第23話:実践試験
「おい、お前、俺に何かいうことあるだろう?」
試験会場に着いた途端、同年代くらいの子が私たちに声かけてきた。とてもめんどくさいことになりそうな予感。
「ミリア、あなたに用があるみたいよ。」
「いえ、私もこれほど失礼な方とは面識ありません。姉様ではないのですか?」
「何だお前ら!俺はコトライ王国の第二王子だぞ!何かいうことあるだろう!」
「?ミリア、何か知ってる?」
「いえ、私も知りませんわ。」
んー??何も思い当たることがない。師匠なんかやらかしたとか?だからといって私にいうかな?あとなんで王子が一人でいるの?取り巻きとかいないの?人望ないのかな?
「えぇーい!ここは『私をあなたの配下に入れてくださいレン殿下』というところだろうが!!」
「「・・・は?」」
なんだこいつ。まじで何いってるかわからん。どういうこと?
「ミリア、移動しよっか」
「ですね。」
「なっ、待たんかお前ら!」
言葉通じない系のめんどうな感じを受けたので、さっさと移動しようとしたら肩を掴まれた。
———パシッ!
「何なんですかあなたは?いきなり私と姉様の前にやってきて『配下にいれてください』と懇願しろ?聖教会の聖女である私とソル王国最強戦力にして大陸最強の魔術師とも名高いウォート・クリムゾンの弟子に対して何を言ってるのですか?聖教会とソル王国、更にクリムゾンまでも敵に回すおつもりですか?」
私が何か言うより先に、ミリアが王子とかいう奴の手を弾いて反論した。ってあなた聖女だったのね。もしかしなくてもかなり偉い人では?それと師匠は大陸最強らしい。まぁ、納得。あれより強い人がいるとか考えたくない。
「なっ・・・お前は何を言っている!?俺はコトライ王国の第二王子だぞ!」
「はいはい、王子様~、これから試験始めるので静かにしてね~」
「なっm!んー!」
まだ懲りないのかと思っていたら、後ろから学園の教員がやってきて王子?を引っ張ってどこかへ消えていった。
「・・・なんだったんだろうね?」
「なんだったんでしょう?気にしなくていいのでは?」
「そっか。じゃぁ忘れよう」
「ですね」
『あー、あー、これより魔術実践試験を開始する。今から受験番号を読み上げるから、受験票に書かれている番号と一致するやつは前まで来てくれ。それ以外のやつは呼ばれるまでその場で待機だ』
ちょっとしたトラブルがあったものの、少しして直ぐに試験開始のアナウンスが入る。どうやら10人ずつ読み上げられるようなので、しばらく暇になりそう。私の番号はA243か。覚えておこう。
「呼ばれるまで暇だね~」
「ですね~。」
「あの~、すみません。もしかしてアンナ様ですか?」
暇だなぁと思ってたら、またしても声をかけられた。今度は何と思ってバッとふり見たら驚かせてしまった。
「ヒッ!」
「あっ、驚かせてごめんね。そうだけど何?」
「そうですよね!今日の朝ウォート様と一緒にいるところを見かけたのでもしかして!?って思ったんですけど、合ってて良かったです!四肢の欠損とかお腹の傷が目立ちますけど、そんなの関係なしに本当に美しいです!お会いできてうれしいです!キャー!!」
なになになに??ファン?オタクですか?勝手にテンション上がられても困る。
「ですよねですよね!姉様はとても美しいんですよ!整った顔、抜群のスタイル、綺麗でサラサラな銀髪、欠損部位を補う水晶の義肢が更に神秘的な印象を与え、それでいてお腹の傷跡がただ綺麗なだけでなく、戦って来たすえのカッコよさというのを演出してるんです!!」
「あー!!わかります!!完璧なまでに綺麗なお姿についた大きな傷跡!美しくカッコよく、それでいて荒々しいところもあるような雰囲気!そんなギャップが素敵なんですよね!!」
待って待って待って、ミリアちゃん?あなたまでオタク化したら誰が突っ込めばいいの?私のオタクが目の前で私のことを語られるのは中々につらいんですけど?
