第19話:死闘
「さて、どうするかなぁ」
生半可な魔術を使うと、さっきみたいに跳ね返してくる可能性がある。さっきの熊みたいに
どうやって倒そうか考えているとグリフォンの姿が消える。
「くっ!?」
そして一瞬で目の前に現れて前脚を横に薙いでくる。
「ちぃっ!?」
私はそれをギリギリで回避。ついでに身体強化魔術と魔力操作での身体強化を二重掛けし、ついでに
そして私が放った弾丸の雨など気にせずに、グリフォンは私の頭上に一瞬で移動して噛みついてくる。
「くそがっ!」
私は空中を蹴ってギリギリで回避。すぐさま反転し、グリフォンの空いている胴体に思いっきり蹴りを放つ。
———ドンッ!
中々いい音がしたが、辛うじて魔力の層を突破したくらいで、本体にはダメージがない。というか武器無しでこれを倒すのはかなりキツイんですけど。
「ぐはぁっ!?」
直後、グリフォンの尻尾が私に目掛けて振り払われ、それに当たった私は吹き飛ばされる。
「ぐっがっ!」
地面に強く叩きつけられた直後、風刃が襲ってくる。私は何とか身体を動かして回避。しかし回避した先にはグリフォンが待ち構えており、こちらに噛みついてくる。
「ふざけろ!」
大きく開いた口に向かって
———ガアアアア!!!
それは綺麗に口の中に入っていき、中からグリフォンの身体を焼いていく。大分苦しそうにしているので、かなり利いたようだ。
追撃しようとした所、グリフォンの口に尋常じゃない魔力が集約されているのを察知した私は転移で遠くへと離れる。
———ウォオオオオン!!!
直後、咆哮と共にグリフォンを中心とした暴風が発生。その風は一定範囲にあるもの全てを切り裂いていった。更にグリフォンの見た目にも変化があった。グリフォンの前身から緑色のオーラが出ており、時折体の周囲に風刃が発生している。
———ドンッ!
「はっ!?」
グリフォンと私との距離は200m以上はあったはずなのに、その距離を一瞬で詰めてきた。そして風の刃をまとわせた前脚を振るってくる。
「くそっ!」
先ほど以上のスピード、しかも見た目以上に範囲が広く、避けた際に掠ってしまい、腹を結構深く着られてしまう。二重で身体強化してるからこの程度で済んだものの、してなかったら真っ二つになっていたかもしれない。
すぐさま魔術で治療して怪我を塞ぐ。直後、数多くの風刃が私目掛けて飛んでくる。
「
転移で回避するが、その先にも風刃が飛んでくる。私はそれを
反撃として
———ドンッ!
そしてグリフォンは再び姿を消す。どこに来るのかと身構えると、真下から何かを砕く音が聞こえてくる。咄嗟にその場を離れると、下からグリフォンが飛び出してきた。
「ぐぅっ!?」
直撃こそ免れたが、地面から飛び出た際に飛んできた石が私に当たる。痛みを我慢し、空を飛んでいるグリフォンに対して
「ギイイィィィ!!」
私の放った光の矢は、風の鎧を貫通し、体にまで届いた。わずかに肉を抉った程度だが、光なら効果があるらしい。とはいえ、光属性の攻撃で通りそうなのは今使った
そんなことを考えている間にも、グリフォンの攻撃が止むことはない。風刃を飛ばし、そのうえで近接攻撃も仕掛けてくる。先ほどのように口を開けることがあれば、口の中に魔術を叩き込むんだけど、それを警戒しているのか攻撃時に口を開けるどころか、こちらに顔を向けることすらしない。
かろうじて避け続けることは出来ているが、そのどれもがギリギリで、回避するたびに浅くない傷を負っていく。回復するのも間に合わない。
「そういえば付与魔術とかあったな。あれ使ったらいけるか?」
師匠だったら魔力ごとグリフォンを燃やしてしまうんだろうけど、私にそんなことはできない。ぶっつけで一度も使ったことがない付与を試してみるよう。
———
使ったのはホーリー系魔術の付与。
———ウォォォォォン!!!
私の変化に気が付いたのか、攻撃が更に苛烈になってくる。しかし、付与のおかげか、思った以上に私の動きも早くなり、グリフォンの動きについていけるようになった。付与にこんなわかりやすい効果があるとは思わなかった。こういうのがあるならもっと積極的に使っていけばよかったと今更ながら思う。
「ってそんなこと考えている場合じゃないよね!」
グリフォンが私に近づき、前脚で攻撃してきたところを回避してカウンターで顔に蹴りを叩きこむ。
———ガァァァ!!
「っっーー!!」
攻撃は通り、かなり痛がっている。自分でも驚くほどの威力が出た。あの巨体に無手の攻撃が通るか不安だったが、どうにかなりそうな気がしてきた。とはいえ、風刃をまとっているところに近づけば、当然私もダメージを負う。私が倒れるのが先か、やつを倒せるのが先かの戦いになってきた。
グリフォンが怯んでいる間に更に追撃を加えていく。
「オラオラァ!!」
「グォォ!」
そんな私に対し、グリフォンは身体を回転させて尻尾をこちらに叩きつけてくる。
私はそれを飛んで回避。そして飛んだ私に対して風刃を飛ばしてくる。これを
そうしてグリフォンから離れているうちに、グリフォンは身体にまとっていた風刃を顔の前に集めていた。
「まっずい!
