ハイセの旅②

 翌日。

 ハイセがソファから起きると、裸のプレセアがベッドから身体を起こした瞬間だった。

 形のいい胸が、陽の光に照らされキラキラ輝いて見え、ハイセは目が離せなかった……が、十秒ほどして目を反らす。


「お前、服」

「ああ、暑いから脱いだの」

「ったく……」

「? どこに?」

「朝飯」


 祭りは朝から始まっている。

 部屋を出て、町の中央へ。

 屋台はすでに開いており、いい香りがあちこちからする。

 ハイセは、海鮮のスープにパンを買い、空いているベンチに座って食べていた。すると、同じ物を持ったプレセアが隣に座る。


「いい香り……この辺、海なんてないわよね?」

「さーな」

「パン、甘いわ……これ、果物の果実で味付けしてる」

「ふーん」

「海鮮スープ、いい味……アイテムボックスに入れたいけど、私のボックスは時間停止機能、付いてないのよね」

「ああもう、うるさいな!!」


 ペラペラやかましい。

 初めて出会った時とはずいぶんと違う印象に、ハイセはうんざりした。

 プレセアは、ハイセより後に来たのに完食。目を閉じ、風を感じている。

 ようやく黙ったので、ハイセは甘いパンをモグモグ食べ始めた。

 食べながら地図を開き、今日のルートを確認する。


「提案、いい?」

「独り言にしておけ。提案ってのは、仲間にすることだ」

「じゃあ独り言。東方の森国へ行くなら、街道沿いはやめた方がいいわ。地図では平坦な道だけど、実際はかなりの荒れ道よ。自然は自然のままで、っていう森国ユグドラの考えで、街道の整備はほとんどしていないの。通るなら、迂回路のラドルの森、ここは商人の馬車が通る道ができてるから、徒歩でも容易」

「…………」

「独り言、終わり」


 プレセアは再び黙ってしまう。

 東方は初めてのハイセ。急ぎではないが、苦労はしたくない。

 エルフであるプレセアが言うなら、間違いはないのだろう。


「…………」


 ハイセは、地図を見ながらぼんやり考えていた。


 ◇◇◇◇◇◇


「ラドルの森、か」


 町を出て街道沿いに進むと、分かれ道となった。

 一方は、森国ユグドラへ続く街道、もう一方は迂回路となるラドルの森。

 立て看板には『森国ユグドラ』と『ラドルの森』と二つある。


「ずっと平原歩いてたし、森に行くのも悪くないな」


 そう呟き、ハイセはラドルの森へ。

 

「……くすっ」


 ハイセの後ろで、プレセアが笑ったような気がして面白くなかった。

 今や、プレセアの距離は十メートルまで縮まっている。 

 ハイセはため息を吐き、森に進んだ。


「…………へぇ~」


 美しい森だった。

 確かに、街道のような整備はされていない。だが、森国へ向かう馬車が何度も通ったのか、草木の生えていない通り道ができている。

 そして木々。紅葉しているのか、緑色ではなく赤や黄色の葉が生い茂り、木々の隙間から差し込む光が、森全体を照らしていた。

 ハイセは、『武器ウェポンマスター』を使用。


「『水平二連銃ショットガン』」


 中折れ式の《散弾銃》を手に持ち、弾丸を確認して右手に持つ。そして左手には『デザートイーグル』を持ち、森を歩く。

 森の中は、魔獣の気配がした。


「気を付けて」


 プレセアは、弓を手にハイセの傍へ。

 そして、弓の機構を操作すると、ガシャンと変形した。

 それは、まるで剣。


「剣?」

「ええ。剣弓ソードアロー……剣と弓、そしてロッドに変形する武器よ」

「へぇ、珍しいな」

「エルフは誰も使わないわ。というか、私しか使いこなせない」

「ふーん」


 ハイセがデザートイーグルを構え、藪に向かって連射すると、ゴブリンの群れがバタバタ倒れた。

 そして、ホブゴブリンが飛び出してきたので、ショットガンを頭にめがけて発射。ホブゴブリンの頭が砕け、肉片となって飛び散った。

 そして、反対側からもゴブリンが飛び出してきた。


「シッ!!」


 こちらは、プレセアが斬る。


「へぇ」


 身軽。まるでサルのようだとハイセは思った。

 舞うように動き、ゴブリンの首を連続で斬り刻んでいく。そして、斬り終わると同時に剣を弓に変形させ、一瞬で抜いた矢を番え連続発射。ホブゴブリンの頭に四本の矢がほぼ同時に刺さり、その場に倒れた。

