第19話
その場を離れたあと、俺は彼女と手をつないではいたものの、会話を交わすことはなくパッパと買い物をすませ、家に帰ってきた。
家に帰ってきても俺は口を開くことはなかった。
聖女様はさすがに申し訳なくなったのか俺に声をかけてきた。
「あの、蒼人くん...怒ってますよね?」
「...別に」
「あの...わがまま言ってごめんなさい」
「いや、そうじゃないんだ。どっちかというと今は甘やかすと言ったのにそれをできなかった自分に腹が立ってる」
これは本当だ。確かに当初は畑山に軽く腹を立てたりしたが、俺がただただ甘やかすという約束を守っていないだけであるし、そもそも一緒に出掛ける時点であのような視線を浴びせさせられることをちゃんと覚悟していなかった俺が明らかに悪かった。
「...それって元は私のせいですよね...」
「...気のせいだ。こちらこそ気を遣わせてすまない。...それで話変わるんだけどさ。畑山、俺が素敵な男性ってさっき言ってたけど...どういうことだ?」
「文字通りですよ」
「いや、俺は顔もよくないし、雰囲気も野暮ったいし、まさに陰キャって感じの人間じゃん。正直、俺なんかよりいい人、って痛い痛い」
「自分のことを馬鹿にしたらブニョブニョするって言いましたよね」
いや、もうブニョブニョ?というよりは割とつねるに近い気がするんだが...
「いやでもな」
「それ以上言うと怒りますよ」
聖女様は目を軽く細めた顔を俺の近くに寄せてきて諭すように言った。
「蒼人くんは素敵なんです。ちゃんと私のことを気遣ってくれますし、それにさっきの姿も、ワックス付けてた姿もその...かっこよかったですよ//」
俺は思わず彼女の顔を二度見してしまった。彼女の顔はとうとう言ってしまったとばかりに可愛らしく朱色に染め、俺から手を放し顔を覆っていた。
「!?!」
かっこいい...?俺はその彼女の言葉で動揺してしまったのを隠すようにわざと声を冷たくして言った。
「...お世辞はいい」
「お世辞じゃないです!」
「...じゃあ、なんで俺から目そらしてた?」
「そこまで言わせるんですか⁉新手のいじめですか?というより言いましたよね。殺す気ですか?って」
「いじめじゃないし、殺す気ってどういうことだよ。物騒すぎないか?」
俺の顔を聖女様はじーっと眺めてくる。
なんとなく居心地の悪くなった俺はなんだよと聖女様に尋ねた。
「本当にわかってなさそうですね...」
「だから最初からそう言ってるだろ」
「あのですね。蒼人くんのそういうところも悪いんです」
「だから何がだよ」
「鈍すぎるところです!」
うん。分からん。
俺がそれでもわからない顔をしているとその後、聖女様は近くにあったクッションで俺のことをぽすぽすと叩いて、顔を隠しながらお風呂先にいただきますと言ってお風呂に入っていった。
俺は彼女が風呂に入っていったのを見送ると静かに後ろに倒れこんだ。
「かっこいいとか言うなよ...」
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