———ウォオオオオ!!!
直後、私が先ほどまでいた場所にブレスが飛んでくる。それは一直線に飛んでいき、途中にある木は全て木っ端微塵に切り裂かれていった。
「けど、今がチャンスだよね!」
私が転移した先はグリフォンの頭上。ブレスで風刃の鎧が消えた今がチャンスと、その顔面を殴りに行く。
「グァァ!」
しかし、私が転移した先には予想つけられていたようで、身体を捻って前脚を振り上げてくる。
———ドンッ!
私の右腕とグリフォンが振り上げた右前脚がぶつかり、私は吹き飛び、グリフォンの身体は地面に押し付けられる。
———パリンッ!!
「うっそ!?」
いまの衝撃で右腕についていた義肢が砕ける。どこかで魔法具は壊れないと思っていたから、これは予想外だった。
しかしよく見ればグリフォンの丸太みたいな右前脚もあらぬ方向に曲がっている。私の細腕でそんな威力を出せたことに驚きだが、それに驚いている暇はない。
———バサッ
足がダメになったグリフォンはその翼を羽ばたかせて空を飛んだ。そりゃ翼あるからね。飛べるのも当然か。飛ばないものだと思っていた。
———ドドドド!
そしてグリフォンはその翼を力強く羽ばたかせ、弾丸のごとく羽を飛ばしてくる。私はそれを避けつつ
———ガァァァァ!!
そしてこのままでは負けると思ったのか、私に向かって突撃してきた。しかし最初のようなスピードはない。私はそれを難なく回避して、がら空きとなったところに
———ゴキッ!
骨を砕いた何とも言えない感触が足に響く。それが決定打となったのか、グリフォンの巨体が地に沈んだ。
「ま・・・まじかよ」
正直、倒せるとは一切思ってなかった。だって武器はないし、私の魔術もそれほど効果なかったし。ダメ元で使った付与があれほど強力だったとは思わなかった。私の何倍も大きい巨体を持つグリフォンを、いかに付与が強力とはいえ殴る蹴るで倒せるとは思わないでしょ。
代わりに右腕の義肢の魔法具が壊れてしまったけど、これだけの大物を倒す代償としては軽いほうだろう。
「ふぅ・・・疲れた・・・。少し移動しようか。」
これだけ暴れたのだ。他に魔物が来ないとも限らない。グリフォンの死体をアイテムボックスにしまい、その場から移動して、強い魔物がいなさそうな場所を探す。
「ここなら大丈夫かな。」
そうして見つけたのは小さな洞窟。入り口は人一人入れる程度で、中もテントがギリギリ展開できる程度の広さしかない。けど、この辺にはゴブリンやコボルトといったこのエリアでは弱い方の魔物しかいなかったので、恐らく安全な方だと思われる。少なくとも、あのドラゴンや、それと真正面から殴り合ってた熊の縄張りではないと思われる。もしそうならゴブリンがこの辺にいるはずないだろうし。
改めて中に何もないことを確認してから、魔法テントを展開し、結界と魔物除けを使用する。服も結構破けたはずだが、いつの間にか治っていた。出来ればこの調子で右腕の魔法具も治ってくれると嬉しいけど、あまり期待しないでおこう。
「ふぁぁぁぁ・・・疲れたぁ・・・・」
疲れた体を癒すため、私は風呂に入る。
「この環境であと二か月かぁ。本当にキツイ戦いになりそう。」
今回は運よく倒せたのはもちろん、疲れたところに魔物が襲ってくることもなかった。けれど、次も倒せるとは限らないし、倒したら倒したで次が襲ってくる可能性だってある。なるべく戦わない方針でやっていきたい。
私は風呂からあがり、服を着てキッチンに向かう。そして今日捌いたワイバーンの肉を焼いていく。ただ、何も処置せずに焼くのは怖いので、
「ん~~、いい匂い~」
「ニャァー」
「君はいつの間にかいるよねぇ、肉が欲しいの?」
肉が焼けるいい香りがキッチンに漂い、その匂いに気が付いた猫がキッチンに上がってきて、肉をねだってくる。
「はいどうぞ。」
焼けた肉の欠片を渡すと、美味しそうに食べ、直ぐに次を要求してきた。とりあえず200gくらいのサイズを焼いて更に乗せて渡すと、美味しそうに食べ始めた。
その間に私の分も焼いて、ダイニングで食べる。それだけだと味気ないので、アイテムボックスからパンを取り出して、一緒に食べる。
「ん~~、美味しい~~!」
ワイバーンの肉はとても美味しい。前世で食べた黒毛和牛より美味しい。まぁ、あれはランクの低いやつだから、最上級のと比べたらどうかわからないけどね。
私は最後まで美味しく頂いた。猫ちゃんも全部食べ切ったようだ。
すると猫ちゃんが私の胸元に潜り込んでくる。どうやら寝るときのポジションはここらしい。
「ふぁぁー・・・おやすみなさい。」
今日の戦いで疲れきった私は、直ぐに眠りについた。明日はもう少し楽になりますように。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます