第13話:報酬
師匠の授業が終わった後、私は昼までずっと現式魔術の練習をしていた。術式を組み立てて発動すること自体はそこまで苦ではないけど、今までと違った文字を使うから、慣れるのに結構時間かかりそう。とりあえず渡された媒体で使用できる魔術は一通り発動させて、そこそこスムーズに発動できるようになったと思う。
ただ、まだ慣れていないとはいえ、古式魔術を比べると魔術の発動が本当に楽。一度組み立てた術式は、あえてバラさないかぎりその状態が保持されるから、必要な時だけ組み立てればいい。使用する文字のパーツさえ被らなければ、火生成の術式と水生成の術式を同時に用意しておくとかもできるから、文字のパーツを増やして事前に術式を組んでおけば一々組み立てる必要もない。そりゃぁ古式魔術は廃れるよなって感じた。
昼になったので現式魔術の練習を切り上げ、昼ご飯を食べる。そして食べ終わったタイミングで来客だ。多分昨日の件で魔術師団長と魔術協会の賢者・・・えっと、ザックさんとハルトさんが来たんだろう。
「アンナ様、お客様がいらしてます。」
「あっ、はい。」
メイドさんに案内されて客室へ。扉を開けると予想通りザックさんとハルトさんがいた。そしてそれぞれの付き人と思われる人がその後ろで立っていて、ついでに師匠も中にいた。
「アンナ様、昨日ぶりですね。古式魔術の書ということで魔術師として楽しみにしておりました。今日はよろしくお願いします。」
「ザックさん、こちらこそお願いします。」
「私も魔術協会の一員として、そしてまいち魔術師として楽しみにしておりました。今日はよろしくお願いします。」
「ハルトさんも、よろしくお願いします。」
軽く挨拶が終わったところで、私も席に着く。そしてすぐにメイドさんが紅茶を用意してくれた。美味しい。
「では、早速。こちらが前金の銀竜の卵となります。」
そういってザックさんの付き人が机の上に綺麗な装飾が施された大きな箱を置いた。そしてその箱を開けると中には銀色の卵が入っていた。特に模様とかはないが、一抱えくらいの大きさがある。かなりデカい。私の持っている卵も一般的な鶏の卵とかと比べると全然大きいけど、それでもダチョウの卵程度の大きさで、こんな一抱えほどの大きさなんてない。
「これがそうなんですね。かなり大きいですね。」
「えぇ、大きいんですよ。しかも重たいので運ぶのに結構苦労しました。」
これ魔力で孵化するとして、どれくらい必要なんだろう。私の卵でも全然底が見えなかったし。そもそも魔力で孵化するのかもわかってない。まぁ、後で色々試してみよう。ダメだったら魔法テントの中でオブジェクトとして飾っておけばいいし。
「ありがとうございます。確かに受け取りました。」
そういって私はアイテムボックスの中にしまう。
「おぉ、アイテムボックスですか。噂には聞いてましたが初めて見ました。」
突然消えたことに驚いたハルトさんが、そう声を上げる。ザックさんも色々と気になる模様。
「色々と気になるじゃろうが、先に用件を済ましてくれ。その後なら幾らでも会話してかまわん。」
「そうですね。先に用件を済ましてしまいましょう。ではこちらをどうぞ」
ハルトさんがそういうと、ハルトさんのお付きの人が机の上に本を2冊と一枚の黒いカードを取り出した。
「こちらの装飾が施された本が先日お伝えした魔術媒体、そうでないほうが現在判明しているその媒体で使用できる魔術一覧です。黒いカードは一億ゴルが登録された商会ギルドのカードです。商会ギルドに所属しているお店か行商人であればそのカードで支払いができます。現金が必要な時は商会ギルドか冒険者ギルドで引き落とし可能です。」
前世でいうキャッシュカード的なやつかな。めっちゃ便利。そして装飾が施された本が魔術媒体。本自体は黒くて、銀で装飾が施されている。それと実際に使える魔術の一覧。試しに媒体を手に持って魔力を流してみる。
すると本が手から離れて私の近くで浮き、そして杖の時と同じように魔力文字のパーツが頭に浮かぶ。しかし思ったほどの数はない。それとパーツを置いて術式を組む箇所場所も指定されているようだ。
「その魔術媒体は特殊なものとなってまして、ページごとに登録されているパーツが異なります。色々な魔力文字があると思いますが、その一つに魔力を流してみてください。」
言われた通りに流してみると、頭の中に浮かぶ魔力文字が変化した。なるほど、ページごとってこういうことか。
