第14話:お披露目パーティー

 「アンナよ、パーティにいくぞ」


 報酬を受け取ってから一週間。現式魔術に慣れてきて、特性とか何となくつかめてきた日の夕方。帰ってきた師匠に突然そう言われた。何が何だかわからぬまま、メイドに連れられて煌びやかなドレスを着せられた。師匠も私と同じようにドレスを着ていてとても綺麗だ。そして今、私と師匠は馬車に揺られて王城へと移動している。


 「あのっ、パーティってなんのですか?」


 「そりゃぁ、新しい特級魔術師が生まれたから、その祝いのパーティじゃ。」


 「???その特級魔術師ってそもそも何なんです?師匠も特級魔術師っていってましたけど。」


 なんか凄い人っていうのはわかるけど、どれくらい凄いのかがわからない。王家の次くらいの立場っていうのは聞いているけど。


 「あれ、儂説明しとらんかったかの?」


 「聞いてないですよー、王家の次くらいの立場があるとは聞いてますけど。」

 

 「そうじゃったか。特級魔術師ってのはオリジナル魔術を開発した者のことじゃな。もっと詳しくいうと、完全新規の魔力文字を開発したものに送られる称号じゃ。その認定は魔術協会が行っておる。今回は国内でその認定を受けた者が生まれたから、それを祝うパーティということじゃ。」


 「おぉー、ってことは師匠も開発したんですか?」


 「当り前じゃ。この間見せた炎装と、腕を治した術は儂が開発したオリジナル魔術じゃ」

 

 なるほど、そりゃぁ私が読んだ魔術書にも似たようなのが無いハズだ。新たに作られたものなんだから。


 「ちなみに特級と似たようなもので賢者という称号もあるが、あれは魔術協会の最高幹部に与えられる名じゃ。特級との違いは協会に所属しているかどうかの違いしかないがの。まぁ、あそこは魔術書庫アーカイブを好きなように見れるから、魔術という一点においては特級よりも上と称されることも多い。」


 先週来てたハルトさんも賢者の名の通り凄い人だった模様。そんな人が師匠に対しては敬語で、私に対しても敬語だったんだよな。師匠ってどんだけ凄い人なんだホントに。


 「ウォート様、アンナ様、王城に到着いたしました。降りてくださいますか?」

 

 そうこう話しているうちに王城に着いた模様。パーティーは王城の中庭で行うらしい。馬車から降りて、王城に仕える騎士によって中庭まで案内される。会場までの道中、パーティの参加者と思しき貴族たちがこちらをチラチラとみて何かを話していたが、誰もこちらに来ることはなかった。


 「ウォートよ、相変わらずじゃな。しかし威圧は少し抑えたらどうじゃ。折角のパーティじゃろうに」


 会場に着くと、直ぐに一人の老人が声をかけてきた。ってかこちらに人が近づかなかったの、師匠が威圧してたからなんですね。何してるんですか師匠。


 「なんじゃ、クソ爺。まだ生きとったのか。」


 「ふむ、それはおかしいのぉ、儂の方が年下の「あ”あ”っ”!?」おっとっと、なんでもないわい」


 誰かはわからないが、師匠とは旧知の中らしい。恰好は貴族というより魔術師と言った感じだから、この人も特級魔術師なんだろうか?


 「アンナよ、この爺はこう見えても特級魔術師じゃ。気を付けろよ」

 

 「その言い方はないじゃろう。アンナよ。こやつに何か嫌なことされたら儂を頼るとよい。稀代の天才魔術師ジャンポールとは儂のことじゃ。」


 そういってジャンポールさんは私に一本の短剣を渡してきた。


 「受け取っとけ、それは別に悪い物ではない。」


 受け取っていいかわからなかったけど、別に問題ないらしい。あれかな?なんか貴族の関係者を示す短剣とかそういう扱いのやつかな?鞘には綺麗な装飾が施されているし、権威を示すためとかそんな感じで使われてそう。


