第22話:突然の試験
「はぁ、はぁ・・・死ぬかと思った」
「クゥーッ・・・」
アドラーが生まれてから1ヵ月。アドラーはあれから少しだけ大きくなったが、それ以上は大きくならなかった。代わりに真っ白だった羽は銀色に輝き、顔つきも少しだけ凛々しくなった。鳴き声も少し低くなり、かっこよさが出てきた。
「あ”~・・・青熊強すぎ・・・」
「クゥッ」
私たちは先ほどまで青熊と戦闘していた。というのも、寝て起きたらテントの目の前に青熊の巨体があったのだ。起こさないようにそーっと移動しようとしたところでバレてしまい、仕方なく戦闘になった。
相変わらずの化け物で、私の魔術は殆どが通用せず、
偶然にも青熊と同じくらい強い白く大きな蛇が出てきて、熊と蛇との戦闘になったから逃げ切れたものの、私たちは小さくない怪我を負った。傷そのものは魔術で塞いだものの、私の脇腹には大きな傷跡が残った。アドラーにはその美しい羽に大きな傷跡がついてしまった。幸いにも飛ぶこと自体は問題ないようだから、それだけは良かったと思う。
「よぉっ、元気か?」
そして逃げた先で休憩していると師匠がやってきた。
「あっ、師匠。何で生きてるんですか」
「お主、久しぶりにあった師匠にそれはないじゃろ?」
「何も説明せずにただただ私をボコボコにし、挙句の果てにはこんなところに置いていく人に対してこれ以外にいう事あります?」
「むぅ~・・・これが一番手っ取り早いんじゃがのぉ。ところでその鳥は従魔かの?」
「えぇ・・・まぁ、そうですけど。」
「ほお、見たことない魔物じゃな。まぁ、ええか。さ、帰るぞ。」
「えっ、あっ、はい。」
そして私とアドラーを連れて師匠は転移した。
「あの師匠?ここどこです?」
師匠に帰るぞと言われて転移した先は見知らぬ場所。前世でいう大学のような建物が奥に見え、私たちはその入り口と思われる門の前にいる。そして門横には『試験受付はこちら』とかかれた看板が見え、多くの人がそこに並んでいる。もしかして受けろとかいわないよね?
「魔術学園じゃ。お主はここの入学試験を受けてもらう」
「はぁ!?聞いてないですけど!?」
「そりゃそうじゃろ。言ってないからな!」
「ダァもうこのクソ師匠!」
いやまぁ、そうじゃないかと思ったけどさ!試験で何するか何にも聞いてないんだけど!?
「あぁそうじゃ。儂とハルトとザックで推薦状を出しとるから、儂らの面子を潰さないよう頑張ってくれ。ではな。」
そして師匠は転移してどこかへ去っていった。
「ダアアアアアもう!!!ふざけんな!!!」
「あのぉ・・・大丈夫ですか?」
「ハッ!?すみません。お騒がせしました。」
思わず叫んでしまった。おかげで色々な人から奇異な目で見られてる。恥ずかしい。
「いえいえ、それでその・・・アンナ様であってますか?」
「えっ、あっ。はい、そうです。」
「ほっ、良かったです。私、学園の事務員を務めているクレアと申します。賢者ハルト様よりお話は聞いております。受付を行いますのでどうぞこちらへ。」
「あっ、はい。ちなみにこの子も大丈夫ですか?」
「えぇっと、使い魔ですか?」
「えぇっと、多分?従魔なんですけど、使い魔と従魔って何か違いがあるんですか?」
「あら?ご存じないのですか?使い魔は魔術で産み出した魔物のことで、従魔は魔物を何らかの方法で従えた場合に従魔となります。従魔の場合ですと厩舎に預けることとなります。」
「あー、そうなんですね。師匠は何も教えてくれないんですよね。じゃぁ、厩舎に預けさせてください。」
「かしこまりました。では、そのように手配しますね。こちらへどうぞ。」
クレアさんに案内されて受付へ向かう。なんか凄い見られてるんだけど?それに色々とヒソヒソ声が聞こえてくる。
———あら~、美しいわ~
———アレがウォート様のお弟子さんかぁ、羨ましいなぁ。
———ふんっ、使い魔も知らん奴でもウォート様の弟子になれるのか?それなら俺が弟子でいいだろ。なぜあいつなんだ。
おいおい、羨ましいとか正気?さっきのやり取り見てた?そこのお前、変わろうか?毎日殺される覚悟があるのか?
