第18話 溜まった疲れが ※マクシミリアン王子視点

 俺は仕事の合間を縫って、婚約者のルイーゼを執務室に呼び出した。彼女の扱う回復魔法について、話し合うために。


「君の回復魔法は、ちゃんと効果を発揮しているのか? 以前と比べると、明らかに疲れやすくなった気がするんだが」

「もちろん、ちゃんと効果を発揮していますよ! マクシミリアン王子の疲労は、しっかり回復しているはずです! 私は、レイモルド家で学んできた知識を、ちゃんと活用しています。何の問題もありませんよ」


 問いかけると、自信満々に答えるルイーゼ。その表情は、とても誇らしげだった。確かに、彼女が魔法を使った時の光景を思い出してみたら、効果が発揮していない、という事はありえないのか。


 だけど、自分の体の調子を考えてみたら、色々と違和感を覚える。


「……本当だろうな? 手を抜いたりしていないだろうな?」

「ホントです! 一生懸命やってます! 信じて下さい!」


 そう言うと、頬を膨らませながら俺を見つめるルイーゼ。そして両手で握りこぶしを作って、力説していた。そこまで言われると、信じるしかないか……。


 俺は、魔法に関しては専門家ではない。ある程度の知識しかないので、彼女の言っていることを全面的に信用するしかなかった。まあとりあえず、様子見をするしかなさそうだな。


 だけど、彼女に言っておきたいこともある。


「君の姉であるマリアンヌが疲労を回復してくれていた時は、こんなにも疲れることは無かったけどな。ルイーゼとは、やり方も違うようだし」

「お姉様のやり方は、古臭いんですよ! あんな方法じゃ、無駄に手間とか時間がかかって大変ですよ。そのくせ、効果も薄くて非効率なんです」

「そうなのか」


 そういうば、マリアンヌに任せていた時は色々と質問されて多くの時間を割いていたことを思い出す。確かに、ルイーゼの言う通り時間がかかっていた。


 今は、あんなに時間をかけている暇は無い。効率も悪いのなら、やり方を変えているルイーゼが正しいのか。


 少し疑わしいけれど、結局は彼女を頼るしかない。今更、婚約破棄したマリアンヌに疲労の回復だけ頼む、ということも出来ないだろうから。みっともないだろうし、俺のプライドが許さない。


 他の魔法使いに頼んでみるというのも、ルイーゼに悪いし、レイモルド家にも申し訳が立たない。


 結局、俺が頼れるのはルイーゼだけ。もうこれ以上、婚約相手を替えるなんてことも止めておいたほうが良い。だから、彼女には頑張ってもらわないと。


「回復魔法については、わかった。とりあえず今日も頼む」

「はい。任せて下さい」


 ということで、ルイーゼに仕事で溜まった疲労を回復してもらう。お願いすると、彼女は笑顔を浮かべて快く引き受けてくれた。それからすぐに、回復魔法の詠唱を始める。


 執務室の中に、素晴らしい魔法の光が満ちていった。


「終わりました!」

「……ん」


 体は軽くなった、ような気がする。でも、体の中に違和感が残っているような気もする。この違和感は今後一生、無くならないものなのだろうか。


 そうだとしたら、大変だな。


「じゃあ、私は帰ります」

「……あぁ」


 俺の回復し終えると、さっさと帰っていくルイーゼ。そして俺は、執務室に残る。相変わらず、大量の仕事が残っていたから。


「よし、やるか……」


 気合を入れて、いつものように書類に手を伸ばした。




 それから、数時間が経過した頃。


「……ッ!」


 仕事を処理していると頭がズキズキと痛くなった。最近は頭痛も酷くなってきた。よくあることだと無視して仕事を続けていたら、目がチカチカしてきた。


 これでは、書類が読めない。


「……クソッ。仕事が残っているけれど、今日はもう休むしかないか」


 一旦、仕事を中断して休もうとした時。椅子から立ち上がろうとすると、目の前が真っ暗になった。


「……え?」


 体の力が抜けて、立っていられない。気が付くと、顔の横に地面があった。俺は、倒れてしまったのか。


「マクシミリアン王子! しっかりして下さい、王子ッ!」

「……ぅ」


 誰かの声が、遠くから聞こえてくる。呼びかけてくるのはメイドか、執事なのか。男なのか、女なのかも分からない。返事をしようとするが、声が出ない。体を動かすことも、出来ない。


 どんどん意識が遠くなっていく。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る