第5話
そうして聖女様の家を案内され終われ、リビングのソファに並んで腰掛けさせられた俺は彼女に尋ねた。
「なぁ、いつまで俺の手、掴んでる気だ?」
「そうですね…、逃げないようにしてるだけなので…、ずっとですかね?」
「せい…、畑山さんに申し訳ないんだが」
「どういうことですか?」
彼女のその疑問はそのあとすぐに解決させられることになった。
「白紅…、あらあら手繋いじゃって…ふふふ、外崎くんのこと借りようと思ったけど後にしとくわね」
「ちょっ、おばあちゃん!」
リビングのソファの上にいた俺らが聖女様のお祖母さんに見つかり、揶揄われたことで顔を赤く染めた聖女様は俺から手を離した。
「その…、何を言いたかったのか分かりました…」
「…ちょっと遅かったけどな」
聖女様は俺から少し離れたところにちょこんと座り、何やら勉強をし出したので、俺もリュックから教科書を取り出し、広げた。
「そういえば、蒼人くんって授業中寝てるのにテストではいつもクラスで5位以内に入ってますよね」
「…よく知ってるな」
「どういう風に勉強しているんですか?」
「…学年1位が聞く必要があるか?」
「…ちょっと気になっただけなので」
別に隠すほどのことでもないので俺は思ったままに正直に答えた。
「多分、他の人と変わらないぞ、普通に勉強してるだけだから」
「普通の人は全部の授業で寝てません」
「…あれは不可抗力なんだ」
俺の言い訳に聖女様はジト目で俺のことを見てきた。
俺はあまり授業中の睡眠については話したくなかったので強制的に話を切り上げた。
「もうこの話は終わり」
「えぇ…なんで…」
「不満を言われても困る」
彼女は口を窄めて、不満そうに俺の頬をシャーペンの消しゴムの部分で突いてくる。
「おい、やめい」
「…言ってくれないのが悪いんです」
「…お手洗いお借りしてもいいですか?」
「逃げる気?」
「お手洗いお借りしますね」
俺はあくまでもスルーしてそう言い立ち上がり、聖女様の攻撃から逃げた。
用を足しトイレのノズルを捻り、お手洗いから出ると一旦荷物を取りにリビングに戻った。
俺はとっとと聖女様からの攻撃から逃げたかったが、さっき割り当ててもらった部屋に荷物を置いてきそびれて、リビングに荷物を置きっぱなしだったので荷物を回収しなければならなかった。
俺はリビングに入るドアの影に隠れて中の様子を伺った。
「あれ?いない?ラッキー」
運が良くリビングには聖女様がいなかったので俺はとっとと荷物を回収して、二階の今日一日泊まることになった部屋に入った。
改めて部屋を見回すと、俺が今日泊まることになった部屋には何故か一昔前に流行った雑誌や漫画の並んだ本棚に勉強机が置かれており、20年程前の高校生の部屋がそのまま残されている感じがした。
「…元々、誰かの部屋だったのか?」
それならあまり弄りまわすのも良くないなと俺は思い、椅子に座り、教科書に向かった。
そして、しばらくするとドアが叩かれた。俺は誰だ?と思いながら立ち上がりドアを開けた。
すると、そこにいたのは聖女様だった。
「蒼人くん、夜ご飯できたよ」
「えっ?」
「早く早く」
聖女様は俺の手を引っ張ってリビングに俺を引っ張っていこうとした。俺はその場で抵抗した。
「ちょっと待ってくれ。…まさか今から俺はせい…畑山さんのお祖父さん、お祖母さんと同じ席に着いて、夕飯を食べるのか?」
「もちろん。あっ、嫌いなものとかある?」
「いや、特にはないけど…。そのいきなり押しかけた上にこれはちょっと申し訳っていうか…」
「食べない方が迷惑だし、美味しいから。まぁ一回来て」
俺は聖女様にずるずる引っ張られてリビングに行った。そこには既に席に座っている聖女様のお祖母さんとお祖父さんがいた。
「蒼人くん、私の隣ね」
その聖女様のセリフを聞き流して、聖女様のお祖父さん、お祖母さんと俺は向かい合い、改めて自己紹介をした。
「あの、突然お邪魔した上にここまでしていただきありがとうございます。外崎蒼人と申します」
「いやいや、白紅の命の恩人ですし、…これから一番大切なことを頼むことになるんですから。…名乗り遅れました。
「白紅の祖母のしげ子です。白紅のことを助けてくれてありがとう」
「いや、そのことなんd」
俺が真実を話そうとすると聖女様はまた邪魔をしてきた。
「おじいちゃん、おばあちゃんそこまでにしようよ。私、お腹空いちゃった。ほら、蒼人くん座って座って」
「そうだね。じゃあ、いただこうか」
そして、俺が座ると、いただきますという合図とともに聖者様の家族と俺は夕飯をとり始めた…。
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