 「あっ、はい。えと、アンナです。ありがとうございます?」


 「うむ、素直でよろしい。ではなウォートよ。元気でな」


 ジャンポールさんはそう言って別の場所へ移動していった。


 『お集まりの皆さま、本日は特級魔術師の誕生を祝う会にお越しいただきありがとうございます。―――』


 ジャンポールさんが去ったところで、照明が暗くなり、司会の方が進行を開始する。こういう挨拶があるところは、前世のパーティと大差ないらしい。そして国王陛下のありがたいお言葉が始まる。


 凄い今更だけど、この国はソル王国というらしい。王様は金髪碧眼で童顔のせいか幼く見える。外見だけなら10代といっても通用しそうだけど、随分と堂に入ってるので若いのは見た目だけで、年齢はもっと上の可能性もありそう。


 そして王様のありがたい言葉が終わった後、新たに特級魔術師と認定されたクロウ・ミスガルという男性が表彰を受けた。外見は凄く幼く、10代にしか見えない。でも師匠という年齢詐欺がいるし、私も何ならその部類だから、見た目通りの年齢かはわからないんだよね。話によると王国の特級魔術師はこれで三人目だそうな。となると師匠とジャンポールさん、あとはクロウさんの3人か。少ないのか多いのかよくわからん。


———あれが神童と呼ばれるお方ですか。確かまだ16歳だったとか。


———ミスガル公爵家は次の代も安泰ですな。


———陛下も代替わりしたばかりというのにご立派ですな。


 周囲からそんな話が聞こえてくる。見た目どおり若いとは思ってたけど、まだ16歳なのか。王様も代替わりしたばかりらしい。堂に入っているように見えたから、国王になって結構な時間が経っているかと思った。


 表彰が終わった後、本格的にパーティが開始した。相変わらず師匠の元に声を掛けに来る人はいない。そんな中、師匠は堂々とご飯を食べている。お主も食えとか言われて私にもご飯を渡された。さすがにこんな環境で食べる勇気はないですよ師匠。でも渡されたからには食べないと。


———ウォート殿は相変わらずですな。


———あの隣にいる子は誰ですかな?


———最近弟子を取ったという噂がありましたから、お弟子さんでは?


 食べてる最中、そんな会話が聞こえてきた。大丈夫なのかなとか思ってたけど、周囲の人も師匠のことをよく知っているようだ。会話よりもまず食事っていうのはこういうパーティでもそうらしい。さすがに気まずいので、私は渡された分だけを食べ、師匠に一言伝えて会場の端に逃げた。あんな人目が突き刺さるなかで食事する度胸は私にはない。


 「失礼、ウォート殿の弟子とお見受けします。少しよろしいですかな?」


 端でゆっくりしていると、明らかに偉い人って感じの恰好をした人が来た。スーツの上からでもわかるほどの筋肉。左目の辺りに切り傷が付いていて、厳つい顔をした圧が凄い人だ。


 「えっ、あっ、はい。」


 「どうぞ楽にしてくだされ。この国は身分よりも実力が優先される社会ですからな。おっと、名乗るのを忘れてました。私、オライズ侯爵家当主、イラダ・オライズと申します。お名前を聞かせていただいてもよろしいですかな?」


 「あっ、アンナと言います。」

 

 侯爵ってめっちゃ偉い人じゃん!なんで私に声をかけて来たんだろう!てか顔!顔が怖い!いや、こう、威圧しないように気を使ってるのは何となくわかるんだよ。それはそれとして顔がね。怖いんですよ。


