ハイセの旅①
「ん~……いい天気だな」
ハイセは一人、のんびり歩いていた。
地図を見て、街道沿いにある小さな町があるのを確認。今日はそこまで歩き、一泊しようと決めた。
後ろをチラッと見ると、プレセアと名乗ったエルフの少女が、きっちり三十メートル間隔で付いてくる。
面倒なので、相手にはしていない。話すと意外に会話が弾むが、そこまでして話したいとも思っていない。特に干渉しなければ、霊峰に入るくらいはいいかなと、ハイセは思っていた。
すると、街道の脇にある藪から、ホブゴブリンという大型のゴブリンが飛び出してきた。
「『
レバーを引いて弾丸を装填し、ホブゴブリンの頭を狙って引金を引くと、轟音と同時にホブゴブリンの頭が吹き飛んだ。
薬莢が落ちると同時に消滅する。すると、矢を番えようとしていたプレセアが、僅かに目を見開いてポツリと呟いた。
「……なんて威力」
「ま、そう思うよな」
答えたことで、会話をしていいと思ったのか、プレセアが近づいてきた。
そして、ハイセの持つ武器、
「それ、あなたの能力?」
「ああ」
「……私の能力は『
「…………いきなりなんだよ」
「あなたの能力は?」
「おま、ずるいな」
相手の能力を聞いたら、自分のも話さなくてはいけない。
互いに信頼関係を結ぶための、暗黙の了解みたいなものだ。
ハイセはため息を吐き、ライフルをプレセアの顔に近づけた。
「俺の能力は『
「マスター系能力……え? この、世界じゃない?」
「俺にもよくわからない。まぁ、話せるのはそれだけ」
ライフルが溶けるように消え、ハイセは再び歩き出す。
すると、プレセアはハイセの隣に並んだ。
「……おい」
「たまたま隣なだけ。別に、話すことないから」
「…………」
ハイセはため息を吐き、ほんの少しだけ早歩きをして先に進んだ。
◇◇◇◇◇◇
ハイベルク王国から東へ進み、一番近い町に到着した。
大きさはそれほどでもない。住宅が並び、町の中心には店が立ち並んでいる。宿屋も数件あり、王都へ向かう前に立ち寄り、休むような宿場町だ。
だが、意外に人が多い。
ハイセは、町の入口を守る守衛に冒険者カードを見せながら聞く。
「あの、けっこう賑やかだけど、何かあるんですか?」
「ああ、この町ができてちょうど二百年のお祭りがあるんだ、って……え、S級冒険者!?」
ハイセの質問に答えながら冒険者カードを確認し驚愕する守衛。
「やばいな。宿とか空きあるかな……」
「そ、それはわからんけど、穴場なら知ってるぞ。居心地にこだわらないなら、この路地をまっすぐ進んだ先にある『小鳥亭』ってところに行きな。普段もガラガラだし、地元民でも宿屋ってこと忘れる時がある」
「わかった。どうもありがとう」
「ああ、お連れさんもな」
と、ハイセはプレセアが後ろにいたことを完全に忘れていた。
プレセアは無言でハイセの後ろを歩き、守衛の言った『小鳥亭』にもついてきた。
「……ボロイな。でもまぁ、いいか」
ハイセは王都で拠点にしている宿とそう変わらないボロさだ。
だが、一泊しかしないし気にしない。町はすでにお祭りのようだ。
さっそく受付へ。
「一泊お願いします」
「はいよ。悪いけど、今空き部屋が一つしかなくてねぇ」
「え?」
「お祭りだし、ウチみたいなボロでもお客が入るのさ。一緒で問題ないかい?」
「一緒? あ……」
プレセアが後ろにいた。
するとプレセアが言う。
「一緒で」
「おい!?」
「はいよ。じゃあこれ鍵ね。うちはボロだけど、部屋の壁や扉は分厚いから、騒がしくしてもかまわないよ」
「ありがとう」
何かを勘違いしているが、プレセアは鍵を受け取りスタスタ行ってしまう。
「おい、お前!!」
「部屋、こっちよ?」
