南へ出発

「確認する。目的地は、ハイベルク王国から南にある鉱山地帯。そこにあるリスタルの街だ。リスタルの街で最も大きいクリスタル鉱山に出現した、クリスタルゴーレムの討伐に向かう」


 サーシャは、ハイベルク王国南門で、全員に確認する。

 ピアソラはウンウン頷き、レイモンドはニカッと笑い、タイクーンは眼鏡をくいっと上げて頷き、ロビンは親指を立ててグッと笑う。

 そして、クリスは「ああ」と言い、妹のミュアネは「アタシに任せなさい!」とまっ平らな胸をドンと叩いた。

 合計七人の、魔獣討伐の旅が始まったのである。

 さっそく、城下町を出て歩き出すが、いきなりミュアネが言う。


「馬車は使わないのかしら?」

「あのねぇお姫様。ウチの方針でね、なるべく楽はしないことになってるの。歩けるなら歩く、持てるなら持つ、節約できるなら節約する……わかったかしら?」

「む」


 ピアソラに言われてムッとするミュアネ。だが、クリスがミュアネの頭をポンと叩く。


「その通りだな。すまない、ピアソラ。ミュアネ……オレたちは王族だが、このチームでは下っ端だ。チームの方針なら、それに従うように」

「むぅぅ~……わかりましたぁ」

「やれやれ……言っておくが、疲れたから歩けないなど言い出したら、置いて行くからな」


 タイクーンが付け加えた。

 ミュアネはムスッとするが、サーシャがフォローに入る。


「だが、クリスもミュアネも、冒険者に同行しての冒険は初めてだろう。急ぎではないし、私たちは南部には何度か言っている。わからないことは何でも聞いていいし、できることはやろう」

「サーシャ……あなた、聖女みたい!!」

「あぁ!? 聖女は私なんですけどぉ!!」

「あなた、悪魔みたい」

「あぁぁぁん!?」

「だっはっは!! 悪魔ねぇ、言い得て妙だぜ?」

「レイノルド、テメェ!!」

「ぴ、ピアソラ……顔が恐いよぉ」


 ロビンが怯え、レイノルドの影に隠れてしまった。

 七人は歩き出す。

 向かうは、南にある鉱山の街、リスタルだ。


 ◇◇◇◇◇◇


「何を気にしているんだい?」

「タイクーン……」


 最後尾を歩くサーシャ、そしてサーシャの隣に並んで歩くタイクーン。

 

「ハイセのこと、かな」

「……わかるか?」

「まぁ、ね」


 タイクーンは眼鏡をくいっと上げる。彼の癖のようなモノだ。


「任命式、きみは途中でいなくなったけど……ハイセの元に行ってたんだろう?」

「やはり、わかるか?」

「まぁね。何を話したのかはしらないけど、少しスッキリしたように見えた」

「……いろいろ、言われたよ。私は……やはり、ハイセを見下していたのかもしれない、とな」

「……きみがずっと、罪悪感を抱えていたのは知っている。ボクも……彼を追放しなければ、もしかしたら《能力》に覚醒したハイセが、きみとレイノルドの三人で、最強のチームになれたのかもしれない、とね」

「…………」

「幼馴染同士、同じ夢を見た者同士……いろいろあったんだろう?」

「ああ。彼の分まで夢を叶えようと思った。でも……ハイセと見た夢を、私一人で叶えても仕方ないと言われたよ。一緒に最強のチームを作るという夢はもう、見れないんだ」

「…………」

「だから、ハイセは最強の冒険者を目指している。《禁忌六迷宮》に挑むことを夢見ている……そんな気がする」

「それは、きみもだろう」

「ああ。ハイセが最強を目指すなら、私は最高を目指す。互いに向かうべき場所は同じだ。そうすればきっと、またハイセに会える……その時は、胸を張ってな」

「……サーシャ」

「本当に馬鹿だった。私は、罪悪感からハイセと話すことに怯え、互いにS級冒険者に昇格し、ここぞとばかりのタイミングで謝罪した……こんな謝罪、なんの意味もないのにな。ハイセが望むことなら何でもするつもりだった。身体を差し出そうとしたが、拒否されたよ」

