第25話 依頼完了

 少し前から、誤った判断ばかりしている。依頼を引き受けるべきじゃなかったし、話を聞いた時点で断っておくべきだった。さっさと引き返すべきだった。そうすれば、この人達と遭遇することもなかっただろう。


 元婚約者だった王子も、目覚めてすぐ私のことに気付いていたようだし。目覚めた直後の意識がハッキリとしない状態であれば、私のことは気付かないだろうと思っていたのに。予想が外れた。


 私も、故郷に対して少しばかり未練があったのかもしれない。だけど今は、その事を後悔している。戻ってくるべきじゃなかった。目覚めさせるべきじゃなかった。


 面倒なことになってしまった。


「もしかして、レイモルド家に戻ってくるつもり? そんなの絶対に許さないわよ」

「お前が勝手に姿を消してから、大変だったんだぞ。どうやって償うつもりだ?」

「……」


 再会した瞬間に両親が、私に向けて色々と言ってくる。レイモルド家に戻るつもりなんて、微塵もない。そもそも、私は何も言っていない。大変だったとか、どう償うのかと聞かれても、私には関係ないことだ。


「黙ってないで、何とか言ったらどうなの!?」


 ルイーゼの母親が怒り狂っている。怖くはないが、面倒だなと思う。そんな時に、大臣が横から割って入ってきた。


「お待ち下さい、夫人。彼女は、私が依頼した冒険者の魔法使いです。依頼も無事に終わって退出するところですので、邪魔しないで頂きたい」

「大臣ごときが、邪魔だと!?」

「私達をレイモルド家の人間だと分かって、言っているのかしら?」

「えぇ、もちろん」


 ターゲットが大臣の方に向いていた。私とレイモルド家の関係には一切触れずに、わざと彼らの注意を引きつけてくれたようだ。


「そもそも、勝手に部屋へ入ってきて無礼を働いたのは貴方達です。公爵家とはいえ、許されることではありません」

「無礼だと!? ルイーゼからマクシミリアン王子を奪い取り、別の誰かに治療させている貴様のほうが無礼だろう!」

「これは、国王陛下から許可していただき遂行している仕事です。文句があるなら、国王陛下に進言して下さい」


 大臣たちの会話は、ヒートアップしていく。


「そんな態度を取るのでしたら、レイモルド家は今後一切、王家には協力致しませんけれど? それでも、宜しいのですか?」

「おい、お前!? そんな勝手なことを言って……」

「どうぞ。レイモルド家との関係が切れても、我々は困りませんので」

「なんですって!?」

「なにッ!? あ、いや、違うんですよ。関係を切るだなんて、そんなことは」


 強気なルイーゼの母親の言葉に、お好きにどうぞと強気に返す大臣。それを慌てて止める父親。いつの間にか私は、蚊帳の外にされていた。


「今のうちに、どうぞ退出して下さい」

「……そうね、ありがとう」


 今まで部屋の隅で控えていたメイドの1人が、こっそり教えてくれた。彼女の言う通り、今のうちに部屋を出たほうが良さそう。彼らの視線が大臣へ向いている間に。そして、ギルドで報酬を受け取ってすぐ冒険者の街へ帰ろう。


 面倒な出来事に巻き込まれる前に、私は立ち去ることにする。そして、もう二度と彼らとは再会しないことを願う。


 言い争っている彼らを横目に私は、こっそりと部屋から出た。そして、仲間たちと合流。


「依頼は無事に完了しました。依頼完了の証も受け取ったので、帰りましょう」

「あぁ」「おう」「急ごうか」


 どうやら、あの大臣に悪意は無かったようだ。この後すぐ、冒険者ギルドで証明書と引き換えに、しっかり報酬を受け取ることが出来た。


 警戒していた刺客も居なかった。無事に国境を超えて、ローハタの平原まで何事もなく無事に戻ってくることが出来た。


 依頼を完了して冒険者の街に戻ってきた私はそれから、仲間と協力してダンジョンを攻略したり、怪我をした冒険者を回復魔法で治療したり、他の魔法使いを訓練したりする日々を過ごした。


 その後、私は二度と隣国に足を踏み入れることは無かった。興味も無いので、あの後に王国がどうなったのかも知らないまま。

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