」


 ハイセは何となく、後ろを振り返る。

 後ろには『神聖大樹ユーグドラシル』の大樹がそびえ立っているのが見える。つい先ほど、あそこでアイビスを話をして真っすぐ向かったのだが、ハイセのことをどう伝えたのか気になった。

 許可をもらい、さっそく霊峰ガガジアへ。


「ここに、『万年光月草』があるのか」

「山頂よ。行きましょう」


 プレセアは、ハイセよりも速く歩き出した。

 ハイセも後に続く。プレセアは無表情だが、急いでいるのがわかった。

 すると、周囲から魔獣の気配を感じたハイセ。さっそく、新しい武器を出しておく。


「……形状、変わったわね」

「M4突撃式銃アサルトライフル。新しく手に入れた……さぁて、威力はどうかな?」


 ハイセは、上空から襲い掛かって来た巨大なワシめがけて発砲する。

 ボボボボッ!! と、拳銃よりも大きな中間弾薬が発射され、ワシを穴だらけにする。

 血が雨のように降り注ぎ、ハイセとプレセアは回避。

 ハイセは、マガジンを交換しながら言う。


「使いやすいし、威力も拳銃より高い。連射できるのもいいな……これはいい」

「……相変わらず、とんでもない威力」


 ハイセはM4を構え、歩き出した。


 ◇◇◇◇◇◇


 M4は、ライフルやデザートイーグルよりも使いやすく、霊峰ガガジアに出てくる魔獣を楽々と対処できた。マガジンは無限に生み出せるし、連射すれば大抵の魔獣はハチの巣になって死ぬ。

 ハイセの後ろには、援護しようと弓を構えるプレセアがいたが、出番はなさそうだった。


「……ねぇ、もう少し早く行かない?」

「焦っても仕方ないだろ。それに、お前の言うこと聞く理由もない」

「…………そ」


 すると、プレセアがハイセを抜いた。


「私、先に行くわ」

「おい」

「採取したら、下で待ってる。その時に報酬を渡すから」

「…………」


 プレセアは、走り出すと近くの藪に飛び込んで消えた。

 その後ろを見送りながら、ハイセは近くの岩に腰掛け、M4を立てかけた。


「あいつ、焦ってるな……もしかして、急ぎだったのか?」


 今さらそんなことを思いながら、ハイセはデザートイーグルを作り出し、マガジンを抜いて弾薬を確認した。


 ◇◇◇◇◇◇


「───……急がなきゃ」


 プレセアは、走っていた。

 一瞬で木によじ登り、枝から枝へ飛び移りながら移動する。

 魔獣は地面を移動するのが多い。なので、枝から枝へ飛び移れば、地上の魔獣に気付かれることなく高速で移動できる。

 霊峰ガガジアに入ることはできた。後は、『万年光月草』を手に入れることができる。

 そうすれば、最後の材料が手に入る。


「霊薬エリクシール……待ってて、必ず」


 プレセアは、山頂へと急ぐ。

 ようやく、プレセアの目的を達成できる。

 そして、急ぐこと数時間。ほぼ休憩を取らず、プレセアは山頂に到着した。

 

「着いた……!! 万年光月草、万年光月草は……」


 あったのは、見渡す限りある緑色の雑草だった。

 プレセアは驚愕する。


「そんな……おかしい、万年光月草は淡く発光する草なのに……!!」


 周囲を見渡すが、あるのは雑草だけ。

 その辺に生えているような、何の変哲もない草が生い茂っていた。

 プレセアは、がくりと崩れ落ちる。


「…………ああ」


 最後の希望だった。

 万年光月草がないと、霊薬エリクシールが作れない。

 プレセアの眼から、一筋の涙が流れた。


「……ごめんなさい、姉上」


 そう、全身から力を抜いた時だった。

 空が黒く染まり、風が吹き荒れた。


「え───……」


 夜になった? 

