11-2

 手を引かれて連れてこられたのはいかにも高そうな服屋さん。

 学園近くには学生のために繁華街があり、様々な店が並んでいる。また、力を誇示するためもあって貴族に属している商人が店を出店させたりするのだ。だからそういうお店は貴族向けに作られているのだが……。


「では、まずはこれを試着してみましょう」

「はい」


 フェリア様が手に取ったのは白いワンピース。後ろの背中に大きなリボンがあり、肩がレースになっている。腰回りは締められていてスタイルが良くないと着こなせないものだと見ていたが、スカートの下の方はフリルとなっていて可愛らしい。発表会か。

 と、まあ見惚れているまではよかった。


「試着室はこちらです」

「ありがとうございます」


 それから案内されたは良いものの、そこは広々とした部屋。奥にはドレス。上にはシャンデリア。試着室とは狭いものではなかったのかと困惑して立ち尽くす私。それをいいことに、店員さんにボタンを外されていく。


「いや自分でできます!」

「汚したり破ったりしたら弁償できるのですか?」

「え!? フェリア様!?」


 試着室? にフェリア様がいるのだが。いやまあ店員さんもいるので当たり前か。

 ……弁償、出来るわけない。私は一般庶民、平民だ。


「採寸もして、ピッタリの服を作りましょう」

「オーダーメイドってことですか!?」

「そうなりますわね」

「そんなお金ありませんよ?」

「わたくしが出しますので」

「いやいやいやいや、後から払えって言われても無理ですからね、店員さん。売り付けないで下さい」

「変な事を言わないでください。わたくしの名誉に関わります」


 まあそうだろうけど。そうだろうけど!


「……なら、先にこのワンピースだけ買いましょうか。サインします」


 そう言うと、よくお金持ちが使っているような白い紙に、フェリア様は値段と名前を書いて手渡した。


「その平民に着させなさい」

「かしこまりました」

「フェリア様、本当に言ってますか?」

「わたくしは嘘をつきません」

「眼の前で脱ぐんですか私」

「それがどうかしたんですか?」

「…………」


 そうか貴族の人間は、いつも着させられてるか。


「いえ、なんでもないです。でもスタイルが悪いので、その……」

「勝ったのはわたくしです。それに、キャミソールも着たままなので、恥ずかしがる必要はないですわよ?」

「まあそうなんですけど」


 だからといってあんまり仲の良くない人に肌を見せるのは抵抗感がある。勿論フェリア様の意見のほうが正しいので従うんですが。

 私が諦めて両手を横に広げると、店員さんはにこやかに服を脱がし始めた。

 さようなら純情。そんな大袈裟なものでもないんだけど。

 白いワンピースを丁寧に着させられる。奥からまた人が出てきて鏡も用意された。

 まあ、似合っていていいとは思いますが。


「……髪もセットしましょう。採寸はまた今度で」

「いやいやいや、何にもない日に特別なことする必要はないんですから!」

「似合っているので、是非今日だけじゃなく別の日にも着ること。わかりましたね?」

「え、あ、っはい!」


 あれ、案外フェリア様って私のことが好きなのだろうか。

 腕を上げてくださいね〜。そんな店員さんの声が聞こえて私はまた着替えることとなった。白いワンピースは袋の中にキレイに畳まれて入れられた。

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