『A210、A223・・・A243、前へ』
「あっ、呼ばれたから行ってくるね~」
「あっ!はい、頑張ってきてください!」
「頑張ってください!応援してます~!」
「ありがとー、頑張ってくる!」
ミリアとファンの子——名前聞くの忘れてた——と別れて会場の前に向かう。
「A243の方はこちらですー」
前の方に行くと、私の番号が呼ばれたので声のしたほうに向かう。ついた先は受付のような感じになっていて、机の上には杖が置かれている。アレを使えってことかな?
「A243の方ですか?受験票を見せてください。」
試験官?のお姉さんに受験票を渡してチェックしてもらう。
「あっ!あなたが噂のアンナさんですね!!だったらこんな試験余裕なんじゃないですかー?」
「さぁどうでしょう?それよりもそんな噂になってるんです?」
「それはもちろんですよー。あのクリムゾンが弟子を取ったんですから。噂にならないほうが変ですよー。じゃぁ、試験内容の説明をしますねー」
まじかぁ・・・、いやまぁ、あのパーティの時もそんな雰囲気を受けたけどさ。王都から離れたここ——どれくらい離れてるかはしらない——まで噂が流れてるのか。師匠って本当に凄い人ではあるんだね。教え方ゴミカスだけど。
「えっと、試験内容はこちらで用意した魔術媒体を用いて指定した魔術式を構築、発動までしてもらいます。使用する魔術媒体はこちらです。まずは魔力を流してちゃんと使えるかどうか確認してもらえますか?」
「あっ、はい。わかりました。」
渡された杖に魔力を流し、ちゃんと使える状態にあることを確認。登録されているパーツ的に各属性のボール系魔術が発動できるようになってるっぽいね。これなら簡単かな。
「はい、大丈夫です。」
「わかりました。では、あそこにある的に向かってファイアボールを撃ってもらえますか?制限時間は1分です。」
「了解です。ファイアボール」
そして私はお姉さんが指示したところに向けてファイアボールを放ち、的に当てる。的までの距離は20mくらいあったけど、ちゃんと当てれることができた。
「次はどうしたらいいでしょう?」
「・・・ハッ!あのっ!最初から術式組んでたとかそういう訳ではないですよね!?」
「えぇ、それはもちろん。」
「ですよね!えぇ、そしたら次はウォーターボールをお願いします。」
言われた通りウォーターボールを発動する。
「えぇ・・・なんでこんな術式組むの早いの・・・?そしたら次はウィンドボールをお願いします!」
なんか私の術式組む速度が異様に早いらしい。そりゃぁ、魔力で直接術式書いてきたからね。魔力操作なんてお手の物だよ。
その後、火風水土光闇と各基本属性のボール系魔術を発動して試験は終了した。
「え・・えぇ、全属性をこんな簡単に・・・?嘘でしょ・・?私の苦労は一体・・・ボソボソ」
なんか凄い落ち込んでるようだ。そんなに衝撃的なことあった?
