閑話

「ねえねえ、クレア」

「ん……?」


 彼女はアリス。なぜかフェリア様という貴族に好かれている女の子だ。寮が隣ということもあり、仲良くなった。

 私は最初、フェリア様の嫌がらせが親切なものだと気づいてなかった。というかあれで気が付くのは難しいだろうと言い訳させてくれ。

 アリスに言われ、よくよく見てみると言動がとても悪いだけで、本当にただの親切だった。確かに今思えばなるほどな、というものが多いが、不器用すぎじゃないか。そんなフェリア様がアリスを誘うなんて、私が言うのもおこがましいが成長したと思う。


 そしてこれは、とある日の嫌がらせの一つである。





「平民、貴方は私達貴族に対する態度がなってませんよ」


 そんなことを言い、アリスに本を投げつけるフェリア様。顔に向かって投げてないし、勢い良く投げてないとはいえ、足に当たった本はそこそこ痛いものだろう。周りの人の笑う声が聞こえる。

 ああ、腹が立つなぁ……。そんな風にそれを見ていた。


「っ!」


 やっぱり、痛がるアリス。と、その反応をみて少したじろぐフェリア様。今思えばもうちょっと近くで投げればいいのにと思う。フェリア様は、人がいるところでは2メートル以上はアリスに中々近づかない。ほんとめんどくさい性格してると思う。

 フェリア様がこちらの様子を気づかいながら去り、少ししたらアリスがこちらに来た。あまり本は痛くなかったようだ。


「目上の人への礼儀作法の本なんだけど、これって何か意味があるのかな。あ、間に先生が何が好きかとか、避けるべき話題のメモが入ってる……なぜ……?」

「さあ、気まぐれなんじゃない?」


 今なら分かるが、恐らくアリスが先生のコンプレックスに触れてしまって、怒られたためだろう。ある先生がカツラの噂が出たときに彼女はつい聞いてしまったのだ。

「先生、カツラですか?」と……。

その先生は激怒。ただ、アリスはとても驚いていた。

「この世界にもカツラってあるんですね」

先生は大激怒だ。これは援護できない。


 そんなことがあったため、メモにまとめたのだろう。もうちょっと素直になれないものか……。いやアリスにここまでする義理は正直ないと思うくらいあれはアリスが悪い。


「まあ、いいや。貴族とは何たるかを学べってことかな?」

「そうね……可能性としてはそれかもしれないわね。ちゃんと読んどけばあっちも文句ないわよ、多分。」


 後日、湿布と氷をフェリア様に渡された。

 私はそれを困惑しながら受け取ってアリスに横流しした。べつに冷やすほどでもなかったし、今更貰っても遅いから、本当に嫌がらせだと思った。これは内緒の話。

 さて、遠回しなフェリア様が素直になるのはいつなのだろうか。私はそれを密かに楽しみにしているのだった。

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