第8話

 翌日、聖女様が俺のことを起こしにきた。


「蒼人くん、朝ご飯準備できましたよ〜」


 俺は聖女様にそう言われて部屋から出たが、聖女様の顔を見てどことなく不思議な気分になった。


 俺に反応がないことを怪訝に思ったのか、聖女様は俺の肩を揺すってきた。


「蒼人くん、どうかしましたか?」

「…っ、いや、なんでもない。ごめん」


 俺は聖女様にあったことを聞いたからか彼女に対して不思議な感情を持っていたが、それについてはまだ隠すつもりだった。


「そう?それならいいですけど…。行きましょうか」

「ああ」


 その後、朝食を食べ終わり、少しすると俺は玄関で亘さんとしげ子さんに別れの挨拶をしていた。


「どうもお世話になりました」

「いやいや、短い間だったけどありがとう。…白紅をお願いします」

「もちろんです」

「白紅、忘れ物ないわね。あと、外崎くんにあまり迷惑をかけないようにね」

「うん。じゃあ、行ってくるね。おじいちゃん、おばあちゃん」

「一ヶ月に一回は帰ってきてね」

「うん。バイバイ」

「じゃあ、行くか。お邪魔しました」


 俺と聖女様はそう言って聖女様の家を出た。


 俺は聖女様の荷物の多さを見て、さりげなく、聖女様の荷物を取った。


「あっ…」

「ごめん。重そうだったから…」

「いえ、ありがたいですけど…重くないですか?」

「大丈夫」

「じゃあ、甘えさせてもらいますね。ありがとうございます」

「…」


 少し歩いたところで聖女様が俺に話しかけてきた。


「そういえば、蒼人くんの家ってここから近いんですか?」

「うーん、三十分くらいかかるからなんとも言えないけど…近くはないんじゃないかな」


 そう言っている内に俺たちは駅に着き、電車に乗った。


 ただ、行きの電車とは違い、電車内ではどちらも声を出すことはなく、俺も抵抗することなく並んで電車に揺られていた。


 そして、俺の家の最寄駅に着くと、俺は何を思ったかわざわざ聖女様に手を差し出した。


「ほら」

「えっ?」


 俺は聖女様のその声で正気に戻った。


「あっ、いや。これは…ほら、道に迷われたら面倒だから」


 俺のその少し焦った声を聴いたからか聖女様は笑って俺の手を掴んできた。


「じゃあ、お言葉に甘えて」

「なっ」


 そこで今度動揺させられたのは俺だった。ただ、そこで俺が引いたら負けな気がしたので引くことが出来ず、そのまま手を繋ぎながら歩くはめになった。俺は申し訳ないという感情が俺の中で渦巻いたがそれを隠して歩き続けた。


 俺の家に着いた時には俺は少ししか歩いていないのにすっかり疲れてしまっていた。俺は聖女様からさりげなくそこで手を離し、ドアを開けた。


「ここだ。ただいま」

「へぇ〜、じゃあお邪魔します」


 俺は靴を脱ぎ、聖女様を案内した。適当にお手洗いなどの場所を教えた後、俺の部屋の隣の空き部屋に聖女様を連れて行った。


「畑山さんの部屋ここね。自由に使ってくれて構わないから」

「ありがとうございます。…それで蒼人くんの部屋は?」

「一応、隣だけど…なんで?」

「いや、別になんでもないですけど…そうだ。というか大分この家綺麗ですね。この家。あなた一人、男の子一人で暮らしてるなら大分グチャグチャしてると思ってたんですが…」


 俺は少し不満気な声で聖女様に返事を返した。


「失礼だな…まぁ、いいけど。部屋には入らないでくれよ」

「ベッドの下になんかあるんですか?」


 だから、なんだその偏見と思いながら俺は聖女様に返答した。


「ないわ。普通はそんなところに隠しません」

「え〜、じゃあ、どこに隠すんですか?」

「どこにも隠さないし、そもそも家にはありません。はい、もうこの話はおしまい。家に何もないから買ってくるからちょっと家で待っててくれ」

「私も行きます」

「いや、大丈夫。また今度頼むから。今日は一旦適当にくつろいでて」


 正直、聖女様と一緒に行動するのは申し訳ないのと疲れるのでやんわりと俺は断った。そして、俺はそう言うと付いて来られる前にとっとと家を飛び出した…。

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