第105話 SFとヒロイズムの話

 一週空いて、ようやくのアップである。

 このところ何故か古い筒井康隆さんの映像化作品の録画ストックの見直しや公式アップのSNS作品を観る機会が多かった。多岐川裕美さんや蓮佛さんのもの、原田知世さんのものなどだ。

 女優さんの名前で作品名が分かる人には分かってしまう。『七瀬ふたたび』や『時をかける少女』である。前者は超能力もの、後者はタイムリープものである。

 僕はあまり専門用語を使いこなせないのだが、これらの映像化された筒井作品の世界は常に専門用語が飛び交うSFだ。とりわけ『七瀬ふたたび』はテレパス、クレアボヤンス等結構な博学だ。そう言えば、『大いなる助走』や『文学部唯野教授』も専門用語だらけ、とりわけ前者は文学用語、後者が学術用語やパラダイムの学者名なども多く登場して、まあ娯楽の筈なのにかなり勉強させられた記憶がある(笑)。


 大作家とは比べようのない、僕のようなちんけな文芸趣味人が小説や物語を考える場合は、用語よりは形式を考えることが多い。民話パターンだ。古い文学や説話を学ぶと、こういう形式によってカテゴライズする頭になる。いわゆる「説話類型」というやつだ。

 これ以外にもいくつかその類型考察法はあるのだが、僕の知るものとしてはアールネ・トンプソンのタイプ・インデクス(Aarne-Thompson type index)で今日AT分類法と称されている。アールネとトンプソンによってふり分けられた類型法なのでそう呼ばれる。

 まあ図書館学のデューイ十進分類法もそうだが、近代は分類学の発達期だった。ただこのデューイはメルヴィル・デューイ(Melvil Dewey)で、二十世紀のジョン・デューイ(John Dewey)とは別の人物だ(現代思想のプラグマティズム、すなわち道具主義の思想家とは別の人です)。クラッシック音楽作品の分類法のオーパスナンバー(opus number・略称OP)もそうだが、分類の類いで言うのなら当たらずとも遠からずといった感じだ。


 他にもレヴィストロース、『悲しき熱帯』などで「ポストモダン主義」や「構造主義」を打ち立てた現代思想家の述べる分類などもある。原始的な風習ほど、科学的に整合性のとれる部分もあるということを教えてくれた名著であった。随分昔だが、実はこの書がヒントになって拙作ショートショート作品の「DNA分析を越える制御」という作品の発想に繋がった。


 おもしろい所では、日本民話の分類法で、民俗学者であり、遠野物語でも知られる柳田國男の『日本昔話名彙』や推理小説のトリックパターンで江戸川乱歩が挙げた『類別トリック集成』などもあるという。両方とも僕は未確認だけど。


 最初に挙げた「説話類型」を軽く触れてみたい。

 具体例でどういうことかというと、中にはSFにも通じるものもあるのだが、一部ご紹介すると、異類婚姻譚いるいこんいんたん貴種流離譚きしゅりゅうりたん動物報恩譚どうぶつほうおんたんなどがそうである。

 妖怪と結婚する「雪女」や「メシ食わぬ女房」、ある種「美女と野獣」なども異類婚姻譚、オデュッセイアや光源氏の「須磨流謫」、日本神話の「八岐大蛇」などが貴種流離譚、「つるの恩返し」などの動物の恩返し話が動物報恩譚だ。

 まあ「八岐大蛇」のお話は現代なら完全なるSF大作である。西洋のクエスト物にも匹敵する。天叢雲剣あめのむらくものつるぎ、後の草薙剣などの剣が出てくるのもそれっぽい。

 日常系としては「致富ちふ譚(長者伝説)」と「長者没落譚」は対義用語である。これらはおおよそ宗教説話などに多く、敬虔に徳を積んだ者が成功し、怠った者が泣きを見るという教訓を交えたオチで結ぶものが多い。

 説話以外では、似たような物語展開として「ドラえもん」に出てくるのび太くんのオチのパターンはこれが多いな、と感じる。宿題やお手伝いなどをないがしろにして、秘密道具を悪用したりと、真面目に生活してないばかりに、のび太くんは小さな不幸に出くわして小話が終わるというおきまりのパターンだ。


 そして「英雄譚」。これは圧倒的に歴史上の人物を美化することも多い物語だ。そうでないものとしては、虚構作品、「アーサー王伝説」などがある。もともとがケルト説話から来ているとも言うが正体不明だ。


 面白いのは、一般的な「英雄譚」。ほぼ大部分の作品は吟遊詩人の叙情詩から来ているというのだが、物語の骨子は貴婦人を助けることで、民衆の尊敬を集め、その貴婦人と結ばれるというプロットである。そうほぼイコールで騎士道物語なのである。

 あれ? そう、スサノオノミコトの「八岐大蛇」もこっちのパターンに分類出来そうだ。貴婦人は櫛稲田姫くしなだひめ、娘がさらわれた村人を救う役目をかってでる、など全くもって「英雄譚」に適合可能だ。そして他にも現代のロールプレイングゲーム。その大半のゲームシナリオ、こんな感じの物語ですな(笑)。洋の東西を問わず、人々はこういう英雄譚に憧れるのかも知れない。


 ここにもうひとつ。僕の勝手なヒロイズム考察を挙げると、現代の日本の物語系譜にその模様替えの進化を観ることが出来ると考える。どんなことかと言えば、大佛おさらぎ次郎の『鞍馬天狗』、川内康範かわうちこうはんの『月光仮面』、そして石森章太郎の『仮面ライダー』がひとつの系譜になる。

「てんぐのおじちゃん」、「かめんのおじちゃん」、「らいだーのおにいちゃん」は勧善懲悪のプロットの中で、馬や単車にライドするライダー・ヒーローなのである。

 ちなみに鞍馬天狗はほぼ読んだのだが、『角兵衛獅子かくべいじし』がダントツに好きである。僕には分かりやすかったためだ(笑)。月光仮面は人並みに知ってはいるが、その知名度ほど本やテレビ番組を観た記憶はない。また『黄金バット』と並び戦後の紙芝居でヒットしたコンテンツであると記憶している。

『仮面ライダー』は現在でもシリーズが続いているのでここに書くまでも無い。

 そう、ヒーローは皆ライダーなのだ。そして甲斐バンドのヒット曲のタイトルでもある。お後がよろしいようで……。ではまた。

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