第7話

 亘さんはドアを開けて亘さんの書斎に俺を招いた。


「夜遅くにすまないね。まぁ、そこら辺に座ってくれ」

「いえ、大丈夫です」

「…まず、白紅を私たちの孫を救ってくれて本当にありがとう」


 そう言って亘さんはいきなり俺に土下座をした。


「!亘さん!あの…元々は俺が悪いんです。だから、頭を上げてください…」

「…実は、違うんだ。白紅から話さないでと言われてたんだが…この際仕方ない。…実は昨日、白紅は…自殺をしに学校にいったんだ」

「はっ?」


 俺は突然意味の分からないことを言われて口からひょうきんな声を出してしまった。


「…どういうことですか?」

「白紅には両親を…ちょうど3年前に、ある事件に巻き込まれて失い、そこから両親を失った白紅を私たちで預かっているんだが…、最近白紅は浮かない顔をすることが多かった。だから、何度も白紅に何かあったのか尋ねた。…だが白紅は笑って誤魔化すだけで何も話してくれなかったんだ」


 そこで亘さんは一旦蛍光灯を見上げた。そして、続きを話し出した。


「そして一昨日の夜、何があったのか、急に白紅が明日死んでくると言い出したんだ。そう言って白紅は部屋に閉じこもってしまった。部屋の外から何度も話を聞いてくれと言ったが、白紅は聞く耳を持ってくれなかった。そして、翌日気付いたら白紅はもういなかった。もう私たちにはどうしようもなかったんです。その後、白紅が帰ってきた時、私たちはもう生きて帰ってきてくれたことに大歓喜しました。そこで白紅からあなたの話をされたんです」

「…」

「あなたはどんな形であれ白紅を、私たちの息子の忘れ形見を救ってくれたんだ。本当にありがとう」


 俺は亘さんが話に一区切りついたところで話し出した。


「…いや、僕の方こそ畑山さん、白紅さんに救われたんです。…僕も元々死ぬ気でした。そこに白紅さんが来て、僕のことを引き留めてくれたんです。…だから、どうか頭を上げてください」

「…それは本当かい?…ただ、それでもありがとう」


 そう言って亘さんは顔を上げてくれた。


「外崎くん、それで私から頼みたいことがある」


 俺はその言葉を受けて居住いを正した。


「なんでしょうか?」

「…改めてになるけど、白紅のことを預かってもらえないかな。もちろん、食費光熱費等々は折半で出すから」

「…本当に僕なんかでいいんですか?」


 こんな生きる意味のない俺なんかに。この一番危ない時期の異性の高校生なんかに預けてもいいのか?俺はそういう意味を込めて訊いた。


「君じゃなきゃ駄目なんだ。白紅からの頼みだし、何より白紅が気を許しているようだったしね」


 ここまで言われると俺は折れた。


「…元々、白紅さんとも話は付いているのでお引き受けしますが…。心配じゃないんですか?」

「聞いてくる時点で大丈夫さ。ただ…、頼んでる側が言うのはなんか違うかもしれないが、白紅を泣かせたら…ね」

「はい」


 俺は亘さんからの圧を感じて、首を何度も振った。


「…こんな夜遅くにあまり話したくないことを話させてすまなかったね。おやすみ」

「…おやすみなさい」


 俺は静かに亘さんの部屋を開けて割り振られた部屋に戻った。


 そこで俺はため息を吐いた。


「結局、引き受けちまったな…」


 もう過ぎてしまったことはしょうがない。そう俺は自分に言い聞かせ、再び椅子に座った。


 部屋に布団が敷いてあったが、俺は今日寝るつもりはなかった。いや、正確には寝れなかった。


 仕方なく、俺は教科書に向かい、夜を明かした…。

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