屋上から飛び降りようとしたら聖女様との同棲生活が始まった件。いや、なんで?

儚キ夢見シ(磯城)

第1話

 その日、俺は夢を見た。


 その夢は小学1年生の頃、ある女の子とある約束をした夢だった。


「あおとくん、わたし、あおとくんのおよめさんになる!」

「じゃあ、ぼくははるかちゃんのだんなさんになるね」

「やくそくだよ、あおとくん」

「もちろん、はるかちゃん」

「じゃあ、いくよ「ゆびきりげんまん、うそついたらはりせんぼんのーます。ゆびきった!」」


 俺たちはそう言ってお互いに笑った…。





 俺、外崎蒼人とのさきあおとはそこまで夢を見て目を覚ました。時計を見るともう昼休みの時間だった。


 俺はその夢で平和だった昔のことを思い出してため息を吐き、いつも通り昼休みに誰もいない屋上に上がった。


 ただ、俺はいつもと違い、フェンスを乗り越えた。そして、一歩踏み外したら死の世界が広がる出っ張りに腰掛け、風に吹かれながらぼんやりと遠くを眺め始めた。


 俺が少しそうしていて、そろそろ行動に移すかと立ち上がろうとした時、突然ドアが開き、誰かが何か言っているのが聞こえてきた。いや、正確には何か叫んでいるのが聞こえてきた。


「今すぐそこから戻って思い直して!」

「???」


 俺の頭は真っ白になった。


 急に一体なんだ?俺はただただフェンスを乗り越えただけで、まだ何もしていないし、そもそも俺を心配する人なんていないはずなんだ。


「関係ないだろ」


 俺は思ったままにそう言いながら後ろを振り向いて、その人物の名を呟いた。


「…聖女様?」


 俺の後ろにいたのは、この高校一の美少女と謳われている俺から見てもまさに才色兼備という言葉が似合う女子、畑山白紅はたやましらく、通称「聖女様」だった。


 彼女は俺と違いフェンスを乗り越えるのではなく、フェンスから外に出れるドアを開け、出っ張りの部分に立った。


「何やってんだ?」

「あなたを思いとどまらせようと」

「…そうか、危ないから止めておけ」


 俺がそう言った瞬間、強風が吹き、彼女の華奢な体が飛ばされそうになった。


 彼女はフェンスに捕まり、なんとか堪えたが、俺は一瞬ヒヤリとした。


 俺はその内心の動揺を隠すように冷たく言い放つ。


「…ほら、言ったろ、危ないから止めておけと」

「私が止めたらあなたも止めてくれるの?」


俺は彼女が俺が死のうとしているのに気付いていると悟り、咄嗟に嘘をついた。


「…俺はそもそも死ぬ気はないぞ」

「えっ?じゃあ、なんでそんなところに?」


 俺は無視するつもりであったが危ないので止めてほしかったので返答してしまった。


「…さぁな。俺のことは聖女様には関係ないだろ。何の関係も無いんだし」

「…じゃあ、関係があればやめてくれるんですか?それなら…、私と、友達になってくれませんか?」


 彼女はそう言いながら俺の方に歩いてきて手を差し出してくる。


 俺はそれに対する質問に答えずに質問で返した。


「いや、なんで俺なんかと?…なんのメリットもないのに」

「メリットですか?それはあなたとまt、きゃっ!」


 彼女がそう話している時に再度、風が強く吹いてきて、手を俺に差し出していてフェンスから手を離していた彼女は死の世界に落ちかけた。


 俺は咄嗟に彼女の方に飛び出し、彼女をフェンスの方に押し飛ばした。


 ただ、俺はその反動で死の世界に飛び出した。


 別に後悔はなかった。

 

 このまま死ねるなら…。俺なんていてもいなくても変わらないんだから。





 結論から言うと俺は死ねなかった。


 偶然、俺が落ちた先には木があってそこに落ちたため、木がクッションとなり左手の指が軽く骨折したのと、かすり傷を負ったくらいで、大した怪我は負わなかった。

 ただ、もちろんその後、こっぴどく教師に叱られ、屋上は今後出入り禁止になったが。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る