第14話
聖女様は顔を少し青ざめさせながら俺に詰め寄ってきた。
「ねぇ、まさかこの前死ねなかったからって、睡眠薬で自殺しようとしてるんですか?やめて…、お願い…」
最後の方の聖女様の言葉は半ばかすれて、泣きそうな雰囲気を醸し出していた。
俺は慌てて誤解を解きにいった。
「ちょっ、おい。今死ぬつもりはないから。確かにこれは睡眠薬だけど、俺が寝るためだから」
「…本当ですか?」
「ああ、本当だ。ここで嘘はつかない」
「それならよかった…。それで、寝るためってどういうことですか?学校とか電車内では寝れてたじゃないですか」
立ち直り早すぎないか?俺はそう心の中でツッコミながら、なんでそこに食いついてくるんだよと俺は頭を悩ませた。それは俺の過去に関わってくるため話したくなかった。だから、俺は逃げる方向に舵を切ろうとした。
「その前に薬を飲んでたんだ。もう夜遅いから寝るぞ。ほら、薬返してくれ」
「嘘をつかないでください。その前に薬なんか飲んでいませんでしたよね」
「…」
都合が悪くなった俺はここでダンマリを決め込むことにしながら、猛烈に過去の発言を後悔していた。
なんで、寝るためって言ったんだ?そこで、もっと別のことを、例えば寝つきを良くするためとか言っておけば…。
そんなことを考えて黙り込んでしまっている俺に聖女様は訊いてくる。
「蒼人くん?黙秘権の行使は認めませんよ」
「…」
「じゃあ、失礼しますね」
そう言うと彼女は俺の頬を引っ張り始めた。
「???」
「まぁまぁ、伸びますね〜」
「あの、俺で遊ばないでもらえます?」
「そうですか、どうしましょうかね〜」
ニコニコと笑いながら聖女様は言ってくる。嫌とかそういうわけではないが、物凄く色々と複雑な気持ちになるのでやめて欲しかった。
「これに関しては話ふつもりはない。…あと、地味にそれしゃべりにふいからやめい」
俺はそう言って彼女の手を引き剥がした。
彼女は不満げに顔を膨らませながら、言ってくる。
「話してくれるまでここから動きませんよ」
「…好きにしてくれ」
俺はどうせ30分もすれば飽きて諦めてくれるだろうと思い、一旦その場を退散して30分後に再び戻ってきた。
「…まだ、起きてたのか」
「話してくれるまで動きませんよ」
こうなったら根比べでもしてやると俺も彼女を真似することにした。
「じゃあ、俺は畑山が諦めるまで動かないぞ」
「…」
そして刻一刻と時間は経っていく。
俺はそこから更に30分経ったところで折れた。
「ああ、もう分かったよ。話すから聞いたら寝ろよ」
「はい!」
彼女は途端に顔を輝かせ頷いた。
俺は軽くため息をつき、居住まいを正した。
「ちょっと長くなるぞ」
俺はそう一言断ってから俺の過去について話し始めた。
三年前の夜に俺がくだらないことで親と喧嘩して、家出をした。その俺を両親が捜しに出たところ、二人とも居眠り運転の車に突っ込まれ、二度とは帰らぬ人となったこと。それ以来、俺は単純に暗いところが怖いこと。周りに人がいれば寝ることが出来るが、人がいないと寝ることができないため睡眠薬を使っていることを。
全て俺の身勝手な行動から生んだ不幸の連鎖だった。俺が全部悪いんだ。俺はそう自分に言い聞かせながら自嘲気味に笑いながら話を締めようとした。
「とまぁこんな話だ。俺が自分から生んだ連鎖で苦しんでるのさ。笑っちゃうよな。…こんな俺みたいな人間の話を何で聴きたかったのかは知らないけど、ほらもう寝るぞ。こんな誰得な無駄話してたせいでもうこんな時間だ」
俺がそう言い、立ちあがろうとすると俺に正面から聖女様が抱きついてきて、優しく俺の背中をさすり始めた。
「!ちょっ、お前何を」
「大変でしたね…。蒼人くん、これからは、私がいるので私にたくさん甘えてくださいね」
彼女は何故か涙を流していた。俺は彼女に失礼のないように彼女を俺から引き剥がそうとした。
「いや、本当に意味分からないから。ほら約束したろ。美容とかにも悪いから早く寝ろって」
「甘えてくださいと言ってるんです。蒼人くん、…私に…蒼人くんを救わさせてください」
彼女は俺の耳に囁くように言ってきた。俺は彼女のそのセリフで堕ちそうになった。
ただ…、俺はそこでなんとか踏みとどまった。彼女を俺から剥がし、敢えて強い言葉で彼女を拒絶した。
「やめてくれ、正直迷惑だ」
「そう…ですか…」
俺はこれが正解なんだと言い聞かせ、立ち上がり彼女に背を向けて歩き出そうとした。
だが、俺の体は動かなかった。
動け俺の体。ほら、彼女を突き放せ。俺となんかと一緒にいたら迷惑なんだから。
俺がそう必死に念じていると突然俺の体を柔らかい感触と彼女の言葉が襲った。
「そう、固くならなくていいんですよ、蒼人くん」
そう言って彼女は微笑んで俺の頭を優しく撫でてきた。
クソッタレ、俺をこれ以上苦しめないでくれ、俺。もういいだろ。とっとと甘えちまえよ。
俺はその悪魔なのか天使なのか分からない囁きに乗せられ、彼女の胸に頭を埋め、嗚咽を漏らし始めた…。
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