14

「あれ、アリス君じゃないか。偶然だね」


 ニコニコと笑顔を浮かべる目の前の男性。ロイド・バトラー、この国の第一王子。隣に生徒がセットで歩いてきた。前髪が長くて、大人しそうな少年だ。


「あれ、王子こそどうしてここに?」

「騒ぎを聞いて来たんだけど、どの生徒が魔法を……」

「こ、このひとです」

「おやおや……」


 目を見開いて意外そうにそんな反応をした。


「問題児ばかりが騒ぎを起こすと思っていたから。ありがとう、大丈夫そうだよ。もう自由にしててくれ」

「分かりました」

「今の王子の従者とかですか?」

「そういうのじゃないよ。ただ先生に報告するところを僕に言ってくれたみたいでさ。ほら、僕って少し凄いだろう?」


 確かにこの国の第一王子だし。少しどころ、ではない気がする。


「ええと、結局先生に報告はしたんですか?」

「いや、僕で止まったかな」

「よかった」

「一安心ね」

「ほんとに、まあ先生なんて怖くなかったけどね?」

「はは。それでどうして魔法なんか使っていたんだい?」

「写真という技術を使おうと思っていて……」


 そうして私はロイド様に写真とは何か、を手短に説明した。もしかしたらそういう技術は既にあるのかもしれないけど。


「へぇ、面白いね。そういう技術はなくて」

「そうなんですか?」

「うん。偽造のリスクもあるし、魔法の入った紙なんかで契約書は書くからね。上の人間も、使わないそんな技術を割かないと思うし」

「ほ〜」

「もし仮に魔法陣を出すのが手間だったり、それを紙に写したい場合は魔具にしよう。そうしたほうが手っ取り早い」

「魔具……?」

「魔法の入った道具だよ。ご飯は済んだ? 早速図書館にいこう」

「え、ええ?」

「いってらっしゃ~い」

「クレアぁ……」


 そんなこんなで手を引かれて図書館に向かうことになった。歩いていると気まずくならないように会話を挟んでくれるロイド様。気遣いが出来る、とはこのことだ。


「そういえば、君からフェリアの力を感じるね。正確にはその家系の魔力、なんだけど。大切に作られているね、見なくてもわかるよ」

「え、分かるんですか?」

「うん。かなり愛が重いみたいだ。飼ってる犬にいい首輪を付けたみたいで」

「な、なんですかその例え……」

「うーん、他に言い換えるなら家畜かな。太らせて極上の状態で食べる。最も殺す気は無いだろうけど、大切に育てたいんだろうね」

「例えが物騒です……」

「そうかい? ブラックジョークが好きなんだ。僕は」


 と、いい笑顔で話しかけてくるロイド様には少し寒気がした。 

 図書室に着いたので扉を開けると、視線がちらほらこちらを向いた。中でも女性の視線が少し痛い。やめてくれ……。


「魔具についての本だったよね、確かこっちの方にあるから……」


 と、手際良く案内されて直ぐに本を見つけてくれた。パラパラと中身を見てみると結構具体的なことが書かれていた。大雑把に言うとこの世は電子回路が発達してないのでその役割が魔法になる感じ。それも一筋縄ではいかない、とのことだ。


「それで大丈夫そうかな。少し話したいし、中庭で話そう」

「え、まあいいですけど……」


 そんな感じに言いくるめられ中庭で話すこととなった。


「アリス君は何が好きなのかい?」「好きな食べ物は?」「趣味は?」「何人家族かい?」「得意なことは」


 そんな質問攻めで、話というにはお粗末な気がした。


「あの、私はロイド様のことも知りたいです」

「え、なんだい? 何でも聞いてくれ」

「ロイド様は何故私をお気に召してくれてるのですか?」

「うーん、そうだな。そうか。強いて言うなら……アリス君、君は入学初日にある女の子の悪口を言われていたところを間に入ってこういったよね? "裏でこそこそそんなこと言って恥ずかしくないんですか?"ってあれはよくやったと思うよ……僕達はびっくりしたなぁ……」

「あーそんなこともあったような……?」

「たまたまそこを通りかかってね。見ちゃった」


 なんと、恥ずかしい。

 正直そこまで記憶がないのだが、確かに貴族っぽい人が悪口を言っていたのでつい口を挟んでしまった気がする。

 昔、それで嫌なことがあったから。私が言われてた側なんだけど。


「まあ、そんな考え込むことはないよ。君は正しいことをしていたからね」

「ありがとう、ございます……」

「じゃあ、僕はそろそろ行くよ。また、会おうね」


 ひらひらと手を振って帰っていく王子。

 嵐のような人だ。掴みどころもないし、ちょっとだけ怖いし、二人きりになるのはもう勘弁だと思った。



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