第9話
「なんで、あんなに一緒にいるだけで疲れるんだよ…」
一番近くのスーパーに来た俺は一人でそう呟きながら、今日明日の献立を考え、必要そうなものをカゴに入れていく。
そうして、買い物を済ませると俺は一瞬ぶらぶらしてから帰るか迷ったが、待たせるのも失礼だと判断して、家に帰った。
「ただい」
俺の声を妨げるように聖女様は言ってくる。
「おかえりなさい、蒼人くん」
「おっ、おう…」
家に帰ると聖女様が何故か玄関で俺のことを待ち構えていて、この勢いできたものだから俺は戸惑ってしまった。
聖女様は俺から袋を取り上げると何買ってきたの?と聞きながら俺が答える前にキッチンに向かっていった。
俺はしばらくそこに立ち尽くしてしまったが、気を取り直して彼女の後を追った。
俺がキッチンに行くと聖女様はバッグから買ったものを出して分け始めていた。俺が来たことに気づくと聖女様は俺に訊いてきた。
「蒼人くん、これどうする?」
「ああ、常温保存だからこっち頂戴」
「オッケイ。はい」
「うん。ありがとう」
そういう風に片付けをしていると唐突に聖女様は俺に訊いてきた。
「そういえば、蒼人くん。昼ご飯ってどうするつもりですか?」
「一応、焼きそば作るつもりだけど…、あれそういえば好き嫌いとかってある?」
「いや、好き嫌いはないですね。ってそうじゃなくて、昼ご飯、私に作らせてもらえませんか?」
「うーん…」
俺はそこで一旦考え込まさせられた。別に作ってもらってもいいが、聖女様の料理の腕も何もかも知らなかったし、そもそも俺なんかのために作らせるのが申し訳なかった。
俺が迷っているのを見てとったからか聖女様は俺に頭を下げながら続けて言ってきた。
「お願いします。一回だけでもいいのでやらせてください。蒼人くんに怪我させちゃいましたし、私は蒼人くんのお世話をしにきたので」
ここまで言われると推しに弱い俺は折れてしまった。
「じゃあ、お願いするけど…、一応フライパンとか調味料とか出しとくぞ。あと、俺も見ててもいい?」
「ありがとうございます。…いえ、私一人で一回やらせてください」
「いや、流石に全部やらせるのは申し訳ないというか…」
「私がやりたいんです。お願いします」
俺はまたここで折れてしまった。
「じゃあ、頼む。俺、部屋にいるからなんかあったら言って」
「はい。じゃあ、できたら呼びに行きますね!」
謎にハイテンションな聖女様に眉を顰めながら俺はキッチンを出ていった。
「男の子を捕まえるならまず、胃袋から掴めって、おばあちゃんも言ってましたものね。頑張らなきゃ」
出て行ってすぐに聖女様がそんなことを言っているのが聞こえたが、俺の耳がおかしいのだと判断して俺は自分の部屋にこもった。
そして、約二十分後、聖女様は俺の部屋のドアを叩いた。
「蒼人くん、できましたよ」
「うん。ありがとう。今行く」
俺はそう言い部屋を出て、キッチンに向かう聖女様に着いて行った。
キッチンには焼きそばの香ばしい匂いが漂っていた。
「あっ、いい匂い」
俺が思ったままにそう言うと、聖女様は弾んだ声で俺に言ってくる。
「そう!それなら良かった!でも、問題は味よ、味」
そう言って、聖女様は料理を盛り付けた皿を机の上に置いた。
俺は箸を取り出して聖女様に手渡し、席に着いた。
聖女様がこの家にはない、おそらく持参したものであろうエプロンを脱ぎ着席するのを待って俺は言う。
「まず、ありがとう。それじゃあ、食べてみてもいい?」
聖女様はどことなく不安そうな、ただ期待のこもった声で俺に返す。
「うん。食べてみて」
「じゃあ、いただきます」
俺はそう言い、箸で焼きそばを取り、口の中に放り込んだ…。
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