第3話 王族と回復魔法

 大事な話があるとマクシミリアン王子に呼び出されると、婚約破棄を告げられた。その後、部屋から追い出された私は馬車に乗って実家に帰っている途中だった。


 あまりにも突然のことだった。まだ少し混乱していた。どうしてこうなったのか、理解が追いつかない。とりあえず、この話をお父様に報告しないといけないだろう。


 王都を走る馬車の中で、私は愛用している魔法杖を磨きながら考え事に集中した。


 妹のルイーゼが、私の代わりにマクシミリアン王子と婚約する。いずれ王妃となるということ。王妃になるためには、回復魔法を使えることが絶対条件だった。


 王の仕事は、非常に激務だった。怪我を負ったり病気になったら、国の政治が止まってしまう。大臣や多くの貴族が支えているとはいえ、いざという時に判断するのは王家の血を継いだ者の仕事。だから、王は常に健康じゃないといけない。


 そのために、王妃が回復魔法で王様を支える。一番近くで癒やしてあげることが、王妃としての大事な役目だった。他の誰にも任せることが出来ない、大切な仕事。


 そのために私は、これまで回復魔法の腕を磨いてきた。ちゃんと支えられるようにって、一生懸命努力してきた。それがまさか、婚約を破棄されるなんて。


 妹が回復魔法を使用している場面を目撃した。それで、私よりも実力が上だと判断した。それって本当なのかしら。


 マクシミリアン王子が回復魔法について知らないなんて、信じられない。見た目に惑わされて、実力を見誤るなんて。


 マクシミリアン王子も、回復魔法についての知識を多少は勉強しているはず。それなのに、彼女のほうが実力が上だと判断した。その評価は間違っている。


 いいえ、違うかもしれない。間違っているのは、私の方なのかもしれない。


 もしかして、私が知らない間に妹のルイーゼが実力を上げていたとか。よく考えてみると、その可能性は高いのかもしれない。


 彼女との関係が薄い私は、知らなかった。


 私が知っているのは、少し前の実力だ。今は違うのかもしれない。そうでなければ他に、婚約を破棄された理由が思いつかない。マクシミリアン王子が私に突きつけた言葉は、真実だった。私が妹よりも劣っている。


 私は、ルイーゼに実力がないと判断していた。今も変わらず、そのままの実力だと思っている。それは、彼女を下に見ていたということ。


 実は、厳しい特訓を乗り越えて腕を上げた。それが本当だったとしたら、ちょっと悔しいわ。そして、反省しないといけない。私は驕り高ぶっていたのかもしれない。事実を受け入れて、もっともっと回復魔法の腕を磨かないといけない。


 でも、私に何の相談もなく一方的に婚約を破棄するなんて許せない。彼のやり方に不満が沢山あった。


 婚約は破棄された。その事実は、どうやっても覆らないだろう。


 マクシミリアン王子を回復魔法で癒やして支える役目は、妹のルイーゼに任せる。もしも彼女の実力が、私の知っている通りのままであれば、色々と大変なことになりそうだ。


 もう私は、マクシミリアン王子の婚約相手じゃない。私が何を言っても聞いてくれなかった。だから、何もしてあげられない。後は、彼らの問題だろう。なので私は、助けを求められても拒否する。そんな事があるのかどうか、わからないけれど。


 乗っている馬車が、屋敷の前でゆっくりと止まる。色々と考えている間に到着したようだ。そして、扉が開かれた。


 馬車から降りる。そのまま私は、お父様の執務室に向かった。

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