第106話 ニューミュージックという時代相
僕が小学校の高学年の頃は、歌謡曲と並んでシンガー・ソング・ライターで今で言うJ-POP、アーティステックなポップスの人たち、すなわちニューミュージックが台頭してきた頃だった。東芝EMIのエクスプレス・レーベルとCBSソニーのポップス部門が特にこのジャンルを牽引していたように思う。
具体的には庄野真代、桑江知子、渡辺真知子、竹内まりや、久保田早紀、八神純子、大橋純子(以上敬称略)、サーカスなどのポップな歌手が世間を賑わせていた。
「飛んでイスタンブール」、「私のハートはストップモーション」、「迷い道」、「不思議なピーチパイ」、「異邦人」、「ポーラースター」、「シルエットロマンス」、「アメリカン・フィーリング」などが順に彼女たちのヒット曲である。躍動的な女性の時代の幕開けである。
海外旅行や自由恋愛が本当の意味で社会に定着してきた時代だったと年端もいかない幼い頃の僕にも感じた。時代の境目となったこの時代以前の社会は、円とドルは三百六十円の固定相場制(変動相場制は一九七三年から実行され、徐々に七十年代の中頃までにその影響が社会にも出始めた頃だ。一般化した海外移動や旅行の幕開けと言われている)、また社会的な風習として、それまで結婚はお見合い結婚や約束婚などが主流であったが、最後の旧世代でもある団塊世代の価値観の時局、それらとは一線を画した新しい時代に入ったと個人的所感ではあるが、田舎に住む子どもながらに風を感じていた。
中でも大きかったのは女性の必需品である化粧品、そのメーカーによる春キャンCM曲の多大な起用である。「不思議なピーチパイ」はカネボウ、「ストップモーション」はポーラ、渡辺真知子の「唇よ熱く君を語れ」もカネボウなどだった。また「異邦人」、「イスタンブール」、「アメリカン」、「エアメール」などの単語に国際色豊かな世界観が紐付いていたりと時代が動き出す気配を感じる。この直後から英語の歌詞をワンフレーズぐらい入れる歌詞へと、この類いの音楽は変化してる。そのトップランナーが尾崎亜美さんやゴダイゴなどで、折しも社会では猫も杓子も英検と騒がれ始めた頃だ。
同じ頃の男性ボーカル、コンポーザーたちは、「いい日旅立ち」、「秋桜」、「WAKEUP」、「夏休み」、「宿無し」、「贈る言葉」、「ペガサスの朝」、「
今、現在はこれらの楽曲もひとくくりにJ-POPと呼ばれているが、僕にとってはニューミュージックという括りの方がしっくりくる。僕はそんな世代のひとりだ。レコード屋の棚に五十音順やアルファベット順に並んだ仕分け板で、お目当ての一曲、一枚一枚ドーナツ盤を探していたあの時代の記憶が蘇る。
初回限定のソノシート販売や特製ジャケット、LP予約特典のポスターなどが僕らの世代にはちょっとした優越感を感じさせてくれた。そして中高生の頃には、LPを抱えて教室にいくと必ずと言って良いほど誰かが中身を訊ねてくる。オフコースだ、とか甲斐バンドだ、とかいうと、その次に貸して、などと予約をされていた友人も結構いて、日常会話のバロメーターだった気がする。
ジャケットと音楽が一体化していたので、今のようにストリーミングやサブスク時代の聞き流しとはまた違った音楽の楽しみ方があったと思う。鑑賞であり、落ち着いて対峙して聴く。これがこの時代の楽しみ方だった気がする。
さてさてそんなことを言い始めている時点で、僕は昔の人になってしまうのだ。でもムリに流行についていかないのは若い頃からの慣わしで今始まったことでもない。円盤と言う名の文化、CDや、アナログ盤という名の文化、レコードもなかなかイカすグッズだったとおじさんはいま一人思い返している(笑)。A面、sideAという文字を見ると子ども時代から青春期の時代相が見える。そんな時代相に僕は存在していた。
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