 最後に出てきたのは、ホブゴブリンよりも大きな『ジャイアントゴブリン』だ。

 ハイセはショットガンとデザートイーグルを投げ捨て、右手に『擲弾発射器グレネードランチャー』を、左手にグレネード弾を手に持つ。


「それは?」

「『M79 グレネードランチャー』」

「?」


 グレネード弾をセットし、ジャイアントゴブリンに向ける。


『グォォルゥゥゥゥゥォォォォォ!!』

「大口開けて、腹減ってるのかな? じゃあ───美味いの、くれてやる」


 ボン!! と、グレネード弾が発射。

 ジャイアントゴブリンの口の中に侵入し、爆発。

 頭部が吹き飛び、身体が爆散した。


「……綺麗な森、汚さないでくれる?」

「……そこは素直に謝るよ」


 周りがゴブリンの肉片で大変なことになり、ハイセはジト目で見るプレセアに素直に謝った。


 ◇◇◇◇◇◇


 日が暮れ始め、ちょうどいい横穴を見つけたので野営することにした。

 アイテムボックスからテントなどを出し、薪も出して焚火をする。

 ポットに水を入れてお湯を作り、お茶を淹れた……二人分。


「ほれ」

「……なんで?」

「気まぐれだ」

「ふぅん」


 プレセアは受け取った。

 プレセアもアイテムボックスを持っているが、ハイセのとは違い、テントに寝袋、一人分の食器に保存食しか入っていない。

 横穴にテントを二つ並べ、調理用テーブルを出し、野菜や肉を切るハイセ。


「……すごい容量のアイテムボックス」

「便利だし、ケチらなかった。たぶん、俺のアイテムボックスは王都で一番の容量だぞ」

「羨ましいわね。さすがS級冒険者」

「どーも」

「ね、お金払うから私にもくれない?」

「いいぞ」


 ハイセは、自然に二人分の夕食を作っていた。

 肉と野菜を軽く痛め、炙ったパンに挟む。そして卵のスープを作った。

 デザートに果物を剥き、テーブルに置く。


「……あなた、器用なのね」

「昔は荷物持ちで、料理とか雑用やってたからな」

「ふぅん。ヒトに歴史あり、ね」

「なんだそれ」


 二人は食べ始めた。

 一口食べ、プレセアが眼を軽く見開いでハイセを見たが、無視。

 食事を終え、片付け、お茶を再び淹れた。

 しばし、無言。

 すると、プレセアが言う。


「……あなたの武器、すごいわね」

「まあな」


 ハイセは、テーブルに武器を並べる。


「今、使えるのは三つだけ」


 デザートイーグル。

 グレネードランチャー。

 ショットガン。

 それぞれ大きさも形状も異なる武器。この世界ではない、『異世界』の武器だ。

 

「俺にもよくわからないけど、この三つはすぐに出せる。他にもいくつかあるけど……完全には出せないし、出せても使えない」

「そうなの?」

「ああ。でも、この三つは強力だ。弾丸がなくなれば消えるけど、すぐに出せる。さらに、数も出せる」


 ハイセは、デザートイーグルをいくつもテーブルに並べる。

 一瞬だけ淡く輝き、ハイセの手に現れるのだ。

 プレセアが一つを手に取ろうとすると、光となって消えてしまう。


「そして、使えるのは俺だけ」

「なるほど、ね」


 ハイセは武器を全て消し、お茶を飲み干した。

 すると、プレセアが言う。


「食事と、今のお話のお礼。ここの見張りは『精霊』にやらせるから、あなたは朝までゆっくり休んでちょうだい……私を抱きたいなら、いつでもいいけど」

「お前、俺にその気がないって知ってるから毎回言ってるのか? ったく」


 ハイセは自分のテントに入り、すぐに目を閉じた。


 ◇◇◇◇◇◇


 翌日。

 森を抜けると、見事な紅葉が眼下に広がった。


「おお───……」

「森国ユグドラ、今は秋真っ盛りなの。いいタイミングで来たわね」


 プレセアはもう、ハイセの隣に立っていた。距離を取るのはやめたようだ。

 ハイセも、もう何も言わず歩き出す。

 森を抜けると、すぐ目の前に深い崖があり、崖の下には見事な森が広がっていた。

 赤、緑、黄色、オレンジと、カラフルに染まった木々が美しく、遠くに見えたのは大きな塀に囲まれた立派な国。


「あれが、森国ユグドラ……」

「そして、ユグドラの奥に見える大きな山……あれが霊峰ガガジア」


 ユグドラの奥に、確かに大きな山があった。

 木々が生えておらず、青いがそびえ立っている。

 山頂には雲がかかり、その高さは相当なものだ。


「こっちが街道と合流する道。もう、ここまで来れば険しい道でもないわ」

「…………」


 いつの間にか、プレセアは完全な案内人となっていた。

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