第24話 目覚めた時 ※マクシミリアン王子視点
「ぐっ……」
体中に痛みを感じた。目が覚めた時、いきなり最悪な状態。今日は良くない日だ。それでも、仕事をしなければならない。
「……ッ!?」
起き上がろうとしたのに、起き上がれなかった。体が言うことを聞かない。なんだこれは。困惑していると、誰かの声が聞こえてきた。女性の声だ。
「まだ万全ではないので、安静にしていてください」
「……きみ、は?」
声が、上手く出ない。喉がオカシイ。喉だけでなく、体全体が異常だった。そんな状態で、何とか問いかける。
「私は、貴方の体を治療して目覚めさせてほしいと、冒険者ギルドから依頼された魔法使いです」
「……まほう、つかい……。ぼうけん、しゃ……?」
ルイーゼは、一体どうしたというのか。なぜ彼女が治療しないのか。今、俺は何を治療されたのだろうか。分からないことだらけ。
そんな俺の疑問を察したのか、冒険者の魔法使いを名乗る女性が説明を始めた。
「貴方は、1年間ずっと意識が戻らなかったようです」
「……いちねんかん、も?」
「はい。1年間ずっと昏睡状態のようでした。脳と心臓の血管に異常があったので、それを魔法で回復させました」
一瞬、理解できなかった。1年も目を覚まさなかったなんて、すぐには信じることなんて出来ない。一晩寝ただけなのかと思っていたら、1年経ったというのか。まだ夢を見ているような気分。よく分からない。
「……そう、なのか」
治療をしてくれたようで、彼女には感謝はしている。しかし、もっと早く対処してほしかった。なぜ、そんなに長い間俺は放置されていたのだろうか。それが理解不能だった。
婚約者のルイーゼは、どうしたのか。なぜ、今ここに彼女が居ないのか。俺を治療しているのは、別の女性のようだが。
俺は、この国の王子なんだぞ。最優先に治療をするべき患者じゃないのだろうか。俺が居なければ、この国が立ち行かないはず。それなのに、1年間も放置していたというのか。信じられない。
1年も昏睡状態だったというのは、彼女の冗談じゃないだろうか。本当は、少し寝過ごしただけ。そう言ってほしかった。
「患者の意識は取り戻しました。これで、よろしいでしょうか?」
「はい、ありがとうございます。依頼完了の証を渡します。依頼の報酬は、ギルドで受け取って下さい」
部屋の中に他の誰か居ることを、今になって気が付いた。あれは、大臣か? 彼が治療を依頼した、というのか。
「わかりました。それでは」
「……ぁ」
待ってくれ、という言葉を出す前に彼女は部屋から出ていこうとする。その瞬間に顔が見えた。それで、彼女が誰なのか分かった。ハッキリ覚えていた。俺を治療してくれたのは、マリアンヌ。数週間前に婚約破棄を告げた、彼女だった。
いや、もっと時間が経過しているのか。俺が1年以上も目を覚まさないままで居た間に、彼女は成長していた。
俺が知っている彼女より、ずっと大人の美人になっていた。彼女の顔を見て、長い時が過ぎていることを実感した。そうか、1年が経っているのは本当だったのか。
いや、そんなことより彼女と話がしたかった。
「……ま、まって、くれ、マリ、アンヌ」
「……」
気力を振り絞って、今度は大きな声で呼びかけた。だが彼女は振り向かなかった。俺の声は聞こえているはずなのに、マリアンヌは無視して振り向こうとしない。一体どうして!?
そのまま部屋を出ていこうとする彼女の目の前に、誰かが立ちふさがった。
「まさか、巷で噂になっている救済の聖女とは、お前だったのか!」
「勝手に家出をしたのに、なんで今になって戻ってきたのよ!?」
「私のマクシミリアン様に手を出さないでよ、お姉様ッ!」
「……」
現れたのは、レイモルド公爵家の面々だった。しかし、なぜあんなに彼らは揉めているのだろうか。両親と妹から一方的に文句を言われている様子のマリアンヌ。この1年間で、何があったというのか。俺には、何も分からない。
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