第17話

 翌日、目を覚ました俺は体を強ばらせた。


 ただ、いつまで経っても俺の予想した震えが俺を襲うことはなかった。俺はそこで体から力を抜くと聖女様とは繋いでいないほうの腕を俺の顔の上にかぶせて、小さく呟いた。


「普通に寝れたのか...」


 すると、まだ寝ているとばかり思っていた聖女様が「良かったです」と微笑んで言ってきた。


「あれ、ひょっとして起こしちゃったか?」


 体を強ばらせたときに繋いでいた手に力を入れすぎてしまったかと不安になった俺は彼女にそう尋ねた。


「いえ、蒼人くんが起きるちょっと前から起きてましたよ。それで、その...昨日の夜の話になるんですけど、話すのはまたの機会にしちゃ駄目ですか?せっかく勇気をもらってましたが」

「別に強要する気はないからいいけど...。一応、理由聞いてもいい?」

「...今はまだ話すべきときではないんです」


 彼女の話すべきときというのが分からなかったが俺は曖昧にうなずきながら答えた。


「そうか...。まぁ、畑山がそう思うならいいよ。ただ約束してくれ。辛くなったら頼ってくれよ」


 彼女は笑って言った。


「ありがとうございます。その時はいっぱい甘えさせてもらいますね。もちろん、蒼人くんも甘えてくださいね。甘やかしますから」

「ああ、その時はまた頼む」


 その後俺は体を起こすと彼女に訊いた。


「いつも、俺の家だと朝ごはんってパン焼くだけなんだけどそれでいい?」

「構いませんよ」

「ありがとう」


 そうしてパンを焼き食べている途中で俺は今後の予定について考えだし買い物の件を思い出し、一応尋ねてみた。


「そういえば、食べ終わったら買い物行くけど一緒に行く?」

「えっ、いいんですか?」

「一応、約束したことだからかな」

「それなら行かせてください。ただ、その前にちょっと時間もらってもいいですか?」


 よく分からなかったが、別に急いでいるわけでもなかったので俺は頷いた。



 朝食を食べ終わると、何故か俺は洗面所に連れていかれて昨日お風呂のあと気になったといわれて洗面所にあったという未開封のワックスを手渡された。


 おそらく父親が予備として買っておいたがそのまま使うことなく封印されていたものだと答えると彼女は使ってもいいかと訊いてきた。別にこのままだと一生眠っているものだから構わないと言ったら俺は鏡の前に座らせられあーでもない、こうでもないと聖女様に髪の毛をいじられた。


 しばらくしてこれでどうですか?と訊いてきた彼女が何故か俺のほうを見て固まっているので鏡を俺が見るとそこには今まで見たことのない俺が映っていた。


「誰だ?こいつ」


 少しちょんちょんと立っている髪を俺がいじっていると聖女様は頬を手で押さえて俺から目をそらした。

 

 俺から見ると見苦しかった髪の毛のカーテンが目からどけられていて視界がよくなっていたり、かなりいい出来になっていると思ったのだが...。聖女様からすると失敗だったのか?


「おかしいか?おかしいんだったら戻してくれ」

「違うんです」

「?」

「その、もう駄目なんです...。こっち見ないでください。私を殺す気ですか」


 ...殺すとは?


「いや、意味わからん。畑山がこうしたんだが...。まぁ、似合ってないのは分かったから戻してくれ」


 俺がそういうと彼女は慌てたように言ってくる。


「いや、似合ってるんです。それがもう度を過ぎてるんですよ。ちょっと写真撮らせてもらいますね」


 どういうことだ?変じゃないならなぜ彼女は俺から目をそらして会話しているんだ?それとなんで写真を撮ってる?こんな気持ち悪い男の写真を。


「???余計に意味が分からないんだが」

「とにかく、それは危ないのでもう禁止にします」

「いや理不尽...。まぁ俺はいいけどさ」

「あの...それで、この写真ホーム画面にしてもいいですか?」

「だからなんで?」


 そんな謎の会話をしている内にどんどん時間だけ?が過ぎていき、結局わざわざ付けたワックスは落とすことになった。聖女様の言いたかったことも結局俺は理解することができなかった。


 ただ、俺は今回の件からワックスはもう絶対につけないと心に誓うこととなった...。

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