第104話 日が暮れて夜が明けちゃう話Ⅳ

 今回は彼らの映画にでもスポットを当てて、あのグループとマッカートニーの話をしてみたい。


 僕は中学生の頃、各地で開催されていた「ビートルズ復活祭」というイベントで映画『ヘルプ! 四人はアイドル』と『レット・イット・ビー』を観た記憶がある。正直、後者に関してはあまり気分が上がるモノではなかった。作品中唯一に近い、興味をひく場面は一般に言う「ルーフトップコンサート」。アップルレーベルの本社ビルの屋上でのゲリラライブのことである。

 そのシーンで、「ドント・レット・ミー・ダウン」や「ゲット・バック」の演奏を見れたことと、ビリー・プレストンの鍵盤さばきが見れたことは良かったかな、といった感じだ。自分としては、ほぼミュージック・クリップ・フィルムとしての扱いだ。映画映像としてのクオリティでは、全体的に眠たい感じの画作り、画面で、躍動感のある『ヘルプ』に比べると、ちと違うかなあ? なんて中学生ながら生意気にも感じたモノだ。


 その後、高校生の時に新装公開された『ハード・デイズ・ナイト』の刷新版冒頭に「僕が泣く」という曲が新たに挿入歌にされたスチール写真のカットの入ったものをロードショーにて観にいった。

 時代としては、まだジョン・レノン以外は皆元気だった。同じ頃、ハリソンの作った映画『バンデットQ』というファンタジー映画作品や、スピルバーグ門下のゼメキス監督が作る『抱きしめたい』なども観た。これらはなかなか面白かった。前者は、ギリアム監督メガホンであったが、主催のハリソンが多くの決定権を持ち主題歌も担当、「オライナエ(ドリームアウェイ)」というタイトルだったかな? ちとハリソンに関する知識は浅く薄い僕だ。


 また『ヤー・ブロード・ストリート』というマッカートニーの映画も公開されて、ビートルズ時代の曲のセルフカバーがいくつも披露された。だがこのセルフカバーの焼き直し楽曲は、マッカートニー・ファンの僕の中でも、元祖の録音の方に軍配は上がったようだ。何でだろう? 理由は分からないけど、もう直感である。


 映画と言えば忘れてはいけないのが『007 Live and Let Die』である。主題歌も同名で発売され、マッカートニーのヒット曲として有名だ。U2もカバーしている。原作小説のほうは邦訳で早川文庫版から上梓されているはずである。読んだことないけど。

 あとは彼らの伝記的な映画『イマジン』や『バックビート』『イエスタデイ』などの第三者的な目線、そして数年前のクラウドファンディングで日本人の目線でのビートルズ映画である『ミスター・ムーンライト』などもあるし、調べれば数多くの映画に出会える。


 そして映画にちなんで、という意味では、1980年代初期の当時『ムービーメドレー』というシングル曲が何故か全米ビルボードのホット100のベスト20に入っていた記憶がある。しかもゴールドディスク認定だ。勿論クレジットもビートルズ名義だ。即ち彼らの映画、『ハードデイズナイト』、『ヘルプ!』、『マジカル・ミステリー・ツアー』、『イエロー・サブマリン』、『レット・イット・ビー』あたりの挿入歌のつなぎ合わせの曲だったと思う。当時はリミックスなんて洒落た言葉はなかった。単なるつなぎ合わせの曲が大ヒットするって、この人たち一体何者と、思ったモノだ。ただこの良好なセールスの割に未だデジタル音源にはなっていない楽曲だ。


 それでオススメというのは人の数だけあるのだが、僕が初心者に伝えるビートルズやレノン、マッカートニーの映画鑑賞法ならというのをひとつ紹介してお開きとしよう。


 先に鑑賞の順序を挙げると、

『抱きしめたい!』→『ハード・デイズ・ナイト』→『ヤア! ブロードストリート』→『イマジン』→『ビートルズ・アンソロジー』である。順に解説をつけたい。これが僕のビートルマニア初心者のための攻略法だ。


 まず最初は二次資料を探求するつもりでゼメキス監督の『抱きしめたい!』にした。これで当時の全米の社会現象と化していたビートルズブームを知ることが出来る。いわば時代背景である。ビートルマニアと言われたファン目線で、当時の全米少女たちを虜にした魅惑の英国ギターグループの米国社会での影響や受けいれられたさまが理解できる。あの『バック・トゥー・ザ・フューチャー』の監督が作る世界観でビートルズ社会現象が観られる。結構安価でDVDも売られているので円盤で入手するのも悪くない。ラストシーンではエドサリバン・ショーのフィルムを使っているから『シー・ラヴズ・ユー』を演奏する活きた映像も観られる。


 次に『ハード・デイズ・ナイト』。公開当時、日本では邦題があって『ビートルズがやってくる ヤア! ヤア! ヤア!』(変な邦題タイトルだな・笑)。これが一次資料的な作品である。こっちは前者のファン目線ではなく、同時代の英国の音楽業界目線、そしてなにより公式出演作品映画である。四人の本当に躍動的な世界をスクリーンで堪能できる。もちろん楽曲たる音楽も演奏シーンもだ。監督は、あの映画監督。イギリスを代表する映画の一つ、クラーク・ケントの『スーパーマン』でおなじみリチャード・レスターである。


 仕上げはドキュメントに近いもの三連発。レノンファンならワーナー配給の『イマジン』だし、マッカートニーなら『ヤア! ブロードストリート』である。そして映画ではないけど、ビデオ番組である『ビートルズ・アンソロジー』でファンとしての基礎知識、基礎固めの復習と完成かな?


 えっ? 映画『レット・イット・ビー』が入っていないって? そりゃ、この映画は、かなりつうになってから観るべき映画と僕は思うからだ。僕はこの映画を初心者向けとは思わないのである。コアでディープなファン向けである。

 いきなり下地ゼロ、知識の地固めなしにこれを観たら、レノンが生前皮肉っていたように、「単にバンドの消滅をフィルムに収めた作品」という退廃的な気分になるからだ(笑)。彼らの楽曲やパフォーマンスに対して揺るぎない敬愛を持ってから観るべき映画であると僕は考えている。それを持てば、ルーフトップのライブなんて最高だし、警察が市民の苦情を受けて、止めに入るまでの数十分がドキュメンタリー映画っぽいのでそこは見応えもある。


 もちろんここに挙げた手順は、再度になるが初心者向けということと、僕個人の考えたものだ。言うなれば、易から難へとレベルアップが前提の演繹法としての習得法である。でも、いきなり解散前の映画『レット・イット・ビー』を観て結論を知ってから、逆に帰納法として、初期の映画に遡るのもありだ。習得法は人それぞれなのだから、他人ひとさまの嗜好性に、とやかく僕も立ち入ろうとは思わない(笑)。それこそレット・イット・ビー(なすがままに・あるがままに)である。ゆるりとご自由に!

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