第15話:魔術戦

 私は今、今日新たに特級魔術師となったクロウさんと対峙している。他の貴族たちは隅によけ、中央に結界が張られている。元々最後に魔術の披露を予定していたらしく、この場で戦闘をしても特に問題ないらしい。それはそれとして、せめて着替える時間が欲しかった。ドレスで戦うのはまずくない?


 『ルールは簡単!互いに魔術を打ち合い、先に攻撃を三回当てた方の勝ち!殺さなければ何してもOK!それでは、よーい・・・はじめ!』

 

 えっ!えっ!まって今不穏なこと言わなかった!とと、とりあえず左目を開いて魔力を視れるよにしよう。


 「早速行かせてもらうよ。雷雲サンダークラウド

 

 そしてクロウさんの周囲に雷が走る黒い雲が展開される。そして指をこちらに向けると黒雲の一部に魔力が溜まっていく。

 

 「っ!光球障壁ライトバリア!」


 ―――稲妻ライトニング


 何かが来ると思い、咄嗟にバリアを張ったのが功を奏し、雷を防ぐことが出来た。


 「土弾アースバレット

 

 私が放った弾丸は、彼に届く前に雷によって迎撃された。何か師匠の時も似たようなこと起こったような。どこまで迎撃できるのか試してみるか。


 「土弾速射アースバレット・ラピッドファイア


 土弾アースバレットを連射して、弾幕がクロウさんの元に飛んでいく。しかしそのすべてが雷雲によって阻まれ、反撃として雷雲から雷をまとった水弾が大量に飛んでくる。


 「っ!神盾イージス!」


———ドン!!


 そして最後にさっきよりもヤバそうな魔力が雷雲の中央に溜まっていき、先ほどよりも巨大な雷が飛んできた。魔力を視れてなかったら今ので障壁を破られていたと思う。危なかった。

 

 「空間切断ディメンションエッジ


———ザンッ!


 私がもつ最大火力の攻撃を彼の腕に向けて放つ。腕を切るつもりで放ったが、彼はそれを避けたらしい。しかし、彼の右腕からは大量の出血が出ている。


 「ぐぁっ!!」


 次をどうするか考えていると、障壁を割られて私は吹き飛ばされていた。何が起こった!?


 『おぉっと!アンナ様がクロウ様の防御を破った!しかしクロウ様も直ぐに反撃!お互いに1点を取ったという状況だ!』


 誰が始めたのか、いつの間にか実況がついていて、そんなことを話している。状況を確認すると先ほどまで私がいた場所に黒雲があった。なるほど、私の背後から至近距離で攻撃してきたらしい。いつの間に。


 「ふふっ、まさかあの防御を貫通してくるとは思わなかったな。」


 「おかしいですね。腕を切り落とすつもりだったんですけどね。」


 「僕も完全に避けたつもりだったんだけど、間に合わなかったよ」


 あれって避けることが出来るんだ。発動と同時に指定した空間を切るっていう魔術なんだけどな。どうなってるんだ。


 「さぁ、続きを始めようか」


 彼がそういうと、黒雲が結界の空に展開され、彼自身も黒雲に乗って空に移動する。あれって乗れるものなの!?


 「さ、頑張って耐えてくれたまえ、雷水ノ雨メルトサンダー・レイン


 「光球障壁ライトバリア暴嵐テンペスト!」


 アホみたいな魔力が黒雲全体に巡らされたのを見て、咄嗟に障壁を張り、雲を散らすための暴嵐テンペストを使用する。私の真上にある雲は散ったが、直ぐにまとまっていく。


 「神雷槍ディバインランス


 「ぐあああああぁぁぁぁっ!」


 私が雲に気を取られていると、クロウさんから雷が飛んできた。その雷は私の障壁を貫通し、私に当たる。死ぬほど痛いが、我慢して治癒ヒールを使い、氷球障壁アイスバリアで追撃を防ぐ。更に炎槍ノ雨ブレイズランスレインを黒雲の更に上から炎の雨を降らして黒雲をどうにか散らそうとする。


 「よく耐えたね。でもそろそろ終わりにしよう」


 彼が手を挙げると、散らしたはずの黒雲が大量の小さな球となって彼の元に集まっていく。その一つ一つがアホみたいな魔力を有している。いやいやいや、死ぬ死ぬ死ぬ。ってかあれ受けたら死ぬとかそんなんじゃすまないよね!?跡形もなく消えるって!!


 「混沌ノ弾幕カオス・ラピッドファイア


 「鉄壁アイアンウォール神盾イージス!』

 

 私の目の前に巨大な鉄壁を配置、更にその手前に神盾イージスを張って貫通してくる弾丸を防ぐ。しかしそれもすぐに破られそうだ。一発一発の威力がアホみたいに高い。


 「空間転移テレポート!」


 よしっ!背後を取った!これで!


