第3話
訳が分からなかった俺は彼女に聞いた。
「…本気か?」
「本気です」
俺はそうきっぱりそう言い切られると何も言い返せなかった。
「じゃあ、決まりですね。授業終わりに東桜駅に居てくださいね!」
彼女はもう俺が諦めたと認識したらしく、そう言って教室の方に走っていった。
結局、駅なのか教室なのかどっちだよと心の中でツッコミながら、俺は大きくため息を吐きながら呟いた。
「なんで、こんな面倒くさいことになるんだよ…」
いや、普通なら喜ぶべきことなのかもしれない。聖女様の家に行けて、しかも、そのあと俺の家に泊まる。…つまり、同棲だ。
「別に聖女様に興味はないしな…」
そんなことを言って俺が苦悶していると予鈴を告げるチャイムが鳴った。
「はぁ、寝ながら考えるか…」
俺は重い足取りで教室に向かい、机に突っ伏して、残りの授業を消化した。
♢
本日最後の授業が終わっても、教室には何人か残っていたので、俺は重い腰を上げて、駅に向かって歩いた。そして、約束した駅に着くとベンチで座っていた。
そこでボォっと遠くを眺めながら座っていると突然目を塞がれた。
「私は誰でしょう?」
「声でバレバレだ」
俺はそうツッこみ、聖女様の手を俺の顔から剥がした。
「ちゃんと居てくれたんですね。感心です」
「一応、約束だからな…あと、見られたらどうするんだ?」
「大丈夫、大丈夫。今、誰もいませんから」
俺たちが今いる駅は学校からの最寄り駅二つとして指定されていない裏の最寄駅のような駅だったので、運良く同じ学校の生徒は誰もいなかった。
「それでも止めてくれ。万が一にも見つかって聖女様が俺となんかって言われたら…」
「なんだ、そんなことですか」
「そんなことって…」
「私がやりたくてやってるだけですから」
彼女はそう言うと、もう電車が来ますねと言って立ち上がり、ホームの前の方に進むかと思いきや、俺の方を振り向き尋ねてきた。
「それとも、迷惑ですか?」
「…s」
「やっぱりなんでもないです。忘れてください」
彼女は俺が答える前に何かを恐れるように俺の言葉を遮ってきた。
彼女の忘れてくださいという言葉の後、俺らの間には電車が到着するまで虚無の時間が流れた。
「…電車乗りましょうか」
「…ああ」
そう言い、彼女は来た電車に乗り込んだ。俺もベンチから立ち上がり彼女の乗った電車と同じ電車に乗った。
俺が電車に乗り込むと彼女は先に座っていて、隣に座れと手でポスポスと彼女の隣の座席を叩いていた。
俺はそれを見て敢えて彼女と対面の席に座り、彼女の隣に座らなかった。彼女は俺の行動を見て、俺の隣に席を移した。
彼女は電車内だからか小声で言う。
「なんでこんなことするんですか?」
「何がだ?」
俺は何を言っているのか分かっていたが白を通した。
「わざわざ私から離れたところに座るなんて」
「聖女様に迷惑がかかるからだな」
「もう…まず聖女様って言うのやめてください」
「いや、それは畏れ多いっていうか…」
俺の言葉に彼女は小悪魔のような笑顔を浮かべ、俺の耳のすぐそばで呟いた。
「きゃあ、外崎くんの変態」
「畑山さん、やめてください」
「…白紅って呼んでくれても」
「…流石にそれは許してください」
俺の言葉に彼女は少し不満そうな顔を浮かべながらも頷いてくれた。
「蒼人くん」
「えっ?」
「私は呼びますね、下の名前で」
「…好きにしてくれ」
俺は諦めて彼女が俺のことを下の名前で呼ばれるのを認めた。
電車に揺られながら俺が目を閉じて少しすると、彼女の頭が俺の肩に乗ってきた。俺が目を開けて彼女の方を見ると彼女は目を閉じていた。
俺はそれを見て俺の肩なんかで迷惑じゃないかと思ったが、起こすのも野暮だと思い、彼女に肩を貸したまま目を閉じた…。
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