第4話

「…蒼人くん、蒼人くん、起きて」

「…nん?」

「もう着きますよ」


 そう彼女は少し赤い顔で俺に言った。


「ごめん。いつの間にか寝てたか…。ん?というかなんで顔赤いの?暑かったか?」

「いや…そういうわけでは…」

「…まぁ、なんでもいいけど…。体調悪いなら言ってくれよ」

「…はい」


 そんなことをしていると彼女の最寄駅に着いた。俺たちは電車から降りて改札を抜けた。


「こっちです。着いてきてください」


 そのあと、こう言って、彼女は俺に手を出してきた。


「迷子になられちゃ困るので」


 俺は苦笑して言った。


「赤ん坊じゃないんだから大丈夫さ」

「そうですか…」


 彼女は何故か残念そうな顔で言った。俺のことをおちょくれなかったのがつまらなかったのかな?なんて俺は思いながら歩き始めた彼女に着いて行った。


 そして歩くこと10分後、俺は彼女の家の前にいた。


「蒼人くん、入らないんですか?」

「いや、…ちょっと心構えができてない」

「そうですか。ただいま〜。ほら、入りますよ」


 俺がそう言ったにも関わらず聖女様はドアを開けて家に入って行った。


「ちょっ、おい」


 俺は聖女様に手を引かれて、聖女様の家に上がった。


「お邪魔します…」


 すると、奥から60代後半の男性が出てきて、聖女様に話しかけた。


「おかえり、はr…、白紅。そちらの方は?」

「昨日話した蒼人くん」

「あっ、はじめまして、外崎蒼人と申します」

「あなたが…、どうも昨日白紅を救っていただきありがとうございました」

「いや、その」


 俺がそういうわけではないと言おうとするとそれを遮るように聖女様は爆弾を投げ込んできた。


「おじいちゃん、蒼人くん今日家に泊めてもいい?」

「えっ?」

「もちろん。外崎くんが良ければだが」


 聖女様はわざわざ俺の耳元で小声で言ってくる。


「蒼人くんの…」


 俺は一瞬で脅しに屈した。


「お願いします」

「じゃあ、白紅。案内してあげて」

「蒼人くん。こっちこっち」

「えっ、ちょっ待っ」


 俺は彼女に手を引かれて、二階に上がり、とある部屋に通された。


「今日はここで寝てね」

「ああ、分かった…じゃない。どういうことだよ。俺は挨拶はするつもりだったけど、泊まる気はないぞ」


 俺はそう迫ったが聖女様は気にした様子もなく続けた。


「ふーん、そうなんだ。隣の部屋が私の部屋ね。じゃあ、次お風呂場案内するね」

「おい」


 俺はあくまでも俺の言葉をスルーする彼女の肩を掴んで止めた。


「聞いてたのか?俺は泊まる気はないぞ」

「…騙す形で連れてきたのはごめんなさい。…でも、私の未来のためなんです。だから、お願いします!」


 彼女はそう言って頭を俺に下げた。ミライってなんだよ。ミライって。花嫁修行か?それなら、わざわざ俺じゃなくてもいいだろ。


 そのように俺には付き合う義理はないと彼女に言うこともできたが、俺はこういう風に正直にやられると弱かったし、伝家の宝刀である彼女のあの言葉を彼女が使わなかったことに少し俺は本気を感じていた。


「…はぁ…分かったよ…。分かったから頭を下げるのはやめてくれ」

「いいんですか!ありがとうございます!」


 じゃあ次、お風呂場に案内しますねと言って俺の手を彼女は引いていく。俺は押しの弱い、少し甘い自分にため息を吐きながら、彼女に連れて行かれることにした。

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