11-1
チャイムが鳴ったら、緊張の時間が始まる。
フェリア様と下校する時刻だ。
どうしてこんなことになったのだろうか。今更過去を憂いても仕方はないんだけど、殴り飛ばしたいくらいには私に怒っている。
「行きますわよ」
「はい……っ」
フェリア様は授業が終わるとすぐに声を掛けてきた。
優しい疑惑があるだけで、フェリア様は私を陥れようとしてきた人間に違いはない、と思う。実際被害には遭っていたから(誰かのお陰でプラマイはゼロなんだけど)。
クレアの嫌そうな視線が痛い。だけど流石に止めることまではしないみたいだ。
「いってらっしゃい。私は先帰ってるから」
「う、うん」
「アリス。帰るだけじゃなくて、色んなものを見て回りましょう」
「え?」
「暇でしょう?」
「わ、私がですか?」
「試験も近くなくて、仕事もない。暇でしょう?」
「は、はい……」
わ、私はどうなってしまうんだ。
正直、少し一緒に過ごすのは怖い。フェリア様が優しいだとか言えるような信頼はまだ全然ないのだ。
「怖がらなくとも、取って食うようなことはしませんよ」
「頭に入れておきます」
「入れなくたって、別に、わたくしは……」
「な、なんでしょう?」
「いえ、なんでもありません」
フェリア様って意外と勢いがないのかも。
二人で話したことはなかったから驚きだった。いつもハッキリ物を言って、私がそれに飲まれている日々だったからこういう一面は初めて見た。
「フェリア様は、どうして今回私と帰ろうと考えたのですか?」
「第二の平民に言われたから。それ以外の理由はありません」
「な、なるほど〜」
つまりリリに言われたから、と。妬けちゃうな、そんなに仲がいいなんて。
「どうしてリリとそんなに仲がいいんですか?」
「仲はよくないです。あくまで召使いなようなものです。」
「め、召使いって……」
やっぱり私達ってその程度の存在なんだろうか。
そんな風に思い詰めた顔をしていると、フェリア様はため息をついた。
「そんなことはどうでもいいでしょう。ほら、行きますよ!」
手をぐいっと引っ張られ私は逆らえずに歩を進める。
「あの、どこへ行くんですか!?」
「親睦でも深めましょう」
「ええ!?」
「好きな食べ物は?」
「ショートケーキです」
「分かりました。」
そう言うとフェリア様は簡易な魔法陣を描きだした。
「ショーン、聞こえますか?」
「はい、お嬢様。」
「馬車と馬を用意してください」
「馬車!? 馬!?」
「はい、分かりました。」
「それから美味しいショートケーキのあるお店を探してほしいの」
「はい、分かりました。」
「えっ!?」
どうして私なんかのためにフェリア様がそんなことをするんだ。びっくりしてしまう。
「馬車が来るまで少し、お茶でもしていましょうか」
「なっ!?」
訳がわからない。お会計のときに私一人だけ置いていくようなことでもするんだろうか。
「学校の近くでは服でも見ましょうか」
「服!?」
「文房具でもいいですけど」
「文房具!?」
「驚きすぎですわよ……」
「え、わ、私に、!?」
「金に物は言わせられませんからね。行きますわよ」
そう言うとフェリア様は改めて手をこちらに差し出してきて、優しく微笑んだ。
「来るのですか? 来ないのですか?」
「えっ、い、行きます、けど……」
そんな風に誘われては心臓が持たないのだが。
フェリア様の優しさを、垣間見たような気がした。
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