「…………」
部屋に入るハイセ、プレセア。
ボロイが、なかなか広い。ベッドも大きい。
そして、意外にもシャワーが付いていた。お湯も出るし、どうも『そういうこと』をするための宿に見えてしまうハイセだった。
すると、装備を外し、服を脱ぎだすプレセア。
「は!? おま、なにを」
「報酬、前払いのぶん」
「はぁ!?」
「シャワー、浴びてくる」
「ちょ、待った!! 待った!!」
「…………なに? そのままがいいの? 汗、掻いてるけど」
「意味わからんこと言うな!!」
プレセアは、全裸のままハイセの前に立ち、首を傾げた。
羞恥心がないのか。隠そうともしない。ハイセが顔を反らすが、耳まで真っ赤になっていることにプレセアは気付き、言う。
「まさか、未経験?」
「……う、うるさい」
「S級冒険者。お金いっぱいあるでしょ? その年なら、いろいろお盛んじゃないの?」
「…………」
「ま、私も未経験だけど」
「お前は何を言ってんだ。いいから服を着ろ。あと報酬の前払いって何だよ」
「私を好きにしていい。万年光月草を手に入れたら、後払いでお金払うわ」
「…………いらねぇ」
「え?」
「金だけもらう。お前の身体はいらん」
「……ちょっとショックね。スタイルには自信あるんだけど」
確かに───プレセアは、酷く魅力的だ。
染み一つない真っ白な肌。ほどよい大きさの胸。細い身体はしなやかで、毒に侵されたようにハイセは顔が赤くなってしまう。
「……じゃあ、お前の話を聞かせろ」
「私?」
「万年光月草。なんで欲しいんだ?」
「…………」
プレセアは、アイテムボックスから下着と新しい服を取り出し着替えた。
そして、ベッドに座る。
「姉が病気なの」
「病気……」
「エリクシールがあれば治る。素材はほとんど揃えたけど、万年光月草だけ手に入らない……霊峰ガガジアへ入る申請をしたけど、通らなかった。今、ガガジアはすごく危険な魔獣が繁殖期に入って、餌を求めて徘徊している。四大クランの『
「…………」
「でも、あなたなら別」
「俺?」
「ええ。ハイベルク王国の依頼がある。森国ユグドラはハイベルク王国の属国だから、ハイベルク王国の依頼書があれば霊峰ガガジアに入れる。万年光月草を手に入れられる」
「なるほどな。それで」
「ええ。あなたと冒険者ギルドで出会って、東方へ行くと言ったから……ギルドマスターとの会話を聞かせてもらったの。目的が霊峰ガガジアって聞いて驚いたわ」
つまり、プレセアは姉のために万年光月草を手に入れなくてはならない。
「西方に行ってたのは?」
「万年光月草を探すため。ガガジアに入れないなら、他を探すしかないと思って」
「…………」
「お願い。あなたがガガジアに入る時、私もあなたの《仲間》として同行させて。万年光月草を手に入れたら、私の全財産をあげる」
「…………わかった」
「ありがとう」
「その代わり。あくまでお前は俺の後ろをついてくるだけだ。仲間じゃない。俺はソロの冒険者だからな。霊峰ガガジアに入るほんの少しだけの同行だぞ」
「ええ。安心して、ソロとしてやってきたのは私も同じだから」
「それでいい。あと、この部屋は……」
「数時間だけだし、一緒でいいわ。私を抱きたいなら拒まないわよ」
「いらん。ったく……」
ハイセは立ち上がる。
「どこに?」
「メシ。これだけ騒がしい祭りなんだ。出店くらいあるだろ」
「そう……私も行こうかしら」
「勝手にどうぞ」
二人は宿を出た。
さすがに、プレセアは付いてこなかった。
ハイセは安心して、出店巡りをするのだった。
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