第21話:従魔
「ふぅ・・・、何とか逃げ切れたか。」
この森に置いて行かれて1ヵ月。ほぼ毎日のように魔物が襲ってくるため、その度に拠点を変えていた。幸いにも夜に襲ってくる魔物は少なかったため、寝不足に陥ることはなかった。
私がいま逃げていたのは初日に見た青い熊だ。私は勝手に
今思えばよくアレに目を付けられて生きていたよなってレベルだよ。私は何かと運がいいみたい。
あ、ちなみに壊れてしまった右腕の魔法具は結局治ることはなく、水晶になっていた部分も元の状態に戻っていた。幸いにも魔術の使用にはさほど影響がなかったのは安心した。当初は若干の違和感があったが、今はもうそんなことはない。
「はぁ・・・、ホント、この地で2か月生き抜くとか無理でしょ。師匠なら2か月どころか何年でも暮らせるんだろうけどさぁ。」
———グオオオオ!
そんなことを愚痴りながらも、目の前にいるオークを倒す。大分戦いに慣れてきて、わざわざ
あと、付与にも色々あることがわかった。初級魔術でやった属性付与が大した効果がなかったから他も同じって思ってて敬遠してたんだけど、実際に使ってみるともっとわかりやすく火をまとって攻撃力を挙げたりとか、この間グリフォンがやっていたみたいに風刃をまとう付与とか色々と使えるものが多かった。特に純粋に防御力が上がる鉄人ノ付与と、移動速度が大幅に上昇する嵐速ノ付与、純粋な火力があがる炎豪ノ付与は結構使う。これらは同時に使用可能で、デメリットもないからかなり使い勝手がいい。
付与の何がいいって、グリフォンみたいに魔力をまとったりして魔術を打ち消してくる相手でもちゃんと攻撃が通せるところ。しかもそういうタイプに限って痛みに弱く、スタミナも見た目の割になかったりするから、かなり重宝してる。まぁ、それでもグリフォン相手だと割とギリギリだったけどね。
「はぁー、なんか最近色々な発見あるなぁ。20年間で色々な魔術を覚えたつもりでいたけど、実際に使ってみると全然違うし。私の知らない使い方とか沢山あるし。」
実戦に勝る修行はないとかって聞いたことあるけど、本当にそうだったらしい。
「よしっ、今日はこの辺でいいかな。」
ある程度移動した先で、良い感じに開けた場所があったので一旦そこにテントを張り、中に入る。最近は魔力にも余裕が出て来たので、寝る前に卵に魔力を注いでる。銀竜のほうにはまだあまり注いでない。ダンジョンからドロップしたほうの卵はもうそろそろな感じなんだよねぇ。
「んー・・・、なんかもう少しで孵化する気がするなぁ。魔力1000くらい注いでみるか。」
いつもは寝る前に魔力を注いでいたけど、あと少しな気がしたので魔力を注いでみる。
———ピシッ!
そして700ほど魔力を注いだところで、卵にひびが入る。
「おっ、まじで!?」
「キューッ!!」
そして少し待つと中から、ひな鳥が出てきた。真っ白で真ん丸な雛。超可愛い。直ぐに私の胸元に飛び込んで来た。とりあえず
「キュッ!キュッ!」
身体が綺麗になったのが嬉しかったのか、すごく喜んでいる。可愛い。
「名前を付けないとねぇ・・・。」
どうしよかなぁ。かっこかわいい感じに育ってくれると凄く嬉しいんだけど・・
「キュッ!?キュキュッ!」
「えっ?何?自分は雄だって?」
「キュッ!」
不思議と何を言いたいのかが伝わってきた。どうも可愛いのは嫌で、カッコイイ名前にして欲しいみたい。私の考えも伝わってたのかな?