 「アンナ殿ですな。ウォート殿の弟子ということは魔術の腕も相当の物をお見受けいたします。もしよろしければ、我が領に来ませんかな?報酬は弾みますぞ。」


 「あっ・・えっと?」


 「オライズ卿、抜け駆けとは感心しませんな。」


 突然の勧誘に困惑していると、また別の貴族が来た。茶色の髪に茶色い目をした堀が深い顔をしたダンディな雰囲気の人。イケオジっていう言葉が似合いそうな人だ。


 「これはこれはミスガル公爵閣下。ご子息は素晴らしい才能を持っておりますな。特級魔術師の認定、心よりお祝い申し上げます。」


 「卿の所の倅も優秀だったと記憶しているのだがな。それにS級冒険者もいたと記憶しておるが、まだ欲するというのかな?」


 「特級魔術師を保有するミスガル公には言われたくはありませぬな。」


 なんか私の目の前で言い合いをし始めたよこの人たち。私どうしたらいいんだろう。ちょっと下がっておこうかな。


 「やぁ、君がウォート様のお弟子様かな?」


 偉い人達が二人の世界に入り、少しその場から離れたところで、先ほど表彰を受けていたクロウさんが私に話かけてきた。


 「えっ、はい。まぁ、そうですけど?」


 「この後僕のオリジナル魔術のお披露目をを行う予定なんだけど、その時に僕と魔術戦をしない?」


 「おぉ、それは面白そうじゃな。アンナよ。是非受けるとよい。」

 

 「あっ、師匠」


  いつの間に戻ってきてたんだ。


 「ルールはどうする?」


 「一般的なルールで攻撃手段は魔術のみ。3回攻撃を当てた方の勝ちでどうでしょう?」

 

 「うむ、まぁ良いじゃろう。アンナよ。遠慮なくやるとよい」


 「あっ、はい。」


 「受けてくれてありがとう。それじゃ、楽しみにしてるね。」


 そういってクロウさんはどこかへと去っていった。そしていつの間にかオライズ侯爵とミスガル公爵もいなくなっていた。結局なんだったんだアレは。


―――どうやらクロウ特級魔術師とウォート殿の弟子が魔術戦をするようですぞ


―――なんと、ただのお披露目ではなかったのか?


―――もともとはそうだったようですが、クロウ殿から申し込んだようですな。予定変更とのことですぞ。


———ほほう、それは楽しみですな。


 周りからはそんな声が聞こえてくる。何か結構期待しているみたいだけど、それに応えられるか不安だ。


 「ウォートよ。その者がお主の弟子か」


 「うむ、そうじゃ。可愛いじゃろ」


 「アンナと申します。陛下。以後、お見知りおきください」


 そんな感じでボーっとしていると次は王様がこっちに来た。って師匠ー!!王様にそんな口きいていいの!?やばくない?とりあえずここに来る前にメイドさんに教わった挨拶をしておく。

 

 「うむ、ウォートよりもしっかりしてるようだ。クリムゾン伯爵家が一代限りになるかと思ったが、そうはならなさそうで安心した。この後の魔術戦も楽しみにしておるぞ。頑張りたまえ。」


 「あっ、ありがとうございます。陛下のご期待に添えるよう、力の限り努めてまいります。」


 師匠って伯爵家だったんですね。なのになんでそんな強気に出られるの!?一代限りってことはもしかして師匠は平民上がり!?何をしたら一代で平民から伯爵になるんだろう。本当に何をしたんだこの人。意味がわからない。


 「うむ、でわな。今後ともウォートのことをよろしく頼むぞ。」


 えぇ、私が師匠の面倒を見ないといけないの?そう思って師匠の方を見るとめっちゃニヤニヤしてるんですけど。何その顔。


 「ほう、中々よい対応だったのではないか?儂よりしっかりしているではないか」


 「師匠は礼儀というのを少しは学んだほうがいいのでは?」


 「儂にそんなものは入らんわ!ハッハッハ!」


 それからも色々な人が私たちの元に来て挨拶していった。恋人はいないかとか今後どうする予定なのかとか色々と聞かれて凄く疲れた。

 知り合いの魔術師団長のザックさん、魔術協会の賢者のハルトさんが来たときは少し安心した。古式魔術の書は思った以上にいい物だったらしい。そのため事前に伝えた通りの報酬になるだろうとのことだった。ついでに魔術師団に入らないかとか、魔術学園に入学しないかとかも誘われたけど、今後のことはまだ考えてないので回答は保留にしてもらった。

 

 はぁ・・・なんかもう挨拶だけで疲れたんだけど。でもこの後も魔術戦があるんだよなぁ。戦闘は苦手なんだよなぁ。



 『それでは、新特級魔術師、クロウ・ミスガル様 VSウォート様の弟子、アンナ様による魔術戦を開始いたします!』


 そうこうしているうちに魔術戦が始まった。情けない姿を見せないように頑張ろう。





 

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