第22話 指名依頼

「私に、指名依頼ですか?」

「はい。依頼主は、救済の聖女に是非お願いしたいと」


 ある日、冒険者ギルドを訪れると受付嬢に呼び止められた。そして、こんな依頼が来ていると説明される。どうやら依頼主は、かなり大きな問題を抱えているらしい。治療が必要な患者が居て、その人を助けてほしいという依頼。


「治療を必要としている患者は、一体どんな症状なんですか?」

「えっと、それが分からなくて。詳しい話については依頼を引き受けた後に、依頼人が説明することになっています。だから、この依頼書には詳しい内容など書かれていなくて。ただ、患者を治療してほしいとだけ」

「依頼人が説明する? 依頼を受けないと、どんな症状なのか教えてもらえないの? どこが悪いのか、どんな状況なのかも?」

「はい。申し訳ありません……」

「いえ、貴女のせいじゃないけど……」


 受付嬢が、非常に申し訳無さそうに謝る。彼女は悪くないんだけどね。ただ、気になることがある。なぜ私を指名するのか。患者の状態を隠しているのは何故なのか。何か、色々と引っかかる。


 私は考える。この仕事を引き受けるのかどうか。


 かなり怪しい依頼。普通なら断る。だけど、苦しんでいる患者が助けを待っているかもしれない。私が治療しに行かなければ、そのままずっと苦しみ続けるかもしれない。そして、そのまま。


「引き受けてくれませんか?」

「うーん、そうね……」


 受付嬢に期待する目で見られている。あまり、引き受けたくないけど。話を聞いてしまった。これを無視するのは、後味が悪い気がした。


「依頼書を、もう少し詳しく見せてもらえる?」

「はい、どうぞ」


 受付嬢に依頼書を借りて、見てみる。そこに書かれている内容を確認する。


 その依頼は、私の生まれた王国にある冒険者ギルドから送られてきていた。ということは、この依頼を受けると、あの国に戻らないといけなくなるのよね。それも、あまり良い気はしない。


 あの場所には戻りたくないけど。


「んー」

「どうでしょうか?」


 断りたい。でも、治療を必要としている人がいると聞いて心配だった。その依頼を断ったりしたら、ずっと後まで引きずってしまいそう。


「引き受けたらどうだ?」

「ロバン」

「心配なら、私も同行しますよ」

「ダイロン」


 2人の仲間が後押ししてくれた。彼らが一緒に来てくれるのなら心強い。


「その依頼、かなり報酬も多いようだし、指名依頼を達成すればギルド内での評価も一気に上がる。だから、その依頼を断ってしまうと損だぞ」

「そうですね、ゼノさん」


 ベテランの冒険者であるゼノさんにも、アドバイスを貰う。私が悩んでいるところを、後押ししてくれた。そうなのよね。この仕事を引く受けることで得られるメリットは多い。


「向こうで詳しい話を聞いてから、ダメそうなら断ることも出来るぞ」

「え? そうなのですか? 依頼を受けてから断ったら、罰金を取られるんじゃ?」

「依頼書に詳しい内容を書いていないのなら、こちらに非はない。だから話を聞いた後に断っても、罰せられることはないさ」


 それなら、詳しい依頼内容だけ聞きに行こうかな。行ってみて、依頼を受けるのか断るのかを判断する。助けを必要としている人が、本当に待っているのか確認する。


 しばらく考えてから、どうするのかを決めた。


「その指名依頼、受けさせてもらいます」

「ありがとうございます!」


 私の返事を聞いて、受付嬢は泣くぐらい喜んでいた。ということで、私は久しぶりに生まれ故郷へ帰ることになった。もう二度と、戻ることは無いだろうと思っていたあの場所へ。

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