第18話

 その後、洗濯物を干してから買い物に行きたかったので俺らはリビングに戻ったが、何故か聖女様はここでも俺と顔を合わせてくれなかった。


 たまに聖女様が顔を覆っている手の隙間から俺のほうをちらちらと見てきているのは分かったが俺が彼女のほうを向くとすぐに視線をそらしてしまった。


 ワックスは完全に落としきったはずなんだが...なんでだ?少しこの状況は気まずいので彼女に再び尋ねるか俺はしばらく頭を悩ませた。


 そんなことを悩んでいるうちに洗濯機が洗浄を終えたことを告げる音が鳴り、俺と彼女は再び洗面所に向かった。


 ここでも彼女は俺から目をそらしていた。流石に我慢しきれなくなった俺は彼女に尋ねた。


「洗濯物干したら買い物でるけど...、どうする?俺と顔も合わせたくなさそうだけど。それだったら家で待っててもらっても」

「合わせたくないんじゃないんです!合わせられないんです!蒼人くんが悪いんですよ...」

「いや、本当に意味が分からん。お願いだから俺にもわかるように話してくれないか?」


 俺がそう言うと耐えきれなくなったのか聖女様は顔を真っ赤に染めて言ってきた。


「まだわからないんですか?蒼人くんがその...かっk...すぎるんですよ!」


 ただ、肝心な部分で彼女の声量が小さくなってしまい俺は聞き取ることができなかった。


「えっ、なんだって?もう一回言ってくれないか」

「無理です」

「...」


 そんな真正面から断られると思っていなかった俺は思わず黙りこくってしまった。


 そんな俺を見て聖女様は慌てて付け加えてきた。


「悪いことは言ってませんから安心してください」

「そうか...」

「...すみません。ちょっと恥ずかしくて言えないんです」

「いや、別にいいけどさ...」


 なんとなく俺らの間に流れる空気は悪くなってしまった。


 俺らがその空気に気圧されて話せないでいるうちに洗濯物を干す作業は終わった。


「...じゃあ買い物行くか」

「ええ」


 俺らはそうして買い物に出かけた。なぜか手をつないで。


 俺は先ほどのワックスの件から聖女様の考えていることがよくわからなくなっていた。


 もともと聖女様に迷惑がかかる可能性があるため、なるべく手をつなぐなどの目立つことはしたくなかった。ただ、聖女様に甘やかしてくれるんですよねと言われてしまい、言われるがままに俺は聖女様と手をつないでいた。


 聖女様が俺の家に来た時にも手をつないできたが、あの時とは状況が違った。あのときは周りの視線などを気にしている余裕はなかった。


 だが、今は痛いほどの視線を、主になんだこの美少女の隣にいる陰キャは?意味わからん的な視線を浴びさせられていた。あのときよりも断然人の多い店に来ているから当然ではあるが。俺はさすがに聖女様に迷惑がかかりすぎてしまうと判断し、聖女様に言った。


「なぁ、畑山」

「どうかしましたか?蒼人くん」

「手離していい?」

「駄目です」


 強い口調で断られたが俺はここで諦めずに続けた。


「流石に迷惑がかかりすぎるから」

「また私に気を遣ってるんですか?やめてください。蒼人くんは私から見たら...とっても素敵な男性ですから周りがどう思おうとも私は構わないんですよ」


 素敵な男性?その聖女様の言葉に対する疑問が俺の頭が浮かんだが一旦それを内部にしまいこみ会話を続けた。


「...俺が構うんだ」

「...駄目ですか?」


 そう言って聖女様は悲しそうな顔を作ってきた。


 周りからの視線が俺へのうわぁ女の子を悲しませたぁという非難の視線へと変わる。


 たまったもんじゃない俺は仕方なく、分かったからその顔をするのはやめてくれと言い、彼女と手をつなぐことを認めたが一旦この場から彼女の手を引き離れることにした...。

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