「アンナ様?」
「あっ、はい!なんでしょう?」
「こちらに名前と得意な魔術を記載お願いできますか?」
「あっ、はい。わかりました。」
いつのまにか受付についてたらしい。気が付かなかった。クレアさんに言われた通り、名前と得意魔術・・・ってなんだろう?得意とか何もなくない?現式とか事前に組み立てればいいだけじゃん?
「えーっと、得意魔術って何でもいいんです?」
「はい、何でもいいですよ。」
「古式魔術全般とかでも?」
「えっ?えぇ、まぁ、何かいても大丈夫ですよ。」
ふーん・・・、じゃぁ古式魔術全般って書いておこ。現式は結局あまり使ってないし。
「はい、書きました。」
「ありがとうございます。ではこちらの魔力検査を行いますので、手を置いてください。」
魔力検査?何だろう。まぁ、言われた通り手を置けばいいかな。
手を置くと、水晶の中に白と黒の光が発生し、それらが混ざり合って最後にプラネタリウムのようにきれいな見た目になって光が消えた。
———えっ?何あれ?
———何属性?
———わからん・・・。もしかしたら時空間属性かも?
———そんなのあるの?
なになに、魔力に属性とかあるん?クレアさんもボーっとしてるし。なにこれ?
「あのー、大丈夫です?」
「あっ!はい、失礼しました。魔力検査はこれにて終了です。では、こちらの受験表を持って案内に従い受験会場へ進んでください。従魔についてはこちらで今お預かりしますね。カイさんー、お願いしますー!」
クレアさんがカイさんと呼ぶと、後ろから高身長でガタイのいいおっさんがやってきた。
「おう、その子を預かればいいんだな。何て名だ?」
「あっ、はい、お願いします。この子はアドラーといいます。」
「アドラーか、良い名だな。よしアドラー。こっちについてこい。」
「じゃ、アドラー。またあとでね。」
「クゥー」
そしてアドラーは私から離れて、カイさんについていった。
「こちらが預かり札となります。試験が終わったらここの裏に従魔用の厩舎がありますので、そこにいる方に札を渡してください。では、試験頑張ってくださいね。」
「はい、わかりました。」
受付を無事に終えた私は学園に入っていく。・・・って別に私が申し込んだわけではないんだけどな。まぁいいか。えっと、会場はA塔の1-2。ってどこだ。
そう思って辺りを見回してると、少し歩いた先に案内板があったので、それを見て場所を確認。会場に向かっていく。
———トンッ
会場に向かっている最中、後ろから走ってきた子とぶつかって軽くよろける。
「おっと。」
「あっ!ごめんなさい。大丈夫でした?」
ぶつかってきた子は私よりも頭一つ分小さく、華奢な体つきをしている。髪はロングヘアで綺麗な薄ピンク色をしており、目は髪と同じ色をしていて、肌は白く透明感がある。
「あのっ?大丈夫です?」
「あっ、あぁ、ごめん。あまりに綺麗な子だったから見惚れちゃった。」
「へぇっ!?わわたっ、きき綺麗?」
「えぇ、とても綺麗よ。」
「ポーッ・・・・」
「あれっ?おーい?」
軽くからかったつもりだったけど、思いのほか効いたみたい。顔を真っ赤にしてボーっとして私の方を見てる。
「あのー?大丈夫?」
「あっ、はい!すみません!姉様」
「・・・ん?姉さま?」
「はい!とても美しい方だったので姉様と!ダメですか?」
「ゴフッ!」
やめて!その上目づかいは私に利く!大ダメージよ!