———それも出来ると思っていたよ、混沌球カオスボール


 「ぐぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 しかし彼は私の転移先に向けて黒く小さい球の一つを私に放つ。それが私の肩を穿ち、穴をあけた。転移すら読まれていたらしい。どうなってんだよ!


 『決着!クロウ様の勝利です!さすがの特級魔術師!神童の名は伊達ではなかった!対するアンナ様も素晴らしい魔術でした!素晴らしい戦いを魅せてくれた双方に拍手を!』


 会場全体が割れんばかりの大きな拍手がなる。その間、地面に寝そべっている私の元にジャンポールさんが来て、怪我を完全に治してくれた。ついでにドレスも元に戻って綺麗になった。


 「中々によい試合を見せてもらったわい。今度お主のところにお邪魔してもいいかの?」


 「アンナは今儂の家に住んでるんじゃ。許可を取るなら儂に言ってくれ」


 師匠も私の元にやってきた。


 「お疲れさん。お主戦闘慣れしとらんな?魔術の使い方が下手クソすぎるわ。」


 「ウォート殿は相変わらず厳しいのぉ。少しは褒めてやればいいものを」


 いやまぁ、戦闘慣れしてないというか、そもそも戦闘とかしたくないわけで。痛い思いするの嫌だし。今までは生きるために魔術を使ってだけだからなぁ。戦わずに済むならそれがいい。下手くそだろうと何だろうと最後に生きてれば問題ないと思うんですけどね。


 「魔術の発動速度と威力なんぞホメてもしゃぁないじゃろ。アンナよ。明日から厳しく指導するからの。覚悟しとれよ。」


 けれど、それではダメな模様。今回の戦いの何かが師匠の琴線に触ったのか、いままで私を鍛えるつもりとかなさそうだったのに、私を鍛えることが決定してしまった。てかなんか師匠の周りに火の粉飛んでるんですけど、もしかして凄く怒ってる?激おこなの?


 「さて、儂は帰るかの。アンナよ。頑張りたまえ」


 あっ、ジャンポールさん飛び火しないうちに帰ってしまった。他の貴族も私たちから距離取ってるし。師匠?


 「儂等も帰るぞ」


 「あっ、ちょっ、待ってください!」


 そして師匠が終始不機嫌なまま家に付いた。師匠は書斎に真っ直ぐ向かっていった。


 「あの、アンナ様。今日のパーティで何かあったんですか?」


 師匠が不機嫌なことを不思議に思ったメイドのニーナさんが私に質問してきた。


 「心あたりがあるとしたら、私と新しく特級魔術師になったクロウさんと魔術戦?をして私が負けたことくらいですかね?何であんな不機嫌になるかわからないですけど。」


 「あー・・・それが原因ですね。あの方はとんでもない負けず嫌いで有名なんですよ。アンナ様は直弟子じゃないですか。周囲から見ると”ウォート様の教えを受けたアンナ様”として見られているわけで。つまり何が言いたいかというと、ウォート様の技術が他の魔術師に負けたように見えるわけですよ。ウォート様はそれが気に入らなかったんだと思いますよ。」


 「えっ?そんな風に見られます?私弟子になってから一週間ですよ?」

 

 「それでもですよ。ウォート様の名は、それだけ重たいんですよ。実情を知ってる人ならともかく、それを知らない人にとっては特にそう見えるかと」


 「仮にも師匠と同格の魔術師相手でもですか?」


 「少なくともウォート様はそう感じるかと。例えそれが特級魔術師の誕生を祝うパーティであったとしても、嫌な物は嫌なそうですよ」


 まじかぁ。あの人周囲の目を気にするタイプだったのか。あれっ、もしかして迂闊に模擬戦とかできない感じかな?


 「そういう訳なので、明日からは頑張ってくださいね。恐らく相当厳しく鍛えられるかと。」


 「あっ、既に言われてます。覚悟しておきます。」


 「厳しくでは済まないですね。何回か死ぬと思ってください。あの方蘇生もできるので、何度死んでも蘇生して修行させると思いますよ。」


 ・・・まじ?


 「なので今日はたくさん癒してあげますね。さぁ、お風呂に入りますよ。」


 衝撃のことを言われて思考が停止する。その間にお風呂へドナドナされて服を剥かれ裸にされ、体を丁寧に現れる。気が付けば寝巻を着てベッドの上で寝ていた。


 ・・・とりあえず卵に魔力込めて寝よう。魔力を込め始めて一週間たつけど、まだまだかかりそうなんだよなぁ。孵化するの楽しみだ。



———side.魔術師団団長 ザック


 「はぁ・・・やべぇなありゃぁ。」


 パーティが終わって団長室に戻り、最後の模擬戦について考える。果たしてあの戦いの凄さがわかる人はどれほどいるだろうか。見た目以上に凄い魔術の応酬だった。クロウについては流石特級魔術師という感じの理不尽っぷりだな。であれだけ色んなことが出来るのはおかしいだろ。しかもあれでも本来の出力の1割も出てないんじゃないか?まぁ、今回の趣旨は特級魔術師としての格をという目的だから、それで正しいんだけどよ。