「先ほどもいいましたが、現段階でその本で使用できると判明している術式はこの本に書いてありますが、それ以外にもあるかもしれないので、色々と試してみることをお勧めします。」
「あっ、そうなんですね。ちなみに何でそういうことになってるんですか?魔術媒体って人の手で作られるものですよね?それでわからないことってあるんです?」
「えぇ、普通はそうなんですけどね。その本を作った人がよくわかってないんですよ。魔術協会創設時からある媒体なので、恐らく当時の創設者の関係者が作ったとは思うんですけど、記録に残ってなくて。」
「えっ、そんな創設時からあるものとか受け取ってもいいんです!?」
「あぁ、それは大丈夫です。そもそも普通の魔術師って大体何かに特化させた媒体を持っているんですよ。例えば火属性全般の威力が上がる魔術媒体とかそんな感じです。で、お渡しした媒体に関しては大抵の魔術は使用できるのですが、代わりに事前に用意できる術式が一つで固定されてるんですよ。しかも特定の魔術の威力とか上がるとかもないですから、わざわざこれを使うかと言われると・・・って感じです。」
「まぁ、現式魔術は魔力操作の技量はそこまで重要ではないからの。最低限術式を組み立てられればよいという者も多い。検証とかお試しで使うとかならともかく、実戦で使えるレベルとなるとお主の技量があってようやくと言ったレベルじゃろうな」
あー、そっか。他の媒体だと複数の魔術式を用意しておくことができるけど、これに限ってはそれが出来ないから、一回一回組み立てる必要があるってことか。そりゃぁわざわざ使う人もいないか。
「そういうことですね。どうでしょう?納得いただけましたか?」
「はい、納得しました。ありがとうございます。では前金も受け取ったので本を写す作業に入りましょう。ここだと狭いので、庭に来てもらえますか?魔法具のテントの中にしまっているので、ここだと取り出せなくて」
「あぁ、そうなんですね。では庭に移動しましょう。」
そして表の庭に移動して、魔法テントを展開。中にある書斎に案内する。
「おぉ・・・これは凄いですね。古式魔術の本がこんなに!」
書斎について直ぐ、ハルトさんは本棚にある本を取り出してパラパラとめくっていく。ザックさんも無言で驚いている。
「ほれ、写しを取るならさっさとせい。」
「えぇ、そうですね。アンナ様、こちらで作業をしてもよいですか?」
「はい、大丈夫ですよ。ザックさんもどうぞ」
「え・・・えぇ、ではお言葉に甘えまして。失礼します。」
そしてザックさんとハルトさんのお付きの人が写しを取るための道具を取り出して作業を開始した。本を写すにはそこそこ時間がかかるようなので、立ち合いは師匠の使用人に任せ、私と師匠はテント内のリビングで待機する。師匠の時は直ぐ終わったなぁとか思ってたけど、普通はもっと時間がかかるみたい。いや、それでも一日で終わる予定なのも結構おかしいと思うけど。
リビングで紅茶を飲みながら、火属性の古式魔術について書かれた本を読む。ダンジョン内では火属性使えなかったから、ここで覚えてしまおうという感じだ。師匠も何かブツブツ言いながら本を読んでいて暇だしね。
そんな感じで本を読んでいると、ザックさんハルトさん達が書斎から出てきた。どうやら本を写すのはもう終わったらしい。結構早かった。1時間くらいかな?結構な量があったと思うけど割と直ぐ終わったんだね。
「アンナ様、本を写させていただきありがとうございます。この後、持ち帰って内容を検証した後、残りの報酬をお渡しします。報酬については、恐らく昨日お伝えしたものがそのままという形になるかと思います。」
「魔術師団も同様ですね。こちらは国王陛下に上申せねばなりませぬので、協会の方よりも少し時間がかかるかもしれません。」
「了解です。とりあえず外にでましょうか。」
「そうじゃな。ここにいても仕方あるまい。」
用が終わったので、私たちは魔法テントから出た。
「ところで先ほどから気になってたんですが、その手脚とか服、もちろんさっきのテントとか全部魔法具ですよね?どこで手に入れたんですか?」
テントから出ると、ハルトさんが質問してきた。アイテムボックス見せた時も色々気にしていたもんね。
「ダンジョンですね。えっと、神造ダンジョン?って呼ばれる所みたいです。あの本とかも全部そうですよ。」
