第111話 ライフスタイルと社会

 現代社会の教科書にあるようなタイトルである。新聞の時事ネタっぽくもある。今回はそんな大袈裟ではなく、今流行の専門学校と少子化の話。

 先日CD店の店舗にとても久しぶりに足を踏み入れた。ネットでの買い物が多いためあまりこの数年は店舗に行っていない。特に買い物があったというわけではなく、単なる見学程度だ。驚いたのはCD店がレコード店に逆戻りしていた。ジャケットが並んでいるし、あとは再販制度で守られていたCDも結構値引き対象商品の数が多くなった。世相なのだろうか。


 音楽と物語は僕の心の拠り所なので、本屋とCD店に行くことは例のあれが起きる前の年までは日常だった。最近は雑誌の廃刊が相次いだり、ストリーミングの普及などでヒットソングが分かりにくくなったりと、世間の流行というモノから完全に遮断された僕がここにいる。もともと流行には敏感な方ではなかったのに益々それに拍車がかかって、世間知らずのうつけのようになってしまった。


 そもそも昔は何らかの媒体や店頭を通してヒットソングというのは、耳に入ってきたモノだが、昨今のその指標は自分からチャートの雑誌(オリコンやビルボードなどのたぐい)を覗きに行かないと分からない世の中になっている気がする。声優さんがかつてのアイドルさんのようにヒットチャートを賑わしているというのを知ったのもつい最近である。どうりで駅貼りポスターや雑誌の広告などに声優さんが目立つわけである。


 それを何で知ったかというと、進路雑誌などでアナウンスや声優の専門学校というのが広告の幅を利かせていて不思議だなと思って少し調べて分かったのだ。このエッセイの読者のかたがたは世間の風を知ってると思うので、「いまさら?」などと思うかも知れないが、僕の時代感度などこんなモンだ。

 僕が現役のころはそういった進路雑誌の裏表紙は、PCプログラミングの理工系専門学校や公務員養成補習校、法科大学院補習学校などの広告が多かった。今は医薬系予備校やこの声優、アナウンス養成校などの広告が目立つ。

 正直声優さんを目指す、あるいはその類いの職業に就く人のニーズって、各種学校や学校法人として専門学校を作るほどあるのだろうか? それともピンキリでそれほど有名でない求人枠なら職に就けるほどいくらでも存在するのだろうか? この職業は相手が「いる」、「いらない」の選択権を持っているので、世の中に疎い僕でも狭き門、難しい業種のように感じている。下手をすれば大学全入時代の今ならこっちの方が難しいようにも思う。

 僕らの受験の頃(第二次ベビーブーム)は大学と名のつくものには、全てそこそこの偏差値がついて回ったので、どんなちんけな大学でも受かれば儲けものだった。そんな時代だった。

 今の若者はどんな将来像を想像して進学しているんだろうなどとぼんやり思う。別にそれほど興味があるわけでもないので本当にぼんやりと思う程度だ。


 またそうかと思うと老年期の人々は墓じまいに頭を悩ませている人も多いという。最近のニュースで、島村抱月や泉鏡花といった文人の墓の管理者が墓じまいをどうするかで悩んでいるという記事を読んだ。

 確かに大文豪、大作家であるが、その先の血筋のひとがみな裕福とは限らないし、ご長寿になるとも限らない。あるいは子宝、子孫である子や孫に恵まれるとも限らない。そういった後継者のいない墓をどう対処していくのかという安からぬ難問に出くわす人もこのご時世では多くなるだろう。ましてや大文豪の墓となると、時代を超えたファンも多いだろうから親族だけの問題でもなく、簡単には答えを出しにくいし、存続の声も多いだろう。

 文化的背景から「いる」ものだが、家族、親族の経済的な面や管理の維持の面でやむを得ず「いらない」を選択しなくてはならないこともあるだろう。

 吹けば飛ぶような庶民の僕がいうのもなんだが、自分の意志だけで決定できないモノが多くなった今の時代、頭を悩ませる機会が増えているような気がする。


 背景には、少子化や経済問題、価値観、社会的なライフスタイルの変化が考えられる。そしてこれらの諸問題すべてが覆い被さっている気もする。


 さて若者の高等教育にせよ、老人の管理する墓地にせよ、簡単に決められるモノではないし、自分ひとりで決められるモノでもない。世の中は複雑化の一途を辿り、結局は、最終的に単純シンプルな答えである「いる」、「いらない」の二択に行き着くのだ。ファッションのように軽いモノでは無いからその行動には慎重にならざるをえない。今の社会は僕が学生の時に想像していた社会とは全く違っていることにただただ驚かさせるばかりだ。ここまで生活様式や社会スタイルが崩壊するとは思っていなかった。


 なんか今回は本当の意味でのエッセイっぽい内容になった。いつになく内容がそれっぽい。時局を鋭くえぐっている。珍しく、いつものダメダメのぐずぐずが日常の僕のエッセイではない。今回は別物だ。「やれば出来るじゃないか」と、たまには自分を褒めてみよう(笑)。次回はいつものダメダメのゆるいエッセイでお会いしよう。ではまた。

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