 問題はアンナ嬢の方だ。どうみても戦闘慣れしてなかったんだよな。あの魔力の感じ、俺のよく知ってる奴と同じ質の魔力だったから全属性使えるはず。それなら相手の魔力を察知して属性相性を考慮した対抗魔術を撃つとかもウォート様が教えてそうなもんだが、それをしてなかったし。

 せいぜいがあの左目の魔法具で魔術の予兆を見て、シールド張るくらいか?あとはシールド張った状態で魔術を放つ。それだけで、それらしい試合になってたのがおかしいんだよなぁ。発動速度と威力がいかれてる。

 この間アンナ嬢から写させてもらった魔術書のおかげで古式魔術については大分詳しくなったけどよ。知れば知るほどアレがどれほど異常なのかがよくわかる。今回アンナ嬢が使っていた魔術をそもそも発動できる気がしねぇもんな。そりゃぁ、賢者であるハルトに対して”オススメしません”とかいう訳だよ。

 

 「失礼します、団長。ただいま戻りました。」


 「おう、お疲れさん。」


 「中々に疲れましたね。やっぱりああいうパーティは苦手です。


 試合が終わったクロウが俺の元に来た。疲れたという割には涼しい顔をしてるけどな。疲れたっていうならもっとそれらしい表情をしてくれ。


 「そうか。ところでアンナ嬢と実際に戦ってみた感想はどうだった?」


 「彼女が使ってたの古式魔術ですよね?凄かったですよ。戦闘慣れしてないみたいでしたけど、それであんなに戦えるんですから。僕の腕を半分切った魔術とかヤバかったですね。わかってても避けるのがギリギリでしたよ。それ以外の魔術ももっと適切に使えていたら、もう少し苦戦した気がしますね。」


 発動と同時に、指定した空間を切る魔術を避けたお前も大概だと思うぞ俺は。


 「そうか。まぁ、古式魔術が凄いというより、アンナ嬢が使うから凄いだけだな。普通はあんなことできねぇよ。」


 「あれっ、ザックさんは何か知ってるんすか?」


 「知ってるっていうか、アンナ嬢が持っていた古式魔術の書を写させて貰ったんだよ。でそれを読んだからわかったけど、発動することすら困難だし、あれだけの速度で発動させるとか無理だぞ。」


 「えっ!?いつのまにそんな貴重なの手に入れてたんですか!?私聞いてないっすよ!!」


 「そりゃぁ、お前が学園から帰ってきたの昨日の夜じゃねぇか。伝える暇とかねぇよ。」


 「ていうか、そんなに凄いんですか?私でも無理です?」


 そういえばこいつが使った魔術って、魔力操作で黒雲を操作して色々やってたな。ならいけるか?


 「あー・・・、どうだろうな。あれは魔力操作をそれなり以上に出来ることが前提にあるからなぁ。まぁ、複数の異なる術式を同時に組み立てることが出来るだけの技量があればかな。ちなみに俺は初級・・・二文字の古式魔術で使うのは諦めた。」


 「そうですか・・・、彼女が使った魔術がどれも魅力的だったんで、使ってみたいですけどねぇ。」


 「アンナ嬢曰く、”一日のほぼ全てを魔術の練習に費やし、それを20年続けてようやく今の状態になった”そうだぞ。」


 「あぁー・・・そりゃぁ厳しそうですね。それなら現式に落とし込んだ方がよさそだ。・・・って20年!?彼女いくつなんすか!?どう見ても10代にしか見えないんですけど!?」

 

 「さぁ?まぁ、ウォート様っていう例があるから、彼女も見た目通りの年齢じゃないんじゃねぇのか?俺も知らん。」


 確かに20年って気になるよなぁ。どんなに早い頃からでも25とかその辺になるだろしな。けどそうすると5歳の頃にダンジョンに閉じ込められたことになるのか?の割には結構まともな感性してるみたいだからもうちょい上か?少なくとも35とかその辺?なら納得・・・か?まぁ、気にするだけ無駄だな。


 「じゃ、私はこれで。」


 「おっと、逃がさねぇぞ。お前の上司が仕事しねぇから書類溜まってんだ。お前にもやってもらうからな。」


 「えぇ、それ私のせいですか?」


 「いいからさっさと手伝え。」


 「ここに来たの失敗だったかなぁ・・・」


 「あ"ぁ"!?何か言ったか!?」


 「何でもありません!!」


 よしっ、生贄確保。さっさと終わらせるか。・・・早く帰りてぇ。


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