第26話 目覚めた後の日常 ※マクシミリアン王子視点
目覚めてから数日が経って、色々と状況を把握しようと大臣から話を聞いていた。どうやら俺は、本当に1年間も目覚めないまま眠り続けていたらしい。
ルイーゼが治療してくれたのに目覚めることはなかった。絶対にどうにかすると、色々な方法を試したけれどダメだった。彼女に任せていたらダメだと判断した大臣は、他の魔法使いを頼ることにしたらしい。
最近、隣国で有名な救済の聖女と呼ばれている人物に依頼を出したそうだ。
「救済の治療師? 彼女は、マリアンヌだろう?」
「いいえ。彼女は、隣国で活動している冒険者です。貴方が知っているマリアンヌ様ではございません」
「はぁ?」
マリアンヌが冒険者になった?
しかも、隣国で活動しているらしい。どういうことなのか何も分からなかったが、大臣はそれ以上の事を説明してくれなかった。そして、彼女がマリアンヌであることを強く否定した。
俺が見たのは、間違いなくマリアンヌだった。レイモルド家の者達や、ルイーゼと揉めていたようだし。
しかし、大臣は認めようとしない。彼女は隣国の冒険者で、無関係だと言い続けるだけ。
とりあえず、彼女は非常に優れた魔法使いになり、世間でも名が知れ渡るほど有名になったという事は把握した。
それなら、彼女は王国のために呼び戻したほうが良さそうだな。今は、隣国で活動しているらしいので、俺が恥を捨てて謝罪し、頼み込めば戻ってきてくれるだろう。
レイモルド家とのいざこざも、仲裁してやる。そして、彼女が優秀だということが分かった。それなら、婚約関係を戻すことも検討したほうが良さそうだな。ルイーゼよりも、マリアンヌの方が良いかもしれない。
色々と考えなければいけないことがある。考える前に、やらなければならない事もある。
「俺が目覚めなかった1年で、だいぶ仕事が溜まっているだろう? 今から、それを急いで処理する。ここに書類を持ってきてくれ」
「その必要は、ありません」
「は?」
大臣に、溜まった仕事を持ってくるように命じたのに、彼は言うことを聞かない。必要ないと、意味の分からないことを言っている。
「マクシミリアン様にはしばらく間、休んでいただきます」
「そういうわけにはいかない。1年分の仕事が溜まっているだろう?」
「いいえ。我々が全て処理していますので、マクシミリアン様はお気になさらず」
「なんだと!? 王族の仕事を、勝手に貴様らが処理したというのか?」
誰にも任せられない仕事だというのに、俺が目覚めなかった間に大臣が手を加えたと聞いて驚き、怒りが湧いてきた。何を勝手なことをしてくれているんだ。
「そうです。今はもう体制が変わって、全ての仕事を皆で分担して処理しています」
「そんな、勝手なことを……!」
「王の承認も得ていますので、勝手ではありません」
「なに!? いや、私は認めない!」
「認めないと言われましても、既に今の体制が王国の標準になっています」
「……くっ」
今の俺は、呻くだけで何も出来なかった。
「とりあえずマクシミリアン様は、安静にしていて下さい。必要であれば、ルイーゼ以外の回復魔法使いが待機しております。その者達にマクシミリアン様の世話をさせますので、ご安心下さい」
「何を言っている。王族の治療に当たる魔法使いは、専属を一人だけ決める。その者以外は治療しない、というのが伝統だろう。それなのに、ルイーゼ以外に治療させるなんて……?」
「その伝統も、1ヶ月前に正式に撤廃されました」
「伝統を止めた、だと……!? そんな、勝手なことを……」
「王国を存続させるために必要なことでした」
それだけ説明して、大臣は部屋から出ていった。俺が目覚めなかった1年間で色々と変わってしまったようだ。現在は、奴らに実権を奪い取られている。
なんとかして、奴らから実権を取り戻さなければならない。
そのためにも、この体を早く回復させなければ。ルイーゼではダメだろう。今は、マリアンヌの力が絶対に必要だった。早く、彼女を呼び戻さないと。
しかし俺は、マリアンヌと二度と再会することは出来なかった。
それだけでなく、奴らから権力を取り戻すことも不可能だった。何も出来ず、ただ奴らの指示に従って残りの人生を過ごすことになった。
大切な王族の仕事を奪われて、権力も抑えられた状態で。
何も出来ないまま俺は王位を継承して、奴らに指示されて動くだけの傀儡となってしまった。
どうして、こんな事になってしまったのか。
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