「あのー、大丈夫ですか?」
「ハッ!失礼しました。えぇ、大丈夫です。これにて試験は終了となります。試験結果は明後日、学園前に合格者の受験番号を張り出しますのでそちらでご確認ください。合格者には申し込み時の住所宛てに入学手続きの書類を送りますのでそちらも忘れずにご確認ください。」
えっ、入学手続きの資料を送る!?どこに送られるんだろ・・・。確認しよう。
「あの・・・、私の場合は師匠、えっとウォート・クリムゾンが勝手に申し込んだので、どの住所を記載したのかわからないんですけど、確認ってできますかね・・・?」
「あっ、そうなんですね。えっと、少々お待ちくださいね。いま確認します。」
そういってお姉さんは地球でいうタブレットのような石板を取り出し、それに魔力を流して何かをし始めた。念話か何かかな?それともインターネットみたいなやつがあるのだろうか?だとしたら思った以上に技術が進んでる?いや、魔法具っていうのもあるから一概にはいえないのか。
「お待たせしました。ただいま事務の方に確認したところ、住所はここ学園都市の外れにある家となっているそうですが、心辺りありますか?」
「多分師匠の別邸か何かですね・・・。その住所教えてもらえますか?」
「えぇ、大丈夫ですよ。住所はこちらです。」
そういって住所を書かれた紙を渡される。私はそれをアイテムボックスにしまった。
「ありがとうございます。何か受験者なのに書類のこと知らないって不思議ですよね。お手数おかけします。」
「いえいえ、わりと良くあるので気にしなくて結構ですよ。一般に高名な魔術師ほど、弟子の扱いが雑になる傾向にあるので。それが特級魔術師や賢者となるとそれはもうとても雑っていう話はよく聞きますし。何か他に確認しておきたいことなどはありますか?」
あっ、そうなんだ。よかった。あの理不尽を受けてるのは私だけではないのか。ならよかった。
「いえ、もう大丈夫です。ありがとうございます。」
「承知しました。お疲れ様でした。」
さて、この後どうしようかな。っていうか私お金持ってな・・・くもなかった。なんかハルトさんからブラックカード?を受け取った気がする。まぁそれはそれとして、アイテムボックスには解体してないワイバーンとグリフォン入ってるからどうせだし売ってみようかな?肉だけ引き取って。とりあえずアドラー迎えに行こうか。
「あっ!アンナさん!試験は終わったんですか?」
会場から離れてアドラーを預けた厩舎に向かう途中、さっき話しかけてきたオタクっ子と遭遇した。ミリアとは別れたらしい。茶髪のおっとりした雰囲気で、ポメラニアンみたいにフワフワして元気な可愛い子だ。
「うん、終わったよ。君はまだなの?ってか名前は?」
「はっ!名乗ってなかったですね!私はレイアといいます!以後お見知りおきを!私はまだみたいです!」
そういって彼女は私の手を取ってブンブンと振り回す。口と行動があってなくない?
「う、うん。よろしくね?」
『A293・・・A300の方、前へ』
「とか言ってたら私呼ばれたので行ってきますね!それではまたお会いしましょう!」
「あっ、うん、頑張ってね」
「はーーい!!頑張ってきます!」
・・・凄い騒がしい子だったな。まぁいいや。厩舎にいこう。アドラーに癒されたい。って厩舎の場所わからん。たしか試験受付した場所の裏手にあるとか言ってたような気がする。その言葉を頼りに、敷地内を進み、厩舎にたどり着いた。
「お疲れさん、従魔の受け取りかな?」
厩舎にたどり着くと、朝にアドラーを預かってくれたカイさんが声をかけてきた。
「はい、そうです。これが札です。」
「おう、確かに。ちょっと待ってな。いま連れてくる。」
そしてカイさんは奥に行き、直ぐにアドラーを引き連れて帰ってきた。
「クゥー!!」
アドラーは私の姿を確認するとトテトテと走ってこちらに向かってきて、飛び込んできた。それを私が受け止めると、今度は甘えるように身体をスリスリしてきた。めっちゃ可愛い。あと手触りもフワフワしてて気持ちいい。
「おおっ!よしよし、おとなしくしてた?」
「クゥ!クウゥー!」
「そいつとても賢いのな。ちゃんと大人しくしてたし、他の従魔が喧嘩してるところを仲裁したりもしてたぞ。」
「えっ?なに、そんなことまでしてたの?偉いねー、今日の晩御飯はちょっと豪華にしよっか」
「クゥーッ!」
「はっはっは!仲が良いようで何よりだ。じゃぁまたな。」
「えぇ、ありがとうございました。じゃアドラー、外に出ようか。」
「クゥン」
私はアドラーを連れて学園から出る。さて、どうしようかなー。そういやこうやって街の中を歩くの初めてじゃない?んー、折角だし街を見て回りつつ、冒険者ギルド的なのがないか探してみよっと。
「よしアドラー、まだ夜までは時間あるし適当に歩こうか。」
「クゥー」
そして私たちは学園から離れて適当に歩き始めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます