第103話 僕のさび付いた栃木弁?

 かなり前の回で簡単に書いたことあるんだけど、久しぶりにこの主題を選んでみた。この主題を書くために、YouTubeの栃木弁番組を二〇本近く視て再確認してみた。結構、アップしている人が多いのにも驚いたし、地域によって全然違うことにも驚いた。県北(これ栃木だと「けんぽく(半濁音になります)」って読みます。絶対ワープロなら変換候補に出ないヤツ・笑)から県南まで多種多様だ。


 僕はもう栃木を出て四十年近いので、おそらく僕の栃木弁はおかしい、と思う。おかしいというのは、ネイティブではない話し方のため、他県民が真似しているような感じになってしまうということだ。


 イントネーション、アクセントはやはりその場で生活していないと廃れていく。それか現地に住む仲良い知人や友人と定期的に会って会話していないとダメである。僕の身近な友人は皆、東京方面に出てきているので、生きた栃木弁は親などの身内の話す言葉だけだ。でも年齢が違うので、僕の世代の話す栃木弁ではない。

 僕は南部地域出身なので、栃木、佐野、足利、小山あたりに通う、あるいはそこから通ってくる友人たちと二十歳前まではよく話していた。

 なので実は県北地域の方言はあまり知らない。一〇〇キロも離れた黒磯や塩原などの同じ年代の知り合いはほとんどいなかった。


 他の地域の人にも分かりやすいように、単語で挙げていこう。文章は以前に簡単にやってみたので、今回は単語のみ。

「だいじ」、「むちっける」、「でれすけ」、「ぼっこす」、「おっかく」、「かんます」、「いじやける」、「よういじゃねえ」、「こわい」、「ほっけ」、「しゃーねん」、「うっちゃちゃえ」、「おばん(です)」、「ちくらっぽ」「したっけ」、「おもてうら」、「うらんち」、「てれんこ」、「いきあう」、「おにむし」、「ちんにくる」、「ちっとんべ」、「くれっけ」、「くれっから」、「らせ・やせ」、「そんなん」、「やだんじゃねん」、「ひやす」などかな。

『これらは後でえ、文末に標準語訳入れっとくっかんね(笑)。多分、単語だけじゃ、東京モンにはわっかんねんじゃねんけ?』


 マスコミなどがよく取り上げる栃木弁で「ごじゃっぺ」や「こむ」というのがあるけど、僕は使ったことがない。住んでいた当時聞いても、多分意味も分からなかったろう。僕は佐野と足利の言葉が基本なので、結構な地域差のある言葉がそこそこ存在する。


 よく巷では栃木は会話文末に「だべ」と使うというのだが、僕の生まれた土地のあたりでは「だんべ」である。栃木市の友人は「だべ」と「だんべ」は使用率ほぼ半々だった。岩舟、藤岡方面は「だんべ」、西方にしかた方面は「だべ」である。佐野、足利近郊生まれ在住だった祖父も祖母も「だんべ」だったなあ。一説には「だんべ」は群馬弁ということを聞いたこともある。また同じ使い方でも「るん」、「ねん」で代用するのもあった。

 具体例を挙げると、念を押す再確認の場面でよく使う会話。付加疑問的な質問の際に「だめだんべえや?」を「だめじゃねんけ?」に変えてもOKなのだ。微妙なニュアンスの違いもあり、文意にもよるのだが、両者はほぼ置き換え可能なはずだ。

 また「蚊」には「刺される」のではなく、「喰われる」のである。栃木では「蚊に喰われる」のである。


 そしてかつての僕のように標準語と栃木弁はほぼ一緒と勝手に思い込んでいた栃木人は、南関東に出てくると通じない言葉や言い回しの多さに驚く。神奈川に出て来る前は、関東全域で通じると思っていた言葉が意外に通じない。

 有り難いのは転居当初、湘南地域は語尾に「ベ」をつけても不自然ではないので、誤って栃木弁の「べ」をつけても不自然ではなかったので救われた感じだった。たまたま両地域とも語尾に「べ」を持ってくる地域だった。

 いまも住んでいる人たちの大部分は、かつての僕がそうだったように、標準語と思って栃木弁を話すのである。なまじ八割がた言葉が通じてしまうため、全部が東京の言葉と一緒と思っているのである。神奈川県に転居して初めて、単語ごとに通じる物と通じない物を知る感じだ。「上京栃木人あるある」のネタだ。


 では最後に答え合わせ。

「だいじ」=「大丈夫」

「むちっける」=「一生懸命」

「でれすけ」=「ぼんくら」

「ぼっこす」=「壊す」

「おっかく」=「割る・折る」

「かんます」=「(風呂やナベの中を)かき回す」

「いじやける」=「いらいらする」

「よういじゃねえ」=「大変」

「こわい」=「疲れる」

「ほっけ・そっけ」=「ふーん・あっそう(相づち)」

「しゃーねん」=「仕方ない」

「うっちゃちゃえ」=「捨てちゃえ」

「おばん(です)」=「こんばんは」

「ちくらっぽ」=「うそ・でたらめ」

「したっけ」=「そうしたら」

「おもてうら」=「反対」

「うらんち」=「後ろの家」

「てれんこてれんこ」=「だらだら」

「いきあう」=「出くわす」

「おにむし」=「クワガタ(地域によってカブトムシもいうかな?)」

「ちんにくる」=「つねる」

「ちっとんべ」=「ほんの少し・わずかばかり」

「くれっけ」=「ちょうだい」

「くれっから」=「あげるね・やるよ」

「~らせ(な)・やせ(な)」=「~したら・すればいい(勧誘)」

「そんなん」=「そうなんだ(相づち)」

「やだんじゃねん」=「嫌ね・嫌だわ」

「(食器類を)ひやす」=「水につける・ひたす」

 前回の記事でも書いたけど、僕の栃木弁はもう四十年前のもので、言語は進化するから、生きた栃木弁ではない可能性が高い。またごく狭い地域でしか通じない集落単位の方言などもあるので、必ずしもこれが標準的な栃木弁ではないと思う(標準的な栃木弁ってあるのかな?)。そこは考慮してお読み頂けるとありがたい。


 よく言われるのが、若者言葉を卒業すると自分のプレーンな言葉が出てくるというのだが、僕の場合はほぼ栃木弁は出てきていない。登壇していた仕事が長すぎたのかな? わりと標準語の話し言葉である。まあ、さび付いているのは栃木弁と言うよりも、僕のざっくばらんな日常語なのかも知れない。

 ではまた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る