「アドラーっていう名前はどう?アドラーはドイツ語で鷲っていう意味で、鷲は空の王者とも呼ばれてるんだよね。どうだろう?カッコイイかな?」
「キュイ!キュイー!」
私がそう伝えると、その場でパタパタと飛び跳ねて、全身で喜びを表現してくれた。この名前で良かったみたい。
「これからよろしくね、アドラー」
「キュイッ!」
さてさて、とても可愛い子が味方になったわけだけど、今更ながら思う。孵化させるタイミングミスった。こんな危険な地で孵化させるんじゃなかった。もっと安全が確保された場所で孵化させて、徐々に育てていくべきだった。
「アドラー、この地はとても危険な場所だから、なるべく私から離れないようにね。わかった?」
「キュイッ!」
とはいえ、やってしまったことを嘆いてもしょうがない。頑張って守りながら育てよう。
「そういえばこの子何食べるんだろう?肉でいいのかな?」
というか肉しかない。あと魔物が食べそうなモノと言えば魔石だけど、食べるのだろうか?とりあえず出してみるか。
「アドラーって何食べるの?今あるのだと肉と、あと食べるのか知らないけど魔石もあるよ」
「キュイーッ!」
私が取り出したのはグリフォンの肉と、ダンジョンでグレーターウルフからドロップした拳大の魔石。するとアドラーはとても嬉しそうな表情で魔石に飛びついた。そしてその嘴でつつきながら食べている。産まれたばかりなのに、魔石を削れるくらいには硬いんだねその嘴。魔物の生態は不思議だ。
「それでよかったの?肉もあるけど?」
「キュイ?キュッ!」
どうやら魔石を食べた後に肉も食べるようだ。育ち盛りと言ったところか。食べるペースは遅いけど、中々に大食いになりそうな予感。
「んー、何しようかな~。暇だ。」
こんな場所でなければ錬金人形の組み立てを行いたいところなんだけど、いつ魔物が襲ってくるかわからないなかで、魔力を使う作業するのもなぁ。
「昼寝するかぁ。」
「キュッ?」
「ん?ちょっとお昼寝してくるね。ゆっくり食べてていいよ。何かあったら起こしてね」
「キュッ!」
アドラーは賢いなぁ。私は寝室に向かい、ベッドで横になる。休憩できるうちにした方がいいだろうし。
———ドンッ!
「また魔物かぁ。」
そう思いながら外に出て、魔物を確認する。
「キュッ?キュッ!キュッ!」
外にいたのはアドラーと、その周りに転がっているワイバーンの死体が2体。アドラーはそんなワイバーンを啄んで、ご飯にしている。そして私に気が付いたアドラーはこちらに飛んでくる。ってなんか少し大きくなってない?
「えっ?なにこれアドラーが倒したの?」
「キュッ!キューッ!」
「うわっと」
そう聞くと、褒めて褒めてと飛び跳ねて私に全力で甘えてくる。
「よしよし、お前は偉いねぇ。強かったんだねぇ」
「キューッ!」
とりあえず、アドラーは返り血で汚れてるので、
「キュッ?キュキュッ!」
「えっ?」
私が
「キュッ?」
「いや、そんな”私なにかやったちゃいました?”みたいなことしなくていいから。」
「キュキューッ!」
何が楽しいのか、色々なところに対して
「んー・・・、とりあえず移動しようか。アドラー、移動するよ。」
「キュイッ!」
アドラーが倒したワイバーンをアイテムボックスにしまい、テントもしまって場所を移動。
「ギャギャッ!」
「ゴブリンかぁ。面倒だな」
移動中、5体のゴブリンが私たちを襲ってきた。私が対処しようとすると、
「キュッ!」
———パパパパン!!
アドラーが物凄いスピードでゴブリンに突撃し、瞬く間にゴブリンの頭がはじけていった。
「アドラーそんなに強かったんだね。凄いよ~。」
「キュキュー!」
しかも返り血は自分で綺麗にしてるし、なんか魔石5つ加えているし。あの一瞬でそんなことしてたの?下手したら私より強くない?あとまたちょっと大きくなった?
