第21話

 俺は思わず彼女の言葉に眉をひそめてしまった。


「いや、流石に一緒に行くのはまずいだろ...。登校の時間帯はかなり人多いし」

「大丈夫ですよ。駅で別れれば。見つかったら電車内はたまたま同じ車両だったって言えばいいだけなんですから」

「...そうだとしてもなぁ」

「いいから行きますよ」

「ちょっ、おい」


 彼女は俺の腕をつかんで引っ張ってきた。俺は軽くため息をつくと抵抗することを諦めて、彼女に引っ張られることにした。


 駅に向かいながら俺は彼女に言った。


「流石に学校では俺に接触するなよ」

「ええ...なんで」

「なんでもくそもない。接触したら俺が死ぬから」


 俺の最後の言葉に何かを感じたのか彼女は頷いてくれた。


「...わかりました」


 そんな会話をして駅に行き、電車に俺らは乗り込んだ。電車内には空いている席があったが、二人並んで座れる席がなかったので俺は彼女を座らせて俺は立っていようとした。


 そうすると彼女は耳元で蒼人くんと一緒にいたいので...私も立ってますと少し顔を赤くしながら言ってきた。


 電車内なのであまり騒ぐわけにもいかず、俺は分かった...と単調に答えるにとどめて、俺らは端っこに並んで立っていた。


 電車内では話すわけにもいかないので彼女から目線を外して、俺はなるべく窓の外をボォーっと眺めていた。聖女様が不満げな顔を浮かべているのが窓ガラスの反射で見えたがこればっかりは仕方ないから我慢してくれと心の中で呟いた。


 そして、電車が学校の最寄り駅に着き、電車から降りると俺らは軽く言葉を交わして別れた。


「じゃあな。またあとで畑山」

「...またあとでね、蒼人くん」


 彼女は少し不満そうな顔を浮かべたが、自分の影響力を理解しているらしく先に学校に向かってくれた。


 俺はそれを見届けると一旦、お手洗いに向かってから学校に向かった。


 教室に着くと荷物を机のわきにかけて突っ伏した。俺はそうしていつも通り空気になりきっていたが、なんとなく聖女様のほうが気になりそちらに目線を向けた。


「あいかわらず、やっぱり人気なんだな...」


 彼女は周りを男女の性別を問わずに囲まれていた。そこでほほ笑みながらしっかり分け隔てなく、彼女は全員に接していた。


 流石”聖女様”だなと俺が思っているとたまたま聖女様と目が合い彼女が俺のほうを見てふわりとほほ笑んだので俺は慌てて目をそらした。


 聖女様の周りにいた人が息をのんだのを俺は目をそらしていても感じ取ることができた。


 俺は誰にも聞き取られないほどの声でボソッと呟いた。


「なんでそんなに俺に向けるほほえみと周りに向けるほほえみの質が違うんだよ...」



 そして、授業が始まると俺はいつもと違い授業中に睡眠をとることはなかった。授業を受け持っていた教師から何があったんだ?という奇異の眼差しで見られて俺はすこしきまずくなったが、普通に授業を受けた。


 その後、昼休みになると俺は教室を出て校舎裏に向かい、弁当を食べ始めた。味は大丈夫か?などと一瞬考えたが、ここでも聖女様のことを考えていることに気付き、頭を振りその考えを追い払った。


 流石に学校では接触しないでくれといったからか聖女様が俺のところに来ることはなかった。


 俺はやっと作れたこのいつも通りに安堵のため息をつきながら、この原因を作った自分を静かに責めた...。

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