第91話 ミステリー小説の話
小説の話である。ミステリーサークルの話ではない。当たり前か(笑)。
ご存じトラベルミステリーとか観光地ミステリーっていう、我が国特有のジャンルがある。おそらく今日ではそういうジャンルとして確立しているのではないかと言っても良いと思う。時刻表を照らし合わせて、逃亡ルートと追跡ルートの確保をするという鬼ごっこのような展開に観光地の名所名物を入れて、温泉も入れて、旅行気分を味わうような小説と僕は認識している。テレビ化したものも多く僕が若者だった八十年代から九十年代にはおじさんウケの良い番組だった。
更に観光地ミステリーというジャンルでは、京都、奈良や鎌倉などの有名な観光地が舞台で、誰もが知っている観光施設などが出てくる。これはこれでありな設定だ。行ったことのある有名観光地や施設が出てくるだけで共有感があって、読書が進むものだ。
似たようなモノを書けと言われるとムリなのだが、ちゃんと密室トリックなどを入れて展開するので推理小説だしミステリー小説ではある。ポアロやマープルのようなクリスティ作品のおもしろさと観光地の旅行気分をミックスして味わえるのが良い部分の作品である。
また二時間ドラマにしやすかったため、かつての土曜ワイド劇場や火曜サスペンスなどでもしきりにメディアミックスにされたジャンルである。乱歩かトラベルミステリーだったよな、当時は。
クリスティの事を出したので話ついでに書いておこう。
僕自身はというと、クリスティは何冊か読んだ。『そして誰もいなくなった』とか『オリエント急行殺人事件』などの定番、王道作品だけだが、結構オチの展開が好きだ。それまでの推理小説の常識を打ち破った答え合わせに驚かされる。あんなの予想もしないし、もし後発の人が真似したらクリスティのパクリだろうって言われるの間違いない。列車内や家屋内に残された捜査段階での登場人物たちの人間模様や証言が活き活きと描写されていた。それらを何人分も幾重にも重ねた厚みの中で警部や探偵の推察が熟成され、推理小説の中でも、よりしがらみや愛憎などを絡めた人間模様とトリックに技巧された内容の濃い物語が一体化して紡がれていたという感覚だ。
そういう意味では「金田一少年の事件簿」という作品はこの雰囲気を持っているマンガだったな、と感じて当時読んでいた記憶がある。
クリスティに戻ると、とりわけ「オリエント急行」は何度か読み直しているので、ひとりひとりの証言とアリバイが完成度も高くこれをどうやって処理するのかという部分と偶然が引き起こした産物という部分で結論に向かうところが面白かった。
「ミス・マープル」については、テレビシリーズがあったので、当時真面目に見てみれば良かったなあ、なんて思った記憶もある。結局はちゃんと見ずじまいだったが。
クリスティはプロット先行の作者だが(勝手に僕が思っているだけですよ)、キャラクターの個性も今日の基準とは違う描き方だが、それぞれの特徴を上手く載せて、プロット進行に活きるように出来ていた。かなりキャラを如実に引き出すことの出来た作者と思う。よって僕が尊敬できる小説家のひとりなんじゃないかな? なんて言っているけど、僕は推理小説なんて書けない。けど、作品の読者の立場としてはそう思う。舞台も、描写心理も、トリックも、オチも全てにおいて超一流の小説家であることは間違いない。
え、マリン嬢があるだろうって? いや、あれ、推理小説ですか? 僕の中ではドタバタコメディなんですけど(笑)。
さてそんなこんなでバレンタインデー。僕には何の関係もない日だ(笑)。春のような陽気に包まれた本日。少々目の周りにかゆみを覚えた。これが冬の腰痛が終わると、あるいは終わる前の同時期に重なってやってくる僕の抱える面倒ごとのひとつなのである。早めに春のあれは終わってくれるといいな。まだ腰痛よりはマシだけど。ではまた。
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