11-3

 外に出ると、そこには一台の馬車が止まっていた。考えなくともわかる。フェリア様の用意したものだろう。

 外で執事のような人が立ち、店員さんから荷物を受け取った。それから馬車の扉を開けるので至れり尽くせりだ。


「ほ、ほんものだ……」

「まあ見る機会は少ないでしょうけど」

「本当に、なくて……」

「アリス様、でしたかね。私はフローリデ様の執事、ショーンと申します。」

「こんにちは、アリスです。初めまして」

「これから関わり事も増えますでしょう。是非、ご気楽にお話下さい」

「これから……はい」


 この時間がまた来ることになるかもしれないのか。


「フェリア様、アリス様。美味しいショートケーキのあるお店、見つかっております。」

「ではそこに行きましょう」

「本当に言ってるんですか?」

「嘘を付く理由があるのですか?」

「いや、ありませんね」


 ということは二人でショートケーキを食べに行くということですね。

 馬車の箱で向かい合わせになり、座る。執事の人は中ではなく外に出て馬を引率するようだ。


「フェリア様は、……」

「なんですか?」

「いや、その、なんでもないです」


 私のことをどう思っているのだろうか。

 聞きたくても口を開くことは出来なかった。私は外を眺めて時間を潰すことにしたら、フェリア様もそれ以上何も聞いてくることは無かった。

 場所が近かったんだろう。気まずくなる前に馬車は止まり、ショートケーキのあるお店に着いた。


「お待たせいたしました。それではフェリア様、アリス様、どうぞこちらに」


 ショーンさんに扉を開けられ丁寧に道があけられていく。


「ありがとうございます」

「いえいえ。」


 中に入るとショーンさんが一言二言店員さんと話し、私達は案内された。

 この店はケーキ屋さんのようで、ケーキがずらりとショーケースに並べられているが、奥に食べられる場所が用意されていた。店は相変わらず高級感がある。

 椅子を引かれ座ると、水を用意され、直ぐにショートケーキが運ばれてきた。


 ──いやこんなに高級感がある店でショートケーキを二人で!?


 おかしすぎる。恥ずかしすぎる。


「食べないのですか?」

「あ、いただきます」


 一口、そのショートケーキを食べた。


「美味しい!」


 なんというか、まずクリームが美味しい。甘すぎなく、口に張り付かない。くどくない。スポンジ部分との相性もバッチリだ。無論いちごも美味しい。みずみずしいし、程よい甘さだし、高級なだけある。


「よかったです」

「本当にありがとうございます! これいくらですか?」

「気にしないでください。」


 優しい。騙されているのではないか、と思うくらいに。


「フェリア様って、私のこと嫌いだったりしたんですか?」

「……いえ、寧ろ、逆のような気もしますわね」

「…………え」


 逆、というと。好き、ということになるんだが。


「な、何故?」

「覚えてなくとも結構です。勝手にこちらが覚えているので。」


 そんな悲しいこと言わないでほしい。

 しかし私が脳をフル回転させながらショートケーキを食べ終えても、何一つとして理由が分からなかった。


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