「ぶッ……き、きみ、そんなことを言ったのか!?」

「ああ」

「ぴ、ピアソラが知ったら発狂するな。レイノルドもどうなるかわからないな……いいかサーシャ、今の話、誰にもするなよ」

「む? ああ、わかった」


 タイクーンはため息を吐き、前を見た。

 ピアソラとミュアネが言い合いをして、レイノルドが笑い、クレスがため息を吐き、ロビンが困ったようにワタワタしている。


「サーシャ、きみは最高を目指すと言ったな?」

「ああ、そのつもりだ」

「ボクも、きみを支えるつもりだ。ボクはこんな性格だから、どの冒険者チームでも疎まれていたが……キミに出会い、救われた。きみはぼくの恩人だ」

「な、なんだ急に」

「最高のチームを作る。きみは好きにやるといい。考えることは、ボクがする」

「タイクーン……」

「くくくっ……忙しくなりそうだ。まずはこの王家の依頼をクリアしてからだな。ああ、覚えているか? 王家の依頼の報酬は《望む物》だ。ボクが提案するのは《クランホーム》だな。冒険者クランの本拠地だ。知っているか? 四大クランのホームだが、その規模は小さな村よりも大きいとか」

「ま、待て待て落ち着け。タイクーン……やる気になったのは嬉しいが、近い」

「む、すまん……ん?」


 ここで気付いた。

 レイノルド、ピアソラがジーっとタイクーンを睨んでいた。


「何してんだお前」

「タイクーン……あんた、サーシャに詰め寄って何するつもりかしらぁ?」

「何を勘違いしているのか知らんが、ボクはサーシャに恋愛感情は持っていないぞ。全く……少し長話をしたからって、勘違いしすぎだ。馬鹿どもね」

「「あぁん!?」」

 

 何気ない、普段の仲間たち。

 サーシャは久しぶりに、心から笑えた気がした。


 ◇◇◇◇◇◇


 王都からしばらく南下すると、人気が少なくなり、街道の脇に森や林などが多くなる。

 そうなると、やはり出てくるのは、魔獣だ。


「───……全員、戦闘態勢へ」


 最初に気付いたのはサーシャ。

 

「クレス、ミュアネ。今回は私たちの戦いを見ててください。レイノルド、二人のガードを」

「了解」

「タイクーン、ロビン、ピアソラはいつも通りに」

「「「了解」」」

「え、え」

「……見せてもらおうか、S級冒険者の戦いを」


 困惑するミュアネを引き寄せ、クリスは下がる。

 二人の前に、大きさの異なる盾を装備したレイノルドが立ち、ロビンは近くの木に一瞬で飛び移る。

 タイクーン、ピアソラは後方で待機……チーム『セイクリッド』の陣形が完成。

 同時に、魔獣が藪から飛び出してきた。


「なるほど、オーガとはね。確か、近くに村があったはず……なら、これ以上先に進ませるわけにはいかない」


 サーシャが剣を構えると、オーガが雄叫びを上げた。


『グォォルゥゥゥゥゥォォォォォ!! ───ッォ!?』


 だが、オーガの右目に矢が刺さり、顔を押さえて矢を引き抜く。

 同時に、オーガの顔面に火球が命中した。タイクーンの攻撃魔法である。

 オーガは暴れまわり、近くの岩を手に持ち投げつける。サーシャが躱し、レイノルドがクリスとミュアネを守るために、盾で岩を軽々と弾き飛ばした。


「つっ」


 だが、小石がクリスの顔を掠り、少しだけ血が出た。

 そこに、どこか嫌そうなピアソラがそっと手でなぞる……それだけで傷は消える。


『グォォルゥゥゥゥゥォォォォォ!!』

「銀閃光───『空波刃』!!」


 銀に輝く闘気を纏うサーシャが剣を振るうと、闘気の刃が飛び、オーガの首を軽々と斬り飛ばした。

 サーシャが剣を鞘に納めると同時に、オーガが倒れる。


「す、すごい……」

「これが、『セイクリッド』……王都最強と呼ばれる理由、わかったかも」


 クリスとミュアネが感心するが、ピアソラは不満だった。


「ちょっとレイノルド!! 小石飛ばさないでよね!!」

「悪い悪い。クリス、怪我平気か?」

「あ、ああ」

「まったく……守るなら完璧に守ってくれ。王子に怪我させてどうする?」

「ぐ……」

「まーまーいいじゃん。ね、サーシャ」

「ああ。とは言えないな……レイノルド、しっかり頼むぞ」

「へいへい、すみませんでした」


 チーム『セイクリッド』は、オーガの処理をした後、再び南下する。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る