「だだだっ!大丈夫ですか!?姉様!」
「え・・・えぇ、大丈夫。大丈夫よ。それより試験会場に行きましょう。あなたも試験を受けに来たのでしょう?」
「あっ!そうでした!ところで姉様の会場はどこです?」
「私はA塔の1-2よ」
「あっ私も一緒です!じゃぁ、一緒に行きましょう!」
そして彼女は私の手を取って会場へと向かう。
「ところで君の名前はなんていうの?」
「私ですか?私はミリアです!以後お見知りお気を!姉様の名前を聞かせてください!」
「私はアンナ。よろしくね。ミリア。」
「はい!あのっ、もしかしてウォート様の弟子ですか?たしかそんな名前だったような?」
「あー、まぁ、一応?殆ど教わってないけど。」
「へー、そうなんですね。あっ!ここがA塔の1-2ですね!入りますよ!」
そんなこんなで話してたらいつのまにか試験会場の教室についた。教室には既に沢山の人がいて、本やノートで復習している人が殆ど。
そういや試験内容聞いてなかったけど、これ筆記試験だよね?魔術の実践試験なかったら間違いなく落ちると思うんだけど。ミリアに聞いてみよ。
「ねぇ、ミリア?試験内容って何か知ってる?」
「えっ?聞いてないんですか?」
「うん、師匠が今日突然ここに連れてきて試験受けろとか言われたんだよね。酷いよね?」
「えっあっ、そっ、そうなんですね。えっと、試験は魔術はもちろんのこと、数学に大陸史などの基礎知識を問う筆記と、実際にどれくらい使えるのかの実践試験があると聞いてます。ウォート様の弟子なら余裕なのでは?」
「んー、どうだろ?まぁ、お互い頑張ろ」
何も対策してないから多分落ちる気がするんだよなぁ。まぁ、いいか。
「はい!そうですね!ではまた後で!」
そして私たちは別れ、指定されている席に座る。そして少しすると担当教官が入ってきて試験が始まった。一瞬、『私筆記用具持ってきてなくない!?』って思って焦ったけど、アイテムボックスに運よく入ってた。よかった。
で、試験についてなんだけど、さっぱりわからなかった。古式魔術に関することは記載できた。けどそれも5問くらいしかなかったし。他は現式魔術か数学が大陸史に関する内容で、数学は前世でいう中学レベルだから問題ないとして、他は全滅と言っていい。この魔術を作ったのは誰でしょうとか言われても知らないから!千年前に起こった大戦は何でしょうとか言われても知らないから!
「筆記試験はこれにて終了とする。次は13時からB塔の訓練場にて実践試験を行う。送れぬように。では解散。」
試験官の号令により、その場は解散となった。解散となって直ぐ、ミリアが私の元に来た。
「アンナ姉様!どうでした?」
「うー・・・ダメダメです。現式魔術とか知りません。古式魔術ならわかるんですけどね。大陸史?そんなものはありません。多分落ちたと思います。」
「だっ・・大丈夫ですよ!筆記試験の比重は3割程度ですから!実践試験で満点を取れば合格できます!」
ミリアはそういって腕をパタパタさせながら励ましてくれる。可愛い。
「あっ、そうなんだ。なら多分大丈夫だね。実践試験って何するか知ってる?」
「えっと、例年は指定の魔術媒体を使用して、指定の魔術を発動させるっていう試験だったはずです。」
「あー、現式かぁ。古式なら余裕なんだけどなぁ。」
「あの・・・姉様?先ほどから気になっていたのですが古式魔術をお使いになられるのですか?」
「うん、というか先にそっち知ったから、現式魔術のことはそれこそウォートの弟子になってから知ったんだよね。使えないことはないけど、慣れ親しんだ古式の方が楽。」
「そうなんですね!じゃぁ、後で見せてもらってもいいですか?」
「うん?それくらいなら大丈夫だよ。それよりもご飯食べよう?弁当は持ってきてる?」
「持ってきてますよ!私良い所知ってるのでそこで食べましょう!」
そういってミリアは私の手を取って教室から移動した。移動した先はA塔の裏手にある雑木林の中。その先にある小さな泉がある場所。
「どうですか?とても綺麗じゃないです?」
「えぇ、とても綺麗。ところでミリアは何でこの場所を知ってるの?」
「私の親がここの特別講師を務めてて、その関係ですね。さっ!ご飯食べましょ!」
特別講師、そういう立場の人もいるんだ。ってミリアってもしかして凄い家系の子だったりする?・・・気にしないでおこう。
私たちは適当な場所に腰を掛けて、弁当を取り出す。といっても、私の場合は普通に皿と焼いた肉とパンを乗せただけなんだけどね。パンを残しておいてよかった。
「アンナ姉様はそれだけですか?」
「えぇ、だって試験あるとか聞いてなかったもん。何も用意してないわ。」
「あっ!じゃぁ私のを上げます!」
「いやいや、いいわよ。肉なら沢山あるし。」
「じゃぁ、交換でどうです?」
「それならまぁ・・・いいわよ」
そして私たちは肉と野菜を交換して、美味しくご飯を食べた。ちなみに私が渡したお肉はワイバーンの肉だ。とっても美味しそうに食べてくれた。可愛い。
ご飯を食べ終わった私たちは、次の試験会場へと移動した。
「おい、お前、俺に何かいうことあるだろう?」
そして会場で全く知らないクソガキに絡まれた。面倒くさ・・・。
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