第27話 1年間の計画 ※大臣視点

 そのタイミングでマクシミリアン王子が昏睡状態になったことは、我々にとっては都合が良かったのかもしれない。邪魔者が居ない間に、全てを処理することが出来たから。


 私は、躊躇わなかった。王族達から実権を奪い取る。それが、王国存続のためにも必要なことだと思っていたから。


 今までの体制は、王族が全ての権利を握り続けたまま離さなかった。それにより、色々と不都合が生じているのに。各所で支障が出て、その負担を王国民が背負っている。その支障が徐々に大きくなり、いつか破綻してしまう。


 そんな時期が迫ってきていた。なんとか対処しなければ、大変なことになる。それなのに、彼らは変わろうとしなかった。


 そこで我々は、現在の王国の体制を変えるために行動した。


 まず、王の説得。これは、予想していたよりもスムーズに事が進んだ。話し合い、王に納得してもらった。


 次の問題は、マクシミリアン王子。彼は、それなりに優秀だった。数多くの仕事を一人で処理して、王国を動かしていた。彼の働きによって、王国は安定していた。


 だからこそ、マクシミリアン王子と話し合ったとしても、今の体制を変えることに反対する可能性が高かった。自分の力で王国は安定しているのだから、体制を変える必要はないと言い出すだろう。


 マクシミリアン王子の婚約相手であるマリアンヌという魔法使いが、次の計画の鍵だった。彼女の回復魔法が、今の王子を支えている。彼女が居るから、王子は成果を出し続けることが出来ていた。だから、まず先にマリアンヌを説得して、こちら側に引き込む。


 マクシミリアン王子よりも理性的なマリアンヌであれば、話を聞いてくれるはず。そして、王国の現状を理解して協力してくれるはず。


 マリアンヌの協力を得るために、綿密な計画を立てていた。


 そんな時に起きたのが、婚約破棄事件だった。まさかマクシミリアン王子が、婚約関係を破棄するなんて予想外だった。その突飛な行動により、今までの計画が台無しになった。だが、想定外のことも受け入れなければならない。計画を変更する必要がある。


 マクシミリアン王子を支えるパートナーが妹のルイーゼに変わってから、状況が変わった。どうやら妹のルイーゼは、姉のマリアンヌほど優秀ではなかったようだ。王子を支えるための実力が足りない。


 マクシミリアン王子の体調が悪化して、仕事の失敗も増えた。王国が不安定になってしまったけれど、体制を変える必要性が高まっていった。


 しばらくして、マクシミリアン王子が倒れた。我々は、自由に動くことが出来る時間を手に入れた。今まで準備してきた計画を一気に進める。


 邪魔者だった王子は、しばらく薬で眠り続けてもらうことになった。彼の治療を担当する魔法使いのルイーゼは、王子が目覚めない原因を特定することが出来ずに居た。それなのに、何も気にせず呑気に過ごしていた。我々にとっては好都合である。


 王国の体制は、半年ほど掛けて少しずつ変えていった。計画していた通り、王国の未来は明るくなった。




 王族と回復魔法使いの関係も、対処しておく必要がある。これからは、古い伝統に縛られて問題があった関係を解消していくべきだ。


 マクシミリアン王子を昏睡状態にさせた責任を、ルイーゼとレイモルド家に押し付ける。廃嫡を命じる準備を進めていた。


 その頃、救済の聖女という人物に関する噂が流れてきた。その人物に治療を依頼して、マクシミリアン王子を目覚めさせてもらう。


 王国の体制が変わってから、彼に任せるべき仕事もある。これからマクシミリアン王子には、王国のシンボルとして働いてもらう。


 1年間も王子の昏睡状態を回復させられなかったレイモルド家は、外部の魔法使いに劣るという評価を下される。これにより、我々の計画が完成する。


 依頼を引き受けてくれた救済の聖女がマリアンヌだと分かった時、とても驚いた。そして、急いで計画を変更した。


 優秀な魔法使いは、王国の人材として確保しておきたかった。


 もしも彼女がレイモルド家に未練があるのならば、彼女にレイモルド家を引き継いでもらう。現当主を排除して、マリアンヌを新たな当主にする。そこまで考えていた。


 しかし、すぐに計画は無駄になってしまった。マリアンヌは、レイモルド家に何の未練も無いようだったから。彼女に引き継いでもらうことは不可能だった。


 なので、当初の計画通りマクシミリアン王子の回復だけ任せて帰ってもらった。彼女の存在は非常に魅力的だったが、無理に引き止めることは出来そうにないから。




 こうして我々は、1年間で王国の体制を変えることに成功した。


 これから先、権力を一つに集中させないよう気を付けながら、国を運営していく。回復魔法使いの力だけに頼らず全員で分担しながら、王国を存続させる。

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