ユモレスクのしっぽ

 それは蜂飼いが新しい巣箱をトトタタン、と作っている最中さなかのことでした。蜂たちは興味津々とでもいうかのように、彼の周りをぶぅうん、ぶぅうんと羽ばたいております。


「そろそろ新しい情王蜂じょおうばちが生まれるんだろう? まかせなよ」


 そうして宙の星々や、川底の星屑たちの瞬きにも耳を傾けていると。遠くの方から弾むような音色が聞こえてきました。


「ユモレスクがやってきたよ」


 遠い宙の彼方へと視線を向けては、蜂飼いは誰ともなしにそう告げます。

 ユモレスクは白くきらきらとしたものを纏って、弾むように頭上を通過していくのです。通り過ぎればその姿を追うことは難しく、その姿は目を凝らせばこらすほど無色透明なようでした。


「ユモレスクは笑ってた」

「煙をはきだしながら走っていくねぇ」

「ユモレスクはけれど疲れているんだよ」

「そうでもない。希望はきちんとあるから」

「けれどももしユモレスクの内に絶望が蔓延ったら」

「ユモレスクは駆けてはいかないのかもしれないねぇ」

「ユモレスクは飛んでいくんだよ」


 星屑たちはめいめいに頭上を眺めながら、ユモレスクの響きにそうやって感想をもらします。


「あっ、ユモレスクのしっぽが切れた」

「しっぽが切れたよ」

「喜ばしいねぇ」

「喜ばしいことあるもんかい、しっぽが切れたんだっていうのに」

「ユモレスクはどこへいくんだろう」

「しっぽはどこへいくんだろう」


 蜂飼いはその星屑たちのせせらぎに耳を傾けながら、遠い宙をもう一度眺めます。


「きれたしっぽは……切るに値したものだったのだよ。だからああしてあがいては溶けていく。ユモレスクはそこから再生して、新しくまた進むんだ」


 蜂たちは少々首を傾げ、星屑たちも「ふぅん」「蜂飼いは時々むずかしいことを云うね」とめいめいが呟きました。

 蜂飼いの奏でるハーモニカが、第一番の葬送のメロディを夜空へと届けます。それに合わせて星屑たちが歌いだしました。


 ユモレスクの汽笛のような声が、もう姿の見えないユモレスクの代わりに、尾を引くようにその場にはしばらく残っておりました。

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