第2話

 その日は結局、俺は家に帰らされた。俺はあそこで死ねなかったことで、三年前の今日に死んだ両親にまだ生きろと言われている気もして再び死ぬ気にはならなかった。


 翌日、俺は授業を寝て過ごし、昼休みになると今度は誰もいない校舎の裏側に座っていた。すると、誰かが俺の隣にやってきて腰掛けた。


 俺の隣に座ったのは聖女様だった。


「こんなとこにいていいのか?」


 俺は聖女様にそう声をかけた。


「…あの、すみませんでした」

「…何がだ?」

「私の不注意なのに…、あなたが落ちて…死にそうになってしまい…」

「…気にするな」

「実際あなたは左手の指を怪我していますし…、それで…その恩を返させていただけないでしょうか」


 彼女が俺の左手を見ながら言った言葉に俺は驚きを隠せなかった。


「…はっ?」


 俺は頭を真っ白にさせられた。俺がどう考えても悪いんだぞ。


 俺は思った通り言い放つ。


「いや、いらない。そもそも全部俺が悪いんだから」

「…先生に私のことを話しませんでしたね」

「ああ、聖女様は関係ないから」

「…お願いします。この恩を返させてください。なんでもしますから」

 

 俺は思わずその言葉に苦笑して言う。


「その言葉は危ないからやめておけ。この機会とばかりに人間の三大欲求の一つを押し付ける馬鹿もいるから」

「少なくともあなたはそうじゃなさそうですね、あお…外崎さん」

「名前知ってたのか」


 俺はその言葉に軽く驚かされた。


「ええ、だn…クラスメートの名前くらい覚えてますよ」

「そうか…」


 会話が途切れる。


「そうだ!いいこと思い付きました。じゃあ、私があなたのことをお世話しますね!」

「…どういうことだ?」

「私があなたの家に行って、あなたのお世話をすると言っているのです。私みたいな女性が来れば親御さんも喜ぶでしょうし。息子に嫁ができたとか言って」

「婚前、しかも交際すらしていないのに高校生が同棲するなんて論外だ。それに聖女様の両親がどこぞの馬の骨とも知らんやつの家に行くっていうだけで御免だろ」

「保護者からの許可は出ています。あとはあなたのご両親だけですよ」


 誇らしげに言う彼女を俺は見つめながら言葉を吐き出した。

 

「…俺に親はいない」

「あっ…、ごめんなさい…」

「いや、別にいいさ。じゃあな」


 俺は立ち上がり、この場を後にしようとした。

 

 ただ、俺は動けなかった。


「あの、裾から手を離していただけませんか?」

「いやです。あなたのお世話をさせていただけるまで離しませんよ」

「そうか。じゃあ、離すな」


 俺は彼女の手を掴み、俺の裾から離させた。


「じゃあ、今度こそじゃあな」

「きゃあ、外崎くんの変態」

「おい」


 俺が背中を向けた瞬間に何故か彼女は爆弾発言をした。


 誓って言うが俺は一切やましいことはしていない。


「クラス中に外崎くんに変なことされたって言い触らしますよ」

「あんまり意味ないと思うけど面倒くさいから止めてくれ」

「どうしようかな〜」

「はぁ…、分かったよ。いいよ。俺の家に来ても」

「本当ですか!やったぁ!」


 俺は無邪気な子どものように笑った彼女を見て、俺の家に来て何が良いのやらと思いながら続けた。


「ただし、一回聖女様の両親に挨拶をさせてくれ。せめてもの礼儀だ。これが認められないなら俺は認めない」

「別にいいですよ」

「えっ?」

「いや、だからいいですよって。言いましたからね。じゃあ、今日学校が終わったら教室でちょっと待っててください」


 俺の淡い希望は消し飛ばされた。彼女が今まで少し悩んでいる様子を俺に見せていたので、俺は流石にそこまで話は進んでいないと思っていた。ただ、こうもはっきりと言われると俺は希望を捨てざるを得なかった。


 俺は最後の足掻きとばかりに一応尋ねた。


「…取り消すことは?」

「あなたが社会的に終わってもいいならいいですよ」


 俺はなんとしてでもこんなことは回避したかったので、今まで言いたくはなかったことをここで言うことにした。


「…別に死ぬから関係ない」

「…じゃあ、死にますね。私も」


 なんでそうなる?

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