「おおお、そうだったんですね。なるほど確かに。それなら納得です」
口では冷静を保とうとしているが、ハルトさんは仕切りに頷いているので、多分すごく同様しているんだと思う。すごいソワソワしている。
「ところで、もしお時間があればアンナ様の古式魔術を見せていただきたいのですがどうでしょう?」
今度はザックさんが私に質問してきた。
「おぉ、そうじゃな。儂も清潔魔術しか見たことなかったのぉ。せっかくじゃ。結界を張っておくからド派手にやってくれ。」
そして私が答えるよりも早く師匠が回答した。師匠はすぐに庭全体に結界を張り、外に影響が出ないようにした。師匠は行動が早い。てか私師匠に見せたことあったっけ?私が意識してないだけで使ってたとか?まぁ何でもいいや。
「あっ、はい。じゃぁ、派手さメインで行きますね。」
まず初めに
「こんな感じでどうです?」
「ほう・・・中々じゃな。そうじゃ、お主の使える魔術で一番火力がある魔術を儂に撃ってくれるかの?あぁ、儂は死なぬから大丈夫じゃ。」
「えっ・・・と?」
「アンナ様、ウォート様は問題ありませんので遠慮なくやって頂いて結構です。」
師匠のことをよく知っていると思われるザックさんからお墨付きが出たが本当にやっちゃっていいのかわからない。だって一番火力あるやつって
「ほれほれ、首が飛んだところで死なぬから安心して撃ってくれ。」
さすがに首が飛んだら人として死んでいて欲しいけど、まぁ師匠だしザックさんも問題ないでしょって感じの眼で見てるからいいのかな?
「じゃぁ・・・いきますね。」
———
何かの間違いで死ぬと困るので師匠の腕を狙って単体最高火力の魔術を発動。予想通り師匠の腕が吹っ飛ぶ。
「かっかっか!まさか炎装を破るとはのぉ!」
しかしその後はさすがに予想外。だって切ったはずの腕が炎となって師匠の元に集まり、再び元の形に戻ったのだから。えぇ・・・師匠ってまさかの精霊とかそういう存在だったの?なら納得だけど。
「ウォート様はあれでも歴とした人間です。あれも魔術だそうですよ。何をどうしたらああなるかは知りませんけどね」
師匠のことを精霊なのではとか疑っていると、メイドさんがそうではないと答えてくれた。まじか。魔術ってあんなこともできるのか。有用そうな魔術は大体覚えているけど、流石に古式魔術にはそんなのなかったなぁ。
「まさかウォート様の炎装を突破するとは思いませんでしたが・・・、あんなことも出来たのですね。いや驚きました。」
師匠のことをよく知っているであろうザックさんも、流石に切り飛ばされた腕が炎となり、その炎で腕が再生するとか思ってなかったのだろう。私も思わなかった。
「ちなみにその炎装ってなんですか?」
「あぁ、お主は知らんかったな。端的に言えば目に見えぬ炎の鎧じゃな。」
「何でもないことのように言ってますが、私が知る限りその炎の鎧を突破できた方はいませんからね?私はそういう意味で大丈夫ですと言ったのですが、まさか怪我しても本当に大丈夫だとは思いませんでした・・・」
どうやら私がやったことって相当な事だったらしい。魔術師団長が知る限りってそれもう実質だれにも破られたことないんじゃ?あれそんなやばかったの?試しに
「ザックが言ったのはこういうことじゃな。大抵の攻撃は儂の元に来る前に燃えるからのぉ。お主がやったみたいに空間ごと切るとかされないかぎり、儂に攻撃が届くことはない。」
「はぁ・・・、まさかこれほどとは思いませんでした。これは私も古式魔術を覚えたほうがいいですかね?」
先ほどまで驚きのあまり声が出てなかったハルトさんも会話に参加してきた。
「死ぬほど難しいのでお勧めはしないです。私の場合、ご飯と寝る以外の時間全てを古式魔術の習得に使い、それを20年間毎日続けてようやくここまで扱えるようになったので。それやるなら古式魔術を現式魔術に置き換えたほうがまだましかと。」
「な・・・なるほど。それは確かに古式魔術についての本が残らないはずです。あれだけの魔術を使用してみせたアンナ様をしてそこまで言うのであれば、間違いないのでしょうね。」
その後、二人は付き人を連れて帰っていった。さてと、残った時間は報酬として貰った魔術媒体を使った魔術の練習でもしてようかな。折角受け取ったんだからある程度は使えるようにしないと勿体ないからね。
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