「・・・まぁ、気にする必要もないよね。移動しよっか。」
「キュッ!」
そういうとアドラーは私の頭に乗った。いや、重たい。でもなんか楽しそうに”キュッ!キュッ!”って鳴いてるし放置でいいか。かわいい。
その後もゴブリンを主としてコボルトとかオークも襲ってきたけど、そのすべてをアドラーが倒していった。わかってたことだけど本当に強いな。私の魔術覚えさせたら更に強くなるんじゃないかな?あとで覚えさせてみようか。
移動中に倒した魔物の死体はアイテムボックスにしまい、魔石はアドラーが全部食べていった。既にかなりの大きさになっていて、体高が私の太もも位までの大きさになってる。さすがに頭に乗せるにはつらいサイズになってしまった。ちょっと寂しい。ただ、相変わらず姿は真っ白で顔つきも雛の時のまま。雛をそのまま大きくした見た目だから、可愛いのに変わりはないけどね。
「おっ、ここいい感じだね。ここで休憩。何もなければ今日はここで寝泊まりかな」
「キュイッ!」
アドラーも私の足にスリスリしながら同意してくる。ホントに可愛いなお前。
「さ、アドラー着いて来て。」
「キュイ!」
そしてテントの中にある試験場へと移動。ここでアドラーに私の魔術を見せ、真似できるかを試してみる。
「アドラー、今から君に私の魔術を見せる。もし使えそうなら、それを真似て使ってみて。ダメそうならそういってね。」
「キュッ!」
そして私が使える様々な魔術を見せていく。一通り見せたところどうも風属性系統が一番得意なようだ。次点で水属性系統。地属性系統の魔術は全く使えず、火光闇は使えなくもない程度。
ちなみに、風と水の魔術に関しては私より威力も汎用性も上。最も得意な風属性に至っては文字通り自由自在。私が決まった動きしかさせれないのに対して、アドラーが使った魔術は自分の意思で操作できるという具合だ。何という格差。
どこまで操作できるのかと思い、試しに土壁を作ってその裏に的を用意して、そこに当ててみてといったところ。壁を避けて後ろの的にピンポイントで当てた。威力が減った様子もなし。
「キューッ!!」
私が教えた魔術が楽しかったのか、何かとても楽しそうに魔術で遊んでる。氷の彫像を作っては風で壊して斬って吹き飛ばしてと色々やってる。
「ニャァー」
「お前さんは自由だなぁ。よしよし。」
「キュッ!?」
いつものように、いつの間にかいる猫ちゃんをなでていると、それに嫉妬したのかアドラーもこちらに駆け寄ってきた。
「おーよしよし。お前もなでられたいのかぁ。よしよし。そろそろご飯にするぞ」
「キュッ!」
「ニャァー」
ご飯の一言に喰いついた二匹を連れて、キッチンへ。今日の肉はまだ残ってるワイバーンの肉とオークの肉。
「ニャッ、ニャッ」
「キュキュッ!」
肉を焼いていると、待ちきれないのか二匹して私をせかしてくる。
「そうせかさないの。もう少しで出来るから。」
そして一人と二匹分を焼いたところで、更に肉を盛り付けると、置いた傍からどんどん食べていった。猫はわかるけど、アドラーは飛びながら器用に食べてるし。とんだけ食べたかったんだ。
私もダイニングに移動して肉を食べる。野菜はないけど、まぁ焼けるだけ十分でしょ。オーク肉もワイバーンの肉も美味しいし。ってそうだ。後でワイバーン捌いとこ。・・・まぁ、明日でいいか。
食事を終え、風呂に向かう。するとアドラーもついてきた。
「何?アドラーも風呂に入るの?」
「キュイッ!」
「そう、じゃぁ一緒に入ろうか。」
幸い、風呂は結構広いから、アドラーくらいの大きさなら一緒に入れる。まぁ、成長して大きくなったらわからないけどね。
「ふぅ~~・・・気持ちい~~」
「キュイ~~」
私とアドラーは身体を洗った後、頭にタオルを乗せ浴槽に入っている。定期的に
お風呂を満喫したら、身体を拭いて乾かし、寝室に移動してベッドに潜る。当然の如くアドラーも一緒に布団に入ってきたし、猫ちゃんも一緒に入ってきた。
「おやすみ~」
「キュ~」
「ニャァ~」
そして私たちは眠りについた。
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