 違う。巨大な生物が上空から現れ、雑草の生い茂る山頂に着陸したのだ。


『グォルルルル……』

「な……」


 それは、濃い緑色をした、カエルのような生物だった。

 よく見ると斑模様で、皮膚の色が違う。

 口は大きく、喉のあたりが呼吸のたびにふくらみ、口の中には牙がない。

 獲物を丸呑みし、直接消化するタイプの魔獣。背中にはコウモリのような翼が生えており……なにより、その大きさは全長三十メートルを超えていた。

 グリーンエレファント・ドラゴン。

 冒険者ギルドの定めた討伐レートはSS+

 国家崩壊の危機レベルであるレートがSSSであり、その手前。

 巨大なカエルのバケモノのようなドラゴンが、ギョロギョロした眼でプレセアを見た。


「あ……」


 まずい。

 プレセアは立ち上がり、剣弓ソードアローを構える……が、勝てる気がしない。

 ドラゴンは、ギョロギョロした眼でプレセアを品定めしているように見えた。

 大きく口を開け、長い舌がビロビロと伸びる。


「くっ……!!」


 プレセアは矢を番え、ビロビロした舌に向かって射る。

 少しでも気を反らせれば逃げられる。そう思っての攻撃だった……が。

 矢は、舌に命中した。だが……刺さりもせず、弾力ある舌に弾かれ落ちた。


「なっ」


 これが威嚇、攻撃と理解したのだろう。

 グリーンエレファント・ドラゴンは、ギョロギョロした眼をプレセアに定めた。


『ギュルォォォォォアァァァァァァァァ!!』

「ひっ」


 腰が抜け、温かい液体が股間を濡らした。

 ガタガタ震えが止まらず、武器を落としてしまう。

 SS+レートの怪物の威圧をその身に受け、プレセアは硬直してしまった。

 舌が、ゆらりと動き、延びてくる。

 そして、プレセアの顔の近くで止まり……その舌が、裂けた。

 パカッと裂けた舌は、まるで爪のように見えた。


「───……姉さ」


 姉を救えなかった。それだけが心残りだった。

 そして、プレセアの身体に舌が巻き付き───……。


「───……何してんだ、お前」


 バォン!! という弾けるような音と共に、プレセアを絡めていた舌が千切れ飛んだ。


 ◇◇◇◇◇◇


 シャキッ、と、スライドを引いて次弾装填。

 ポンプアクションというらしいが、ハイセにはどうでもいい。

 新しく生み出した武器。『散弾銃ベネリ・ノヴァ』だ。


「カエルか」

「逃げて!! こいつはSS+レート、グリーンエレファント・ドラゴンよ!!」

「逃げない」


 ハイセは散弾銃を向け、何度も発砲した。

 バックショットという、中型の獣を狩る子弾がばら撒かれる。弾丸はドラゴンの身体に食い込むが、僅かな出血だけで致命傷にはならない。


「だったら」


 ハイセは散弾銃を捨て、両手にデザートイーグルを持ち走り出す。

 走りながら円を描くように連射。予想通り、グリーンエレファント・ドラゴンは鈍足だ。ハイセの動きに対し、ゆっくりと後を追うように旋回する。


「デカい的だ!!」


 デザートイーグルを捨て、新たに生み出したのは短機関銃サブマシンガン

 ドラム式マガジンを装備した、トンプソン・サブマシンガン。

 本来は両手持ちの機関銃を、ハイセは片手に持つ。


「食らいやがれ!!」


 バラララララッ!! と、弾丸が放たれる。

 かなりの反動だった。鍛えたハイセの腕でもブレて、照準が定まらない。

 だが、ドラゴンはデカい。むしろ、照準が定まらないことで、全身くまなく弾丸が突き刺さる。

 

『ギャォォォォォォォォン!!』


 ドラゴンは大暴れし、地面をゴロゴロ転がる。

 血で辺りが濡れ、雑草が枯れていく……ドラゴンの血は、劇薬なのだ。薬師が精製すると万病薬の元にもなると言われている。

 弾切れになり、ハイセはサブマシンガンを捨てる。

 そして、M1873ウィンチェスターを持ち、頭めがけて引金を引く。

 レバーを引いて装填し発射。レバーを引いて装填し発射。レバーを引いて装填し発射……何度か繰り返し、ドラゴンの頭に銃弾を叩き込むと、ドラゴンの頭から脳がドロドロ零れ落ち、ビクビクと痙攣していた。

 ハイセはライフルを捨て、デザートイーグルを向けて何度か発砲。ようやく、動かなくなった。


「ふぅ……死んだか」

「…………うそ」


 グリーンエレファント・ドラゴンが、死んだ。

 確かに、このドラゴンは鈍足だ。ハイセのやったように、円を描くように周りながら攻撃すればダメージは与えられる。

 だが……鈍足を補って余りある、防御力がこのドラゴンにはあった。

 弾力性のある皮膚は、斬撃や刺突をほぼ無効化する。

 でも、ハイセの『銃』から発射される『弾丸』は、ドラゴンの防御力を軽々と上回った。


「おい、無事か」

「…………」

「あー……気にすんな」

「……え? あ」


 ようやく、プレセアは自分の股間から湯気が立ち上っていることに気付き、顔を赤くした。


 ◇◇◇◇◇◇


「なんで、来てくれたの」


 岩陰で、服を着替えながらプレセアが言う。

 ハイセは、その岩に寄り掛かりながら言った。


「別に、なんとなく」

「ふざけないで」

「ふざけてない。お前が死んだら報酬もらえないしな」

「…………」


 日が落ち、空がどんどん暗くなる。

 ハイセの目の前には、グリーンエレファント・ドラゴンの死骸が転がっていた。

 そして、プレセアの着替えが終わり、岩陰から出てくる。


「とりあえず、今日はここで野営するか。血生臭いし、移動するか?」

「…………」

「ん、どうした?」

「あれ」


 プレセアが指さしたのは、グリーンエレファント・ドラゴンの死骸。

 ではなく……グリーンエレファント・ドラゴンが寝転んでいた、雑草だ。

 

「光ってる」


 なんと、雑草の一部が光っていた。

 プレセアは空を見上げ、確信する。


「そうか……日中はただの雑草だけど、夜になると光るのね。これが、万年光月草……」

「へぇ~、そうなのか」

「でも───……」


 光が、すぐに消えてしまった。

 グリーンエレファント・ドラゴンの血により大地が汚され、万年光月草が死に絶えていく。

 プレセアは走り出し、まだ無事な万年光月草を探す……だが、全ての光が消えてしまった。


「そ、そんな……」

「…………ん? おい、そこ」

「え」


 だが、まだ輝いている万年光月草があった。

 血で濡れておらず、プレセアは丁寧に、迅速に、アイテムボックスから出したシャベルで根を傷付けないないように掘り、植木鉢に入れた。

 植木鉢をそっと抱きしめ───……名残惜しそうに、ハイセへ。


「……あなたのもの」

「…………」

「ドラゴンを倒したのはあなた。これは、あなたのものよ」

「…………いいのか」

「ええ。ここの万年光月草は全滅したけど……探せば、まだどこかにあるかもしれないわ」

「…………」


 ハイセは植木鉢を受け取り、アイテムボックスへ。

 ついでに、グリーンエレファント・ドラゴンの体液、眼球などを採取しておく。心臓部分の『核』は、やはり砕けてしまったが、念のため採取しておいた。

 

「よかったわね。これで、依頼達成よ」

「…………」


 こうして、ハイセの『万年光月草採